2022.04.12IP台湾:商標法第30 条第1項第12号「意図的に摸倣したもの」に係る認定
台湾:商標法第30 条第1項第12号「意図的に摸倣したもの」に係る認定
■判決分類:商標権
I 商標法第30 条第1項第12号「意図的に摸倣したもの」に係る認定
■ハイライト
参加人は2017年11月17日に「BARRIGEL+logo」商標を以って、第5類「前列腺ガン放射線治療時に使用する直腸保護ゲル、医療用ゲル;ヒト用薬品及び薬剤」商品及び第10類「医療用機械器具」商品での使用を指定して、被告に商標登録を出願した。
被告は審査した結果、登録第01918906号商標(以下「係争商標」)の登録を許可した。
その後原告は「HANBIO BarriGel」商標(以下、「異議申立の根拠商標」)を以って係争商標には商標法第30条第1項第11号及び第12号規定違反があるとして、これに対する登録異議を申し立てた。
被告は審理した結果、「異議不成立(登録維持)」の処分(以下「原処分」)を下した。
原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、棄却されたため、なお不服として、本件行政訴訟を提起した。
係争商標には商標法第30条第1項第12号規定違反があるかについて、裁判所は以下の見解を示した。
一、同一又は類似の商品又は役務において他人が先使用する商標と同一又は類似のもので、出願人が当該他人との間に契約、地縁、業務取引又はその他の関係を有することで他人の商標の存在を知っており、意図的に模倣し、登録出願したものは、登録を受けることができないと、現行商標法第30条第1項第12号に定められている。
原告は確かに係争商標の出願日(2017年11月17日)より早い2016年に台湾において異議申立の根拠商標を商品BarriGEL(中国語名:防粘連可吸收膠)に先使用した事実がある。
しかしながら調べたところ、原告証拠13号は原告が2013年7月3日に食品薬物管理署(台湾FDA)に対して医療器材「瀚醫生技防粘連可吸收膠BarriGEL(品名は暫定)」の国内臨床試験免除を申請した書類であり、上記資料は異議申立の根拠商標を販売に使用したものではなく、原告が2013年7月3日にすでに異議申立の根拠商標を先使用したとは認めがたい。
二、参加人は遅くとも2013年6月14日に外国語「BARRIGEL」を以って各国で商標登録を出願しており、EUでの商標登録資料、日本、オーストラリア及び香港での商標登録資料があり、ファイルされ参照できる。
外国語「BARRIGEL」は既存の語彙ではなく、特定の意味を有さず、前述したように独創性を有する語句であり、上記事実証拠から、参加人による係争商標の登録に異議申立の根拠商標を模倣する意図があったとは認めがたい。
三、係争商標の登録は商標法第30条第1項第12号規定に違反していない。
II 判決内容の要約
知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】109年行商訴字第81号
【裁判期日】2021年1月28日
【裁判事由】商標登録異議
原 告 瀚醫生技股份有限公司(Han Biomedical Inc.)
代 表 人 陳昌慧(董事長)
被 告 経済部知的財産局
代 表 人 洪淑敏(局長)住所同上
参 加 人 ガルデルマ ホールディング エスエー(Galderma Holding SA)
代 表 人 Pascal Riviere(Treasury Operations and Transfer Pricing Director)
Nakisa Serry(General Counsel, Chief Compliance Officer)
上記当事者間の商標登録異議事件について、原告は経済部の2020年6月10日付経訴字第10906304450号訴願決定を不服として、行政訴訟を提起した。本裁判所は参加人に本件被告の訴訟へ独立するよう命じることを決定した。
本裁判所は次の通りに判決する。
主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
一 事実要約
参加人(2020年8月に社名変更する前の名称は「ネスレスキンヘルス(スイス)」)は2017年11月17日に「BARRIGEL +logo」商標を以って、当時の商標法施行細則第19条に定める商品及び役務区分表における第5類「前列腺ガン放射線治療時に使用する直腸保護ゲル、医療用ゲル;ヒト用薬品及び薬剤」商品及び第10類「医療用機械器具」商品での使用を指定して、被告に商標登録を出願した。
被告は審査した結果、2018年6月1日に登録第01918906号商標(以下「係争商標」、添付図1に示す通り)の登録を許可した。
その後原告は2018年6月26日に「HANBIO BarriGel」商標(以下、「異議申立の根拠商標」、添付図2に示す通り)を以って係争商標には商標法第30条第1項第11号及び第12号規定違反があるとして、これに対する登録異議を申し立てた。
被告は審理した結果、2020年3月12日に中台異字第G01070393号商標登録異議審決書を以って「異議不成立(登録維持)」(以下「原処分」)を下した。
原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、棄却されたため、なお不服として、本件行政訴訟を提起した。
二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.訴願決定及び原処分を取り消す。
2.被告に係争商標の登録取消処分を行うよう命じる。
(二)被告の請求:原告の訴えを棄却する。
三 本件の争点
本件の争点:係争商標の登録は商標法第30条第1項第11号規定又は第30条第1項第12号規定に違反しているか。
四 判決理由の要約
(一)商標法第30条第1項第11号の部分:
1. 他人の著名な商標又は標章と同一又は類似のもので、関連する公衆に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの、又は著名な商標又は標章の識別性又は信用・名声を毀損するおそれがあるものは、登録を受けることはできず、但し、当該商標又は標章の所有者の同意を得て登録出願した場合は、この限りでない、と商標法第30条第1項第11号に規定されている。
商標が著名か否かについては、国内の消費者の認知を基準とする。
著名商標の認定は個別案件の状況について、商標識別力の強弱、関連する事業者又は消費者が商標を知悉、認識する程度、商標の使用期間、範囲及び地域、商標宣伝の期間、範囲及び地域、商標の出願又は登録の有無及びその登録、登録出願の期間、範囲及び地域、商標の権利行使が成功した記録、特に行政又は司法機関に著名であると認定されたことがある状況、商標の価値、その他著名商標と認定するに足りる要素等を考慮して、総合的に判断する。
2.調べたところ、双方の商標はいずれも見る者に与える印象が深い外国語「BARRIGEL」、「BarriGel」を有する。大文字小文字の違いはあるが、称呼が同じであり、しかも外観が類似している。
さらに上記外国語は既存の語彙ではなく、特定の意味を有さず、それはCambridge Dictionaryでの検索資料を参照することができ(異議ファイル第229頁)、通常の知識経験を有する消費者が購買時に通常の注意を払い、時間と場所を異にして隔離的かつ全体的に観察し、一連に称呼する時、違いを区別することは難しく、両者は高度に類似する商標である。
両者はいずれも医療用ゲル又は医療関連のヒト用薬品及び薬剤、器具、装置等商品に該当し、しかも医療機関で通常共に使用され、関連する消費者はこれらの商品に同時に接触し、性質、機能、用途、原料、生産者又は販売場所等の要素においても共通する又は関連する箇所を有し、一般的社会通念及び市場での取引状況により、同一又は類似の商品に属する。
3.商標法第30条第2項には「前項第9号及び第11号乃至第14号までに規定する産地表示、著名及び先使用の認定は、出願時を基準とする。」と規定されている。
調べたところ係争商標は2017年11月17日に登録出願されており、異議申立の根拠商標が著名商標であるか否かは2017年11月17日を判断の基準点すべきである。
4.原告が提出した証拠資料によると、それは異議申立の根拠商標が2016年から台湾で販売に使用された事実を証明することしかできず、異議申立の根拠商標が係争商標の登録出願以前からBarriGEL(中国語名:防粘連可吸收膠)に使用され、台湾の関連する事業者又は消費者が広く認知し、著名商標の水準に達していると認定することはなお難しいため、異議申立の根拠商標は著名商標ではなく、係争商標が商標法第30条第1項第11号規定に違反するとする原告の主張に根拠はない。
(二)商標法第30条第1項第12号の部分:
1.同一又は類似の商品又は役務において他人が先使用する商標と同一又は類似のもので、出願人が当該他人との間に契約、地縁、業務取引又はその他の関係を有することで他人の商標の存在を知っており、意図的に模倣し、登録出願したものは、登録を受けることはできないと、現行商標法第30条第1項第12号に定められている。
本号適用の要件には、1.他人が先使用する商標と同一又は類似のもの;2.同一又は類似の商品又は役務において使用している;3.出願人が当該他人との間に契約、地縁、業務取引又はその他の関係を有することで他人の商標の存在を知っている;4.他人の同意を得て登録出願していない;5.模倣の意図に基づいて登録出願したもの、が含まれる。
2.原告は確かに係争商標の出願日(2017年11月17日)より早い2016年に台湾において異議申立の根拠商標を商品BarriGEL(中国語名:防粘連可吸收膠)に先使用した事実があることは前述した通りである。
原告は原告証拠13号を提出し、原告は2013年7月3日より早く異議申立の根拠商標を使用していたと主張しているが、調べたところ、原告証拠13号は原告が2013年7月3日に食品薬物管理署(台湾FDA)に対して医療器材「瀚醫生技防粘連可吸收膠BarriGEL(品名は暫定)」の国内臨床試験免除を申請した書類であり、上記資料は異議申立の根拠商標を販売に使用したものではないことは前述した通りであり、原告が2013年7月3日にすでに異議申立の根拠商標を先使用したとは認めがたい。
3.さらに調べたところ、参加人は2013年6月14日に欧州連合知的財産庁(EUIPO)に対して「BARRIGEL」商標を以って第10類商品での使用を指定して登録を出願しており、同年11月6日に登録が公告された。
2013年7月16日にはEUIPOに「BARRIGEL+logo」商標を以って第5類商品での使用を指定して登録が出願され、同年12月11日に登録が公告された。
2013年6月16日には日本特許庁に「BARRIGEL+logo」を以って第10類商品での使用を指定して登録が出願され,2013年11月8日に登録が公告された。
2013年7月17日にはオーストラリアにて「BARRIGEL+logo」を以って第5類及び第10類商品での使用を指定して登録が出願された。2013年9月8日には香港知識産権署から「BARRIGEL+logo」商標(指定商品は第10類)の登録を取得した。
これについてはEUでの商標登録資料、日本、オーストラリア、香港での商標登録資料がファイルされており、参照できる(異議ファイル第262乃至274頁を参照)。
さらに、参加人は2013年8月9日に台湾で「BARRIGEL」商標を以って第5類及び第10類商品での使用を指定して登録を出願し、2014年2月16日登録第01629306号商標(添付図3に示す通り)が公告されている。
上記商標は第5類商品での使用部分について、被告から登録取消の処分を受けており、これも処分書がファイルされ、参照できる(異議ファイル第325乃至327頁を参照)。
以上から参加人は遅くとも2013年6月14日に外国語「BARRIGEL」を以って各国で商標登録を出願しており、参加人による係争商標の登録に異議申立の根拠商標を模倣する意図があったとは認めがたい。
(三)以上をまとめると、係争商標の登録は商標法第30条第1項第11号及び第12号規定に違反していないため、被告が原処分において「異議不成立(登録維持)」の処分を下したことには誤りはなく、訴願決定で(原処分を)維持したことも、法に合わないところはない。
原処分及び訴願決定を取り消すとともに、被告に係争商標に対する登録異議成立による取消処分を命じるよう、原告が請求することには理由がなく、棄却すべきである。
2021年1月28日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 汪漢卿
裁判官 曾啓謀
裁判官 林欣蓉
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添付図1:係争商標(登録番号:商標01918906号)
出願日:2017年11月17日
存続期間:107年6月1日-117年5月31日
商標権者:中国語名:瑞士商葛德瑪控股公司(ガルデルマ ホールディング エスエー)
英語名:GALDERMA HOLDING SA
指定商品:第5類「前列腺ガン放射線治療時に使用する直腸保護ゲル、医療用ゲル;ヒト用薬品及び薬剤」商品及び第10類「医療用機械器具」商品。
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添付図2:異議申立の根拠商標
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添付図3:登録第01629306号商標
出願日:2013年8月9日
存続期間:2014年2月16日~2024年2月15日
商標権者:中国語名:瑞士商葛德瑪控股公司(ガルデルマ ホールディング エスエー)
英語名:GALDERMA HOLDING SA
指定商品:第10類「医療用機械器具」商品。
[出典:TIPLO Attorneys-at-Law 台湾国際専利法律事務所]