レポート−商標

アジアにおける商号と商標権との関係

日本において会社の名称は「商号」として会社法、不正競争防止法、商標法等によって保護されています。しかし日本では全く同一の商号であっても、本店所在地が同一でない限り登記することが可能です(商業登記法27条)。また商標権侵害が成立するためには、商標が出所識別機能を果たす態様で使用されている必要があり、自己の名称等を普通に用いられる方法で表示する商標には、商標権の効力が及ばないとされています(商標法26条1項1号)。従って、必要に応じて商号を商標登録することが推奨されています。
それではアジア各国において商号と商標権はどのような関連性があるか、商号を商標権として保護することが有効なのか、以下の4か国を例に検討しました。

国名 法律 機関 制約 第三者が登録した
商号への対応
インド 会社法、商標法、コモンロー上のパッシングオフ(詐称通用) 会社登記局
(Registrar of Company)
申請する商号が既存の商号又は登録済みもしくは出願中の商標と同一又は著しく類似する場合、当該商号による侵害者の設立は認められない(2013年会社法4条2項) 登録商標をベースとする場合、商標権者が中央政府へ申立てを行い、商号変更命令を得なければならない。
未登録の商号であっても、パッシングオフが認めらる場合は使用の差し止めが可能
シンガポール 会社法、商標法、コモンロー上のパッシングオフ(詐称通用) 会計企業
規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authorigy, ACA)
申請する商号が既存の商号と同一又は著しく類似する場合、商標法の手続に従い、裁判所によって使用が禁止されている商号の登録は認められない(会社法27条) 登録官に対して商号変更の指示を請求できる(会
社法27条2A項)。自社の商号が登記前であっても請求可能だが、実務上は難しく、商標権侵害又はパッシングオフに基づいて対応する
マレーシア 会社法、商標法、コモンロー上のパッシングオフ(詐称通用) マレーシア
企業委員会(Companies Commission of Malaysia, CCM))
登録商号の翻訳、類似・誤認される商号、登録予約した商号と類似・誤認され得る名称は登録できない 登録官に対して商号変更命令を請求できる(会社法23条)。未登録の商号であっても、パッシングオフが認めらる場合は使用の差し止めが可能
中国 企業名称登記管理規定、商標法、反不正当競争法等 工商行政管理機関 審査確認又は登記名称と同一又は一定の類似性が認められる名称を同業種の企業等が登記することはできない。他の企業が名称変更してから満1年が経過していない元の企業名称や、登記抹消又は営業許可の取消から満3年が経過していない企業と同一の名称は登記できない。 工商行政管理機関に名称変更を請求できる。
第三者の登記以前に自社が当該第三者の屋号と同一/類似の商標を登録している場合は商標権侵害/反不当競争法に基づき名称変更、使用差し止めを請求できる

インド、シンガポール、マレーシアは英米法に属する法体系の国であり、パッシングオフが認められます。しかしパッシングオフが認められるためには、いずれの国においても①申立人が自己の商品、名前又は標章についてグッドウィルを獲得していること、②商品・役務の消費者が当該商品・役務を申立人のもの又は申立人に関連すると信じるような表示が行われていること、③申立人に損害が発生している又はその虞があることを証明する必要があります。
ただし、この場合のグッドウィルはインドではインド国内のものでなく、国際的な名声が認められるものとされ、シンガポールやマレーシアでは同国内での名声が必要となります。

シンガポールとマレーシアでは更に本登記の前に登記機関への予約手続が必要となります。両国においてはまずACRA又はCCMに予約手続を行わなければならず、この期間にこれらの機関が登録可能かどうかをチェックします。

大陸法に属しますが、中国においてもこのような“事前確認”の手続が採用されています。中国の会社名は以下4つの要素で構成されています。

  1. 行政区画
  2. 屋号(「字号」2文字以上が原則。この部分が主要な標章となります)
  3. 業種
  4. 組織形態

例:上海 吉利美嘉峰 国際貿易 股份有限公司 (Geely International Corporation)

中国において会社名は必ず行政区画を含みますが、まずその行政区画の工商行政管理機関において事前審査確認手続を行い、その後6か月の間に本登記を行わなければなりません。

各工商行政管理機関は管轄行政区画において、同業種に存在している会社名を検索し、同一・類似の会社名がなかった場合、直ちに登録確認を行います。従って、利害関係者に異議申立等の救済手段はありません。従って中国においては日本と同様、行政区画が異なれば同一・類似の会社名についても登記可能であり、業種が異なれば同一行政区画内においても同一・類似の会社名が併存することになります。

以上同じアジア圏においても、法体系として英米法に属する国、大陸法系に属する国で違いがあり、更に同じ法体系に属する国においても各国毎の制度の違いがみられます。その上で商号を登記していても、第三者の使用を必ずしも阻止できるとは限らず、自社の事業分野に関しては併せて商標権も取得しておくことをお勧めします。

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