2022年03月15日ブランディングネーミングを作る前に絶対に押さえておくべきポイント ~完結編~
さて前回は海外向けネーミング制作の際に絶対に押さえておくべきポイントとして「スペルと空耳?」「スラング」について解説をいただきました。普段の生活ではあまり意識していなかった事でしたが、ネーミング制作の際には実はとても重要なことであることに気付いていただけたのではないでしょうか?
さて今回は、絶対に押さえておくべきポイントとしてさらに「宗教と神話」、そしてこれらのおくべきポイントを踏まえ、どのようにネーミング制作を行っていけば良いのか?を解説していきます。
宗教と神話
―――宗教と神話とは具体的にどのようなことでしょうか?
西岡 日本人にとっては特にイメージが難しいかもしれません。国際社会で日本人は宗教の知識が不足していると言われますが、そのような点も影響あるのかもしれませんね。
―――確かに「日本人が身に着けるべき教養」として「宗教」があげられる事は多いようですね。
西岡 日本でもクリスマスや初詣、お葬式など日常生活に宗教が溶け込んでいます。しかし海外における日常生活と宗教の繋がりや根付き方は日本人の感覚とは全く違います。その点で日本はマイノリティだと言え、特に感覚的に理解しがたいことも多いので注意が必要です。
―――確かに日本で過ごすだけでは、あまり実感出来ない部分なので注意が必要ですね。
西岡 その通りです。何気なく普段使っている言葉も、実はどこか特定の宗教で用いられる言葉であったり、宗教的な概念が含まれていたりすることは多々あります。
―――例えばどのような言葉でしょう?
西岡 例えば「カリスマ」。「カリスマ社長」「カリスマ店員」など、耳にしますよね?
―――もちろん、耳にしたことはあります。
西岡 実は「カリスマ」という言葉は、キリスト教の新約聖書に登場する言葉で「神からの贈り物」「神の賜物」といった意味があります。
―――ビックリです・・・和製英語か何かだと思っていました。確かに、思いもよらぬ落とし穴に引っかかりそうです。
西岡 具体的なネーミングの事例では自動車の「NOAH」など代表的ですね。
―――トヨタ自動車から販売されているミニバンですね。
西岡 この「NOAH」は「ノア」と発音する訳ですが、「ノア」と聞いて「ノアの方舟」連想する方も多いのではないでしょうか?
―――私もそうですね。ミニバンで人も荷物もたくさん乗れて、何より「ノアの方舟」のストーリーと車のイメージがリンクするので、「ノアの方舟」が由来のネーミングなんだろうな、と思いました。
西岡 でも実は車種名の由来について公式ページで『「ノア」は英語で優しい語感の人名を表し、特別な意味はなく、「ノアの方舟」のノア(NOAH)とも関係はない。』と公表しています。
―――「ノアの方舟」がネーミングの由来では無いのですね!そして公式ページでも『「ノアの方舟」とは関係ありません』とまで謳っていたとは知りませんでした。
西岡 「ノアの方舟」は「旧約聖書」で登場するユダヤ教に関する有名なストーリーの1つです。一方でユダヤ教以外を信仰している方々から見た場合はどの様に映るのでしょうか?もしかすると、そのような配慮があったのかもしれませんね。
―――もし「ユダヤ教のストーリーが由来です。」とした場合、他の宗教を信仰している方の中にはネガティブに感じられる人がいらっしゃったかもしれませんね。
西岡 その通りです。これらも「良し悪し」では無く、「リスクを孕んでいると知らずに選択した」のか「リスクを承知で選択した」のかでは全く異なります。
――その通りですね。これからはネーミングに使用するキーワードの語源などを調べてみた方が良いと思いました。
西岡 それは非常に大事なことです。語源を調べると意外なアイデアの深堀にもつながったりしますよ。またノアの例ですが、気を付けなければいけないのは、いくら「ノアの方舟とは関係ありません」と説明しても、ユーザーが「ノアの方舟と関係あると思ってしまう」ことを防ぐことはできません。
―――どういうことでしょうか?
西岡 つまりユーザーの受け取り方をコントロールすることはできないので、言葉を選択する際にはその点は理解しておかなければなりません。
―――なるほど、ありがとうございます。
西岡 その他にも「神話」などのキーワードを使用する時も注意が必要です。例えばギリシア神話、ローマ神話、北欧神話などですね。
―――ギリシア神話に登場するゼウスなどは特に有名ですが、神話の神々も実はかなり波乱万丈ですよね。
西岡 その通りです。有能で良い逸話も多くネーミングへストーリーが込めやすいですが、実はめちゃくちゃ悪い事している神々も多いのでバックボーンのリサーチは必要です。
―――確かに興味深いエピソードもとても多いですが「本当にその名前を冠して良いのか?」という議論は必要かもしれませんね。
西岡 宗教にせよ神話にせよ非常に深いストーリーを持っているからこそ、これだけ長い年月も語り継がれてきています。その為、ネーミングに使用した場合もストーリー性も豊かで広げやすい面があることも事実です。
―――その通りですね。
西岡 つまり「使用禁止」ではなく、語源や由来、バックボーンなどを調べたりしながら判断し注意しながら使っていただきたい、ということです。
押さえるべきポイントはわかったけれども・・・
―――「スペルと空耳?」「スラング」「宗教と神話」。これからネーミング制作を行っていく際にぜひ注意していきたいですね。
西岡 そうですね。その一方で前回もお伝えした通り、どうしても日本人の感覚だけでは注意しきれない部分が多いのも事実です。ですので、理想はネーミングを使う予定の国の方とディスカッションやチェックを交えながらネーミング制作を行うことですね。
―――ただやはりそれはなかなか通常の業務のなかではむずかしいですよね・・・
西岡 確かに「ネーミング制作のたびにディスカッションから各国現地パートナーをアサインして、チェックもしてもらって・・・」とするのは難しいかもしれません。ネーミングを作る前では無く、ネーミングを決める前のどこかで可能な範囲で対応するのが良いと思います。
社内のリソースを活用するケース
西岡 海外のネイティブスタッフがいらっしゃる企業の場合、ネーミング候補がある程度出そろったタイミングで、候補案に対しての発音やスラング、文化的な背景などチェックをネイティブスタッフにお願いしてみてはいかがでしょうか。
―――なるほど、社内のリソースを活用する、ということですね。
西岡 ご注意いただきたい点は「対象の言語を話せるネイティブスタッフ」であれば誰でもOK、という訳ではありません。当然ながら一般的な教養や、対象の製品などについて理解のある方にチェックいただく必要があります。
―――誰でも良いという訳では無いんですね。
西岡 また確認依頼の仕方にも注意が必要です。海外の方はストレートに意見をぶつけてこられる方も多いです。また「自分でもネーミングを考えてみた!」とアピールしてこられるケースもあります。それが悪い事ではないとしても、彼らの意見に引っ張られて議論がまとまらず、ネーミングが決まらない、というあまりおもしろくないケースが想定されます。
―――本末転倒ですね。
西岡 その通りですね。ネイティブスタッフに確認される際は例えば、「この候補案の中からネーミングを決めるけれども、絶対に避けるべき案があれば、理由と共に教えて欲しい」といったように、なるべく具体的に且つイニシアティブを渡さないように工夫しながら進めることをお勧めします。
―――なるほど、ありがとうございます。
活用できる社内リソースが無い時は・・・
―――海外のネイティブスタッフがいらっしゃる企業については対応方法があることはわかりました。しかし、そうではない企業様の場合は諦めるしかないのでしょうか?
西岡 もちろん「活用できる社内リソースが全くない!」といった場合もあると思います。それでも出来ることはあります。それは「調べる」ことですね。
―――急にシンプルな話が出ましたね。
西岡 侮ってはいけません。Googleなどの検索エンジンを活用してください。意外とスラングの情報がまとまっていたりします。また翻訳機能なども活用してみてください。
―――地道ではありますが自分たちで出来ることですね。
西岡 いずれにせよ社内リソースの有無に関わらず必ずチェックしていただきたいことは「ネーミング案を検索エンジンで検索」ですね。
―――最近の検索エンジンは、何かしらがヒットするのではないですか?
西岡 その通りです。完全な造語でネーミング制作を行っても、基本的に何かしらヒットします。大切なのは「検索した結果、何が表示されるか?」です。
―――どういうことでしょうか?
西岡 例えばネーミングを検索した結果、あまり良くない言葉や商品などが上位に表示される場合、ネーミングとの関連性が高いと考えられます。本当にスラングなのか、イメージが良くないのかは詳しく調べないと不明ですが、上記の場合は「ある程度リスクがある」と考えることが出来ます。
―――確かに、その通りですね。
西岡 他にも、違う分野の他社製品などがヒットする場合もあります。つまり権利的には影響ないとして自分たちがネーミングを使用開始した場合でも、ユーザーが検索した時に他社製品もヒットする可能性を示唆しています。
―――はい。
西岡 その場合「自分たちのブランドにとってそのブランドとの関係上リスクは無いのか?」を事前に確認することは重要なポイントですね。
―――なるほど、大変参考になりました。
西岡 もちろん粗さはありますが、ぜひ実施していただきたいですね。
―――おっしゃる通り「社内で活用できるリソースや、外注が出来ないので何もできない」のではなく、出来る範囲で実施する必要がありますね。ぜひ、皆さんもネーミングを作る際は今回ご紹介したポイントを押さえながらネーミング制作を楽しんでください!
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