レポート−商標

ASEAN・インドにおける模倣・海賊品の実情とエンフォースメントスキーム(民事責任規定)について

2015年末、いよいよASEAN(アセアン)経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足します。AECはよくEU(欧州連合)と比較されますが、EUは法整備や金融政策の統合等より緊密な連携であるのに対し、AECはあくまで経済協力に限定しているのが一番の違いとなっています。AECにより、域内の「モノ・ヒト・カネの動き」の自由化が進み経済活動の更なる活性化が予想されています。これは具体的には域内の関税撤廃による「モノ」の自由化、ASEAN諸国の国籍を有するものへの短期滞在ビザ撤廃による「ヒト」の移動の自由化、出資の規制緩和による「カネ」の移動の自由化となります。
一方、中国の経済成長率が6%台に鈍化したと騒がれる中、IMF(国際通貨基金)が2015年4月に公表した世界経済見通しでは、2015年にはインドが中国の経済成長を上回ると予測しています。更にOECD(経済協力開発機構)が発表した5月の同見通しでも、逆転は2016年に起こるとされています。
こうした経済動向が目まぐるしく展開する中、ASEAN・インド地域において近年、知的財産権の登録件数が増加しています。これは知的財産権所有者の間でこれらの地域における権利保護の意識の高まりを示すものと言えます。しかし、一方で模倣品・海賊品の横行も激しく、年々増加の傾向にあります。上述の通り、ASEANの協力体制は経済にフォーカスされており、これらの地域において法体系自体はコモンローから民法まで各国で異なるため、どのような救済措置があるかは国ごとに調べる必要があります。
そこで以下にASEAN主要6か国とインドの模倣品・海賊品の実情とエンフォースメントをまとめます。

フィリピン

模倣品・海賊品に関する実情

ハンドバック、財布等ブランド商品、医薬品、化粧品の模倣品、CDやDVDの海賊版が多く、販売ルートもショッピングモールから路上の屋台まで多岐に渡っています。2012年には特に中国からの模倣品バイクが急増し、日系4社の販売が前年より減って問題となったことがあります(日本経済新聞2012年11月30日)。特に首都マニラをはじめ、その周辺のマンダルヨン、ケソン市で模倣品が多く流通するといわれています。

流通ルート

殆どが中国製であり、中国からマニラへ直接流れるもの、シンガポール・マレーシア経由で流入する2つのルートがあるといわれています。

権利行使を行う機関
刑事措置 フィリピン国家警察(PNP:Philippines National Police)
国家捜査局NBI:National Bureau of Investigation)
行政措置 知的財産庁権利行使局(IPO-IPR Enforcement Office)、貿易産業省(DTI:Department of Trade and Industry)、光メディア委員会(OMB:Optical Media Board)
税関差止 税関(BOC:Bureau of Customs)
  • PNPのAnti-Fraud and Commercial Crimes Division (AFCD)に知的財産権保護セクションがあり、フィリピン全土における知的財産権法の執行を担当します。NBIにも知的財産部(Intellectual Property Rights Division)があり、摘発を行います。PNPとNBIの取締の手続は同一であり、管轄範囲、対象とする被害金額等においても特に役割分担は明確にされていません。
  • 公的機関は自ら詳細な調査は行いませんが、サンプル品提出後、確認のため再度サンプル購入し、模倣品である旨を確認してから摘発することもあります。
  • 行政によるエンフォースメントについて、被害総額が20万ペソ以上の場合は知的財産庁(IPO)へ、未満の場合は貿易産業省(DTI)へ要請しますが、貿易産業省は当事者間の話し合いによる和解を勧める傾向にあります。
問題

手続が煩雑であり、かつ全てに非常な時間を要します。商標侵害や不正競争に関する訴訟の終結までに、簡単な事例であっても第一審で2-3年、控訴審と最高裁でそれぞれ3年以上かかることも多くあります。また、知的財産庁による行政摘発については、検査対象の建物の代表者、従業員、所有者に対して目的を説明しなければならない等、有効性に疑問が残っています。

ベトナム

模倣品・海賊品に関する実情

ベトナムは国境線が陸海ともに長く、カンボジア、ラオス、中国と複数の国境を接しているため、国外から国内へ模倣品の流通は後を絶ちません。模倣品の60%は中国や隣国から輸入されているといわれ、主に化粧品、医薬品、食品、衣類、カバン、プログラム、バイク部品等の模倣品・海賊品が多くあります。また、最近は海外製品だけでなく、ベトナム産の製品に対する模倣品も増えているといいます。ベトナムは国境での水際取締を強化しているものの、国境線が陸海ともに長いため、全てのエリアで監視するのは困難となっています。
模倣品・海賊品は特にハノイを中心とする北部、ホーチミンを中心とする南部から全国へ渡ります。

流通ルート

海路、陸路、その他旅行者の持ち込み等様々なルートがあります。
海路では香港から南部のホーチミンや中部に位置し、貨物取扱量国内第三位のダナン港(ティエンサ)経由で国内に入るルートがあります。
また、陸路では中国への越境ルートは3つの代表的なものがあると言われ、それぞれ

  1. ① ハノイ→モンカイ→中国広西チワン族自治区の東興にたどり着くルート
  2. ② ハノイ→ラオカイ→中国雲南省にたどり着くルート
  3. ③ ハノイ→ランソン、ドンダン→中国側の凭祥に入るルート

がありますが、これはそのまま模倣品の流通ルートになっており、特に①②に多く見られます。

権利行使を行う機関
刑事措置 公安省経済警察(MPS:The Ministry of Public Security, Economic Police Office)
行政措置 科学技術省監査部(MOST)-産業財産権監査局
商工省(MOIT)-市場管理局(MMB)
文化スポーツ観光省(MOCST)-文化監査局
税関差止 税関総局(GDC)
  • ベトナムは複数の行政摘発機関があり、知的財産権の模倣品に関しては行政措置が選ばれることがよくあります。
  • 行政権利行使にあたってはベトナム知的財産庁(NOIP)による侵害判定書を入手し、担当官への提出が求められます。
  • 刑事罰は侵害行為が消費者或いは公共の利益に重大な害を及ぼす際に適用されます。
  • 経済警察と市場管理局が連携して動くことも多く、これらの機関と友好的関係を築いておくことが有効であるといわれます。
問題

度重なる法改正に対して執行機関が追い付けない状況があり、複数の機関が関与するため、複雑な執行手続になっています。また、行政手段が通常であるが、比較的小規模の事業者を対象としており、罰則の低さや賠償がないことから抑止効果が限定的であるといわれています。

タイ

模倣品・海賊品に関する実情

アジア有数の観光大国であり模倣品が多く出回る市場ですが、国内のみならず外国人観光客からの需要も多くあります。このような高い需要からタイ全国いたるところで模倣品が入手可能であり、巨大な模倣品販売市場が形成されています。このため、侵害品種類やその販売方法もターゲットとなる客によって様々となっています。
模倣品は国内で製造されたものと輸入品があるといい、輸入品は機械部品、電子部品等高度な技術が要求されるものが多くあります。

流通ルート

輸入品は特に中国からのものが多く、海路又は近隣国から陸路で密輸されます。
海路の場合、バンコク港(Klongtoery)又はLaem Chabang港(タイ最大の海港)からタイ国内に入るケースが多くあります。
陸路の場合はラオス、カンボジア、ミャンマーを経由することが多くあります。
またインターネットの普及に伴い、オンライン市場での模倣品販売も問題となっています。

権利行使を行う機関
刑事措置 法務省特別捜査局(DSI:Department of Special Investigation)
経済犯罪部(ECD:Economic Crime Suppression Division)
行政措置 知的財産権局
税関差止 税関(The Royal Thai Customs)税関捜査・抑圧局(Investigation and Supression Bureau)
  • DSIは国家経済、保安、安全、社会に影響を及ぼす特別ケースの対応と捜査による防止、管理を行い、同長官が承認した事案のみ扱います。
  • ECDは皇族の安全維持、国家保安、経済犯罪等を扱います。
  • 知的財産権局は、著作権は管轄しませんが知的財産権に関する紛争の仲裁手続を提供しています。仲裁は知的財産局長官に請求し、長官が法務部へ請求を移送します。権利者の主張が正当なものであると認められた場合、法務官は相手方に書状を送り、仲裁のために召還します。
  • タイには税関やその支局に知財専門の担当官は存在せず、税関に関する犯罪の調査、取締、差押物件の処置に対しては捜査・抑圧局が責任を有します。
  • 国立知的財産権行使センター(NICE:The National Intellectual Property Rights Center of Enforcement)
    各省庁間の高度な協力を要する事件の取扱いまたは重大犯罪、組織犯罪の防止を強化をも目的として2014年5月に開設されました。また、インターネット詐欺、模倣製品のオンライン及び直接販売等最近多発している犯罪も扱っています。
問題

タイの模倣文化はかなり普及しており、特にインターネットの普及により販路がさらに拡大しています。また、タイは伝統芸能の優れた職人も多く、年々模倣品のレベルも高度化しています。
このような状況に反して公的機関の整備の遅れが指摘されています。例えばECDで知的財産権行使を担当する警察官はわずか30名であり、かつ商標に関する知識が不足しているため周知でないブランドに対する対応が遅れています。したがって商標や商品に関する理解を深めるよう商標権者・著作権者からの情報提供、知識供与が不可欠だといえます。

マレーシア

模倣品・海賊品に関する実情

ASEANの中でシンガポールに次いで知的財産の保護が進んでいるといわれ、知的財産裁判所の設立、著作権法の改正を行い、知的財産権の保護強化を目指しています。
しかし模倣品・海賊品が広く流通しており、プリンターの消耗品や特に海賊版光ディスクは国内のみならず北米、南米及びヨーロッパへ輸出され、大きな社会問題となっています。また医薬品の模倣品も多く、パッケージが偽装されているもの、成分が間違っているもの、有効成分が不十分なものが多く、一般消費者にとって深刻な脅威となっています。模倣品・海賊品は特にクアラルンプール、ジョホールバル等の大都市に多く見られますが、複数のフリートレードゾーン(FTZ)があるため、FTZも流通ルートとなっています。

流通ルート

国内で製造されているものと中国、タイ、インドネシア等の製造コストの低い国から輸入されるケースが多くあります。

権利行使を行う機関
刑事措置 警察(RMP:Royal Police of Malaysia)
行政措置 国内取引・協同組合・消費者省(MDTCC:Ministry of Domestic Trade, Cooperatives and Consumerism)
税関差止 税関執行課(JKDM:Royal Malaysian Custom Department, Enforcement Division)
  • 2011年からMDTCCは商標権保護を目的とし、BOB(Basket of Brand)というデータベースを運営しています。BOBに自社の商標を登録すると、MDTCCの執行部門(Enforcement Division)が登録されている商標の捜査や押収を率先して行うというものです。
    実際の効果について何人かの現地代理人に聞いたところ、B to C向けのブランドに関しては有効ですが、B to B向けのブランドに関しては難しいということです。
問題

マレーシアの侵害者は非常に巧妙でシンジケートや犯罪組織によるものも多くあります。特に半製品を中国やインドネシアから輸入し、マレーシア国内で組み立てを行う場合、権利行使を行う前に十分な調査が必要となります。
税関差止の制度はありますが、実際にはあまり機能していません。

シンガポール

模倣品・海賊品に関する実情

アジアの知財ハブを目指すシンガポールの知的財産権関連法は整備されており、国内での模倣品は減っているといわれます。しかしまだソフトウェア、携帯電話関連部品、衣類、キャラクター製品等について模倣品が流通しています。
地理的には東南アジアの積替港であり、同国自体が模倣品の流通ルートとなっています。

権利行使を行う機関
刑事措置 刑事捜査部知的財産権室(IPRB:Intellectual Property Rights Branch)
税関差止 税関(Singapore Customs)
  • 裁判所への申立による捜査令状の発行を受けてIPRBが執行に適した日時を決めてレイドを行います。権利人及び代理人も立ち合いが可能です。
  • 税関による職権の差止はありますが、権利者からの申請による差止では輸出品は対象となりません。
問題

アジアのハブとして多くの貨物が流通しますが、税関での権利者による差止請求は輸入品についてのみであり、輸出品についての差止はできません。

インドネシア

模倣品・海賊品に関する実情

15,000以上の島で構成され、東西5,000キロを超える広大な国であり、腕時計、化粧品、インクカートリッジ、潤滑油、電子部品等様々な模倣品が流通していますが、特に医薬品の模倣品は大きな社会問題となっています。
模倣品はスラバヤ、メダン、スマラン、バリクパパンといった地域に多く、電気製品や自動車部品は首都ジャカルタより地方都市に多いといわれています。インドネシアには首都ジャカルタにアジア最大のショッピングモールがあり、模倣品が多数流通しています。

流通ルート

模倣品は中国から流入するもの、マレーシアやタイ等の周辺国経由でくるものの2つに分かれますが、ジャカルタ、スラバヤ、メダンはインドネシアでも有数の港湾であることから模倣品の流通ルートであると考えられます。

権利行使を行う機関
刑事措置 インドネシア国家警察(POLRI)
税関差止 税関総局(DGCE:Directorate General of Customs and Excise)
予防調査局(Directorate of Prevention and Investigation)
  • 知的財産総局にも一定の捜査権限がありますが、捜査に協力するのみであり、刑事摘発の一環となります。
  • インドネシア税関総局には8つの部局があり、うち予防調査局が知的財産権侵害品の取締を行います。
問題

インドネシアにおける摘発件数は増加傾向にあり、特に著作権侵害に関するものが増加しています。これは権利意識の高まりとともに、登録なく発生する著作権について模倣が広がっている可能性があり、今後インドネシアでの著作権登録はお勧めします。
一方、実際に複数の島国を抱えるインドネシアでは税関による取締は効力を発揮しにくく、一度国内に流入すると地理的特性、複雑な販路から追跡調査が難しいという問題があります。さらに経験を積んだ調査会社の不足、汚職問題なども問題の早期解決への妨げとなっています。

インド

模倣品・海賊品に関する実情

インドは大規模な消費・輸出入市場です。北部はニューデリー及びその周辺のパンジャブ、ハリヤナ、ラジャスタンの各州が、東部はコルカタ、南部はバンガロール、チェンナイ、西部はムンバイが製造・流通のハブとなっています。このようにインドにおける模倣活動は特定の地域に限定されたものではなく、全国に分散されています。
主な模倣品・海賊品としては自動車部品、アルコール飲料、電子部品、日用消費財、携帯電話のパーツ等があげられます。
近年同国では登録出願件数、著作権数が急激に増えており、特に数年前には見られなかった中小企業からの出願が増加し、これは商標については侵害訴訟提起等の登録によるメリットが認識され始めた結果とも考えられます。著作権に関していえば、訴訟件数が減少しているにも拘わらず登録件数は増加しています。これは他の知財と比較し著作権侵害は認められやすい傾向にあり、損害賠償額も高額なためと考えられます。

流通ルート

中国からのものが多いが、国内で製造されたものも増えています。国内製品の場合、首都デリーで模倣品の75%近くが生産されているといわれます。

権利行使を行う機関
刑事措置 警察庁、検査官補佐以上
税関差止 税関総局
  • 通常警察庁以上の職員が商標権侵害を、検査官補佐以上が著作権侵害を担当します。摘発にあたっては真贋鑑定ができる専門家の同行が求められ、商標権侵害の場合は商標局による確認が求められます。
  • インド税関は権利者が自己の知的財産権の侵害品又は侵害疑義品の通関保留を求める税関長への通知をオンライン登録するICEGATEというシステムを提供しています。
問題

インドは技術的進歩が目覚ましい国ですが、反面こうした技術が模倣品・海賊品に転用され、質の高い侵害品が製造されるケースが増えています。またオンライン市場も展開されており、ネットにおける模倣品・海賊品の取引も増加しています。刑事訴訟は相対的に時間がかかり扱いにくいものであるため、レイドが成功したとしても長期的にみて希望した効果が得られないケースもあります。例えば捜査報告書(charge sheet)の提出が遅れた結果、3年の出所期限を過ぎてしまい、自然消滅しているケースも珍しくありません。また証拠の保存が不適切で、資料が損傷・紛失したことも多くあります。インドにおいては民事訴訟においてもやり方によっては同じ効果を得られる場合があるので、対応法については現地の経験を積んだ弁護士とよく相談する必要があります。

以上になりますが、いずれの国においても権利行使機関は十分な資力と人材を抱えているわけではなく、限られたキャパシティから最大限の効果を上げるため、模倣品・海賊品についても比較的自分たちにとってわかりやすい、鑑定の簡単な商品のみを積極的にチェックする傾向にあります。更に、検査の結果侵害品と確信し、権利者に通知しても権利者が無反応である場合、失望し、そのブランドに対しては次回以降発見しても連絡しないか、他のブランドにシフトする可能性があります。
このような状況を回避し、行政・警察機関、税関と友好的な関係を作るためにも、現地代理人を通じて積極的に商品の情報や真贋鑑定の方法を提供する等、権利者側の努力も必要となります。また、行政・公的機関からの通知に対しては例え侵害品ではなかった場合でも、謝意を表す等、積極的な意思表示をすることが望ましいと言えます。

また一部の国では商標権のほかに著作権での対応も有効であるため、著作権登録がある国については早期に登録しておくこともお勧めします。

マークアイでは日本企業の皆さまと世界各地の権利行使機関職員との協力関係を築くべく、これらの職員を対象としてセミナーを世界各地で開催する代理人と連携し、日本企業の知的財産権、商品について情報を共有するサービスを提供しています。またASEANにおける著作権登録支援も承っております。

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