2021年11月15日ブランディングネーミングのためのコミュニケーション術 ~プロジェクト担当者へ贈る言葉 (後編)~
―――前回から具体的に商標担当者とコミュニケーションを取る上で意識すべきポイントを2点ご紹介いただきました。
西岡 はい。お伝えした内容自体に意外性はないと思います。
―――個人的には「ネーミングの使用予定について「決まっている事」「未定な事」「絶対にありえない事」を明確にする。」という視点は特に参考になります。
✔道徳と根性論?
西岡 3つ目は「商標調査の結果が悪い場合、深追いはしない。」原則は固執しないことです。
―――「でも、似てないと思うけどなー」という声が聞こえてきそうですが・・・。
西岡 非常によく聞く声ですね。ただ、理解しておかなければいけないのは、何か障害となる権利が発見された場合、その障害は「市場で誤認混同されるかもしれないから」という観点ではなく、「商標出願した場合に障害となって自社の出願が権利化できない恐れがあるから」という観点にもとづくものだということです。
―――どういうことでしょうか?
西岡 要するに普通の感覚で「似てないなー」というものも、特許庁の審査では「似ている」ということで権利化ができないことも多いのです。もちろん、国によってその基準、レベルが違います。だからこそ、現地の専門家に調査をお願いすんですね。
―――自分の感覚で「似ていない」と思うのと、商標権の審査における「似ていない」は別モノ、だということですね。
西岡 その通りです。いずれにせよおススメするのは、道徳のように聞こえるかもしれませんが・・・
「逆の立場になって考えてみる」ことです。
自分が権利者で誰かがその商標を使用した場合、「嫌だなぁ、やっぱり気になるなぁ」と思うかどうか。もし「嫌だなぁ、気になるなぁ」ということであれば、あきらめるべきでしょう。逆に「いや気にならないけど」というのであれば、そこからなにか打開策はないか商標担当者が検討することになります。
―――なるほど、少なくともご自身の中で1つ明確な基準にはなりますね。
西岡 打開策は先にお話ししたように「本当に権利化の障害になるのか」という観点から過去の判例の調査を追加で行う、などの必要性が出てくることもあります。また検討しているネーミングの使用に関しても、発見された権利者の実態を調査する必要がでてきます。少なくとも競合業種なのか全然関係ない分野の会社なのかという点は確認して共有するべきです。
―――なるほど、聞くだけで大変そうですね・・・
西岡 関係ない業種であれば交渉の可能性などもでてくるでしょう。権利化についてもコンセントを受ける可能性も同時に評価できるでしょう。コンセントとは、国によりますが、権利者の合意があれば、先行商標を引例から除外してくれる制度です。現在のところ日本にはありませんのでその点は注意が必要です。
―――調べることは権利自体だけではなく周辺状況も確認する必要があるんですね。商標調査結果が悪かったネーミングへの思い入れが強くなんとかしたい場合は、費用や時間をかけてこれらを進めていく覚悟が必要ですね・・・
西岡 商標調査結果について議論する際は、商標調査結果そのものについての議論ではだけでは無く「商標調査結果を踏まえた上での商標担当者の率直な見解」も聞いてみてください。注意していただきたいのが、この場合「調査結果はきびしいけど、ぶっちゃけいけるのでは?」的な方向で接触しがちになることです。
―――たしかに、そういったコミュニケーションが目に浮かびます・・・
西岡 はい。そして商標担当者の「そうですねぇ・・・」という反応を引き出した挙句、万が一トラブルになった時「あの時商標担当がOKを・・・」といったはしご外しをする人がいます。こうなると、商標担当者とプロジェクト担当者の以降の関係は壊滅ですね。
―――その通りだと思います。
西岡 ここでの目的は「どこまでのリスクなのか?」を共有することであり、自分の責任の所在を逃げ道として確保することではない、ということを理解しておかなければなりません。責任論ではなく、ネーミングを使っていきたい熱意をしっかり伝える。ことが大切だと思います。
―――なるほど、ありがとうございます。最後の「ネーミングを使っていきたい熱意をしっかり伝える。」なんだか急に根性論みたいになりましたね。
西岡 そうですね、なんだか熱血指導塾みたいですけど。実は1番重要なコミュニケーションだと思います。
―――ここでの熱意とはなんでしょう?
西岡 これまで積み重ねてきた議論の重みを伴った「このネーミングでGoしたい」という思い、または覚悟を共有する、とでも申しましょうか。これまでお伝えしてきたネーミングプロジェクトの進め方ですが、結構大変な作業だと思いませんか?
―――とても大変だと痛感しています。
西岡 そうですよね?つまり決して「思いつき」や「なんとなく」ネーミングを検討してきたのではなく、プロジェクトメンバーでネーミングの要否を含めて込めたい思いや将来のビジョンなど整理し議論を尽くした結果、出てきたネーミング案であるはずです。そして、そのプロジェクトに費やす熱意を、もちろん商標担当者とも共有することは非常に大切です。
―――これまで色々とお話しいただいた内容がまさに凝縮されているようですね。
西岡 その通りだと思います。この覚悟を共有できると商標担当者も腹を括るというか、より協力関係が強くなります。そして特に商標権の壁にぶつかった時、この覚悟を共有出来ているかどうかで検討すべき対応なども違ってくる為、非常に重要になると思います。
―――3つ目の「商標調査の結果が悪い場合、深追いはしない。」で説明いただいたような事でしょうか?
西岡 その通りです。商標調査結果が悪く、所謂「商標権の壁」にぶつかった時、権利自体だけではなく周辺状況の調査や手立てを検討することで光明を見いだせる可能性はあります。
それら手立てを進めていくためには時間もお金もエネルギーも必要です。そして何より、「決して楽ではない道」を進むためには覚悟が必要です。
―――なるほど、おっしゃる通りですね。確かにお話を伺うと実は1番重要なコミュニケーションであり、実は不足していたコミュニケーションなのかもしれません。
西岡 コミュニケーション術というより精神論のように思われるかもしれませんが、少なくともプロジェクトにかける熱意を意識しながらコミュニケーションを取るかどうかで違いはあると思います。
―――ネーミングが決まって使用開始した後も、その熱意は伝播しそうですね。
西岡 その通りです。「ブランドは長く使用してなんぼ」と常々お話しています。長く使う為にはもちろん覚悟が必要です。理想論に聞こえるかもしれませんが「プロジェクトメンバーの覚悟」が、ブランドを長く使っていくための「全員の覚悟」につながっていくと私は思っています。
―――ありがとうございました。たしかに、今後ブランドを長く使い続けるための大きな原動力の1つであることは間違いないのではないかと思います。こうやってお話をお伺いすると、やはり今後は逆の立場からのお話も聞いてみたいですよね。次回はネーミングのためのコミュニケーション術 ~商標担当者へ贈る言葉 (前編)~として解説していただきます。
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