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2021.11.09IPEU:外国語から成る商標の類似性に関する判断


EU:外国語から成る商標の類似性に関する判断

2021年7月14日に行われたCase T-399/20の判決において、一般裁判所は、外国の言語から成る2文字の商標と図形商標の間に、混同の可能性があるかどうかを判断した。

関連する需要者がいずれもこれらの言語を話さないケースで、問題となった商標は、デンマークのアルファベットである「Ø」と、ギリシャとブルガリアのアルファベットである「ф」を描いたものであった。

背景

2017年、米国企業Cole Haan LLCは、欧州連合の商標に関する2017年6月14日の欧州議会及び理事会の規則(EU)2017/2001(以下、「EUTM規則」)に基づき、 ニース国際分類の第18類及び第25類の商品(旅行用バッグや衣類など)を、記号「Ø」で使用するEU商標の保護を求めて、欧州連合知的財産庁(以下、「EUIPO」)に商標の登録出願申請を行った。

  • 2018年、デンマークの会社Samsøe & Samsøe Holding A/Sは、ニース国際分類の第18類及び第25類の商品に関し、EUを指定する国際登録の先行商標の権利者として、商標「ф」を根拠に異議申立ての手続きを行った。
  • 異議申立てはEUTM規則の第8条1項(b)に基づいて行われ、公告商標は先行商標との類似性が高く、需要者に混同が生じる可能性があるため、登録は認められないと主張した。

EUIPOの異議部(Opposition Divisions)と審判部(Boards of Appeal)は、いずれも公告商標の登録を拒絶したため、出願人はその決定を不服とし争った。
審判部は、需要者が関連する公衆についてフランス語を話し、デンマーク語、ブルガリア語、ギリシャ語を話さず、平均的な注意力を持つ人々と定義し、混同が生じる可能性があると判断した。

審判部の決定に対する上訴において、出願人は審判部が混同を生じる可能性を評価した関連する需要者の定義について異論は唱えなかった。
出願人は混同が生じる可能性はないと述べ、特に、審判部の商標が外観的にかなり類似しているという判断と、称呼及び観念の比較が不可能であるとする決定は誤っていると主張した。

一般裁判所の判断

一般裁判所は、関連する需要者が商標を混同する可能性が高いと判断し、出願人の訴えを却下した。

その理由として、裁判所は既に確立されている判例法を考慮し、EU商標の登録が拒絶されるためには、EU加盟国の一部、すなわち本件では定義された関連する需要者、すなわちフランス語を話す公衆の間で混同が生じる可能性が存在することで十分であるとした。
また、裁判所は、出願人の商標はデンマークのアルファベットである「Ø」を描いているのに対し、先行商標はギリシャ語の「φ」またはブルガリア語で使用されているキリル文字の「ф」を描いていることを、当事者がそれぞれ理解していたと指摘した。

出願人は、フランス語圏の人々は、「b」、「p」、「d」、「q」、「i」、「j」、「l」、大文字の「O」、「Q」など、視覚的に類似した文字を区別することに慣れていると説明している。
また、ドイツ語圏の消費者は「ß」の文字と「B」の文字を、ギリシャ語圏の消費者は「θ」の文字と「φ」の文字を容易に区別していると述べている。
裁判所は、この主張は関連する需要者が話す言語の文字についてのみ該当すると指摘した。
しかし、本件では、「Ø」、「ф」または「φ」の文字は、関連するフランスの一般的需要者が使用する言語では使用されておらず、したがって、当該商標が実際に外国のアルファベットの文字であることを彼らが認識し、それらを区別することができると推定することはできないと判断した。
よって裁判所は、当該商標は外観的に高度に類似すると結論づけた。

また、裁判所は当該商標の称呼及び観念的な比較は困難であるというEUIPOの判断も支持している。
裁判所は、特に、関連する需要者が外国語の知識を持っていることを前提とすることはできないという、これまでに確立された判例法を考慮した。
したがって、裁判所は、フランス語を話す需要者がデンマーク語、ギリシャ語、ブルガリア語などの外国で使用されている文字を正しく発音できるかどうかは確実ではなく、需要者が商標を外国のアルファベット文字として認識し、両者を観念的に区別することができると推測することはできないと指摘している。

出典元代理人コメント

一般裁判所の判決は、混同が生じる可能性とその本質についての判例法を発展させたものである。


[出典:Schoenherr]


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