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2018.04.24IP日本:政府による「海賊版サイト」の緊急対策


日本:政府による「海賊版サイト」の緊急対策

2018年4月6日、政府が打ち出した「海賊版サイト」の緊急対策が波紋を広げている。

「通信の秘密」の侵害にあたるとして、これまで児童ポルノ対策にのみ認められてきた「ブロッキング」を海賊版サイトにも適用できるとの解釈を打ち出し、通信事業者に自主的な対応を求めるものである。

「著作権侵害の被害は甚大で対策は急務」という声がある一方で、「通信の秘密の侵害」「事実上の検閲ではないか」との批判も高まっている。

対策の要旨

  • ブロッキングは「通信の秘密」の侵害だが、特に悪質な海賊版サイトが「緊急避難」の要件を満たす場合、ブロッキングしても違法にならないと解釈
  • 法制度が整備されるまでの臨時的な措置として、民間事業者が自主的に、「漫画村」など3サイト、及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが適当と考える
  • 新たに類似サイトが現れた時にブロッキングを実施するため、知財本部の下に、事業者、有識者を交えた協議体を設置し、体制を整備する
  • 次期通常国会を目指し、法制度を整備する

ブロッキングとは、通信事業者がユーザーの同意を得ずに特定のウェブサイトに対するアクセスを遮断する行為である。特定サイトへのアクセスを遮断するためには、全ユーザーについて、どこにアクセスしようとしているのかチェックする必要がある。

つまり、問題のサイトにアクセスしようとする人だけでなく、全ての人の「通信の秘密」を侵害することになる。

通信の秘密とは、通信の内容や宛先を第三者に知られたり、漏らされたりしない権利で、憲法で保障されている。電気通信事業法も事業者に対して通信の秘密を侵してはならないと定め、厳しい罰則を設けている。

ブロッキングは日本では児童ポルノサイトに対してのみ認められ、2011年4月から実施されている。これは児童ポルノ被害が社会問題化した際に、事業者や利用者、法律家などが何年もかけて議論を重ね、「違法状態ではあるが、刑法で例外的に違法性が否定される『緊急避難』として認めうる」との整理がされたためである。

この時、著作権侵害についても検討されたが、児童ポルノのような重大かつ深刻な人格権侵害とは異なり、財産権で被害回復の可能性があることなどから、「緊急避難の適用は不可能」とされた。この解釈は、その後、憲法学者や刑法学者を交えた総務省の有識者検討会でも承認されている。

ところが今回、政府はこうした議論の積み重ねによって得られた合意をあっさりと覆し、著作権侵害でも緊急避難の適用が可能だと解釈を変更した。
この解釈には専門家から様々な批判が出ている。多くの法曹関係者が「財産権である著作権を守るために、それより明らかに重い通信の秘密を侵害することになり、緊急避難の要件を満たさない」と懸念を表明している。

今回の対策でさらに問題なのは、政府が「ブロッキングを行うことが適当」なサイトとして3サイトを名指ししていることだろう。「実施は民間事業者による自主的な取り組み」としているが、事実上の検閲と受け止められかねず、今後、大きな議論となる可能性がある。


事実上、事業者にブロッキング実施を迫りながら、「事業者による自主的な取り組み」としている点にも注意を要する。政府は「ブロッキングの責任は事業者にある」と明確に説明しており、消費者団体も既に、ブロッキングが実施された場合、通信事業者に対し法的手続きをすすめる方針を明らかにしている。

「緊急避難が成立しないのは法律家の間では争いがない。事業者に勝訴は望めないのではないか」とみる弁護士もいて、今後、事業者側の対応も焦点となりそうだ。


[出典:YOMIURI ONLINE]


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