2021年10月15日ブランディングネーミングのためのコミュニケーション術 ~プロジェクト担当者へ贈る言葉 (前編)~
―――これまで6回にわたりネーミングを進めるうえで登場する怪獣たちについてご紹介いただきました。コミュニケーション不足で誕生する怪獣が多かったことに驚きです。
西岡 そうですね。コミュニケーションの取り方1つで避けられるトラブルも多いと思います。
―――自分では上手くできているようで出来ていないコミュニケーション。ネーミングにおける適切なコミュニケーションとはどのようなものなのでしょう?
西岡 今回は商標担当者とプロジェクト担当者のコミュニケーションについてお話します。まず前提として何かうまくいかない時「どちらかが悪い」ということでは無く両者が歩み寄ることが大事だということです。弊社はどちらの立場のご担当者とも仕事をする機会が多いので、それぞれのお立場が良くわかります。
今回はそんなお互いのコミュニケーション不足を解消するための第1弾として「プロジェクト担当者に贈る言葉」と題し、商標担当者の本音を代弁しながら解説していきます。
―――ネーミングプロジェクトにも商標にも関わっているからこその、リアルなお話ですね。
✔ 異なるミッションを理解しよう
西岡 コミュニケーションについてお話するその前に、商標担当者の会社での役割、ミッションってご存知ですか?
―――言われてみるとあんまり考えたことが無かったですね・・・
西岡 当たり前すぎて忘れられがちですが、会社という組織である以上、部門そして個人の業務にミッションが与えられています。そして立場が違えば、もちろんミッションも違います。コミュニケーションの手法云々のその前に「相手の立場やミッションが何なのか?」を「理解をすること」、また「考えること」は非常に大切だと思います。
―――まずは「相手の立場を理解する、考えてみる」ということですね。
西岡 はい。ネーミングを作る時も「買ってくれる人の立場になって考える。」ことは最も大切な目線の1つです。
―――なるほど、確かにその通りですね。そうすると商標担当者のミッションは「商標の権利化」ではないですか?
西岡 そうですね。商標の権利化またそれに関わる全ての事柄が日頃の主な業務となります。
―――ですよね?しかしそれは他の部署の方々も理解されているのではないでしょうか?
西岡 商標担当者の日頃の主な「業務」はその通りです。しかし、商標の権利化はあくまでも「手段」であり「目的」ではありません。本来の商標担当者のミッションは、
①「他者との商標権におけるトラブルの回避、リスクの回避」
②「権利化した知的財産の経営戦略などへの活用」
です。
―――つまり「『普段の業務=本当の目的・ミッション』ではない」ということですか?
西岡 その通りです。「他者との商標権におけるトラブルの回避、リスクの回避」という「目的」ために、「手段」として商標権の取得が必要です。「権利化した知的財産の経営戦略などへの活用」という「目的」のためにも、もちろん土台となる「権利化された知的財産」つまり商標権が必要です。
―――あくまで商標の権利化は手段であり、本来の目的は「トラブルの回避、リスクの回避」、「知的な財産としての活用」なんですね。
西岡 商標権についてトラブルが生じた多くの場合、商標担当者が矢面に立って対処しなければなりません。そして大変残念なことに商標担当者の業務の多くは「出来ていて当たり前。トラブルが起こらなくて当たり前。」と評価されがちです。普段は陽の目をあまり見ない。しかしトラブルが発生した時には目立つしその責を問われる。そしてもう1つの目的である「知的財産の経営戦略への活用」については適切に実行している会社がそもそもまだごく少数です。
―――なるほど。確かに商標権関係でのニュースを耳にするとき、なにかトラブルの話題ばかりな気がします。逆に明るい話題で商標権のニュースを目にする機会は非常に少ない印象です・・・。
西岡 そうでしょう?この商標担当者の立場やミッションを考えた場合、チャレンジングなアクションは起こしにくいと思いませんか?すごく慎重になる理由が少しはイメージできませんか?
―――確かに、すごく神経質にそして慎重になりますね。
西岡 そうなんです。前にもお話しましたが、商標権はその道のプロでも「白」「黒」はっきりさせることはできません。案件都度で無段階のグレーの濃淡を特定する必要があります。また原則が早い者勝ちの権利の為、既に商標権として他者に取得されているネーミングは「極めて旗色が悪い=既にトラブルにつながるリスクが高い」ことがわかっている選択肢であるといえます。もちろんライセンスを結んだり、回避する手立てを探したりとテクニカルな手段も考えられます。しかしそれらを実行するには当然、費用も労力も必要となります。
―――なるほど。
西岡 さらには商標権の調査や出願には多額の費用と長い時間がかかります。つまり費用と時間を費やしたにも関わらず、結果として「商標権として取得できませんでした」「他者とトラブルになりました」となってしまう可能性が常に付きまとうわけです。
―――リスクの判断が白黒つけらえず難しいのに、周りからは「リスク回避を出来ていて同然」と評価される。さらに結果が出るのに長い時間を要し、多額の費用も発生する。またトラブルになった場合にはその対応も矢面に立たされる・・・。これらの状況を考えると確かに、極力リスクの低い選択肢を選びたくなる気持ちがよくわかります。
西岡 もちろん「商標担当者『が』大変だ。」ということでは無いですよ?どの部門の方も大変ですが「大変なポイント」はそれぞれ異なります。そして、それぞれの立場を「少しでも知っている」のと、「全く知らない」のとではコミュニケーションの取り方は変わってくると思います。
―――おっしゃる通りです。今まで商標担当者から指摘されてきた事の意味合いや受け取り方が変わってきそうです。これらを踏まえ、次回は具体的なコミュニケーションについてお話いただきたいと思います。
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