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2023.04.25IPフィリピン:地理的表示登録制度の創設について


フィリピン:地理的表示登録制度の創設について

1.はじめに
フィリピンには地理的表示に関する独立した登録制度はありませんでした。
もともと地理的表示は、フィリピン知的財産法((Republic Act No. 8293 , Intellectual Property Code of the Philippines)により、商標として保護されており、団体商標として登録することが可能でした。

昨年、フィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Philippines、以下、IPOPHL)は、地方や地域の特産品の競争力を強化するため、地理的表示に関する施行規則(Rules and Regulations on Geographical Indications、以下、「本施行規則」)を発行しました。
また、この施行規則は、世界貿易機関の加盟国であるフィリピンが、他の加盟国に対して地理的表示に関する権利と保護を相互に提供する義務を果たすものでもあります。

地理的表示に関する施行規則は、農業や手工業の分野に最も利益をもたらし、フィリピンの伝統的な特産品の普及を促進し、国の経済的発展や国際的な知名度の獲得に役立つものと期待されています。
それと同時に、日系企業や日本の各地域にとっても、地域ブランドをフィリピン市場に進出させていく上で、当該ブランドを保護し、競争力を維持していくために極めて重要な制度です。

以下、本施行規則の主要な条項の概要を説明します。

2.地理的表示に関する施行規則の概要
(1) 地理的表示
本施行規則において、地理的表示とは、商品がある特定の場所、地域、地方を生産地とすることを示す表示であって、その商品の品質、社会的評価、その他の特性が主としてその生産地や人的要因に帰せられるものと定義されています。
保護された地理的表示は、最終的に取り消されるまで、または取り消されない限り、無期限に保護されます。

当該地理的表示の登録名義人は、地理的表示の登録とIPOPHLによる証明書の発行により、第三者による下記の行為を阻止する権利を有するものとされます。

a. 商品の呼称または表示において、商品の生産地に関して公衆を誤解させるような方法により、当該商品が真の生産地以外の地域に由来することを示しまたはこれと誤認されるおそれのあるものを使用すること。
b. 商品が他の地域で生産されたものと偽る地理的表示の使用。
c. 商品の生産地の名称及び場所が付されている場合、及び「類似」、「タイプ」、「スタイル」、「模倣」、「製法」、「同様の」などの限定的な表現が付されている場合であっても、地理的表示で示された場所で生産されていない商品に地理的表示を使用する行為。
d. パリ条約第10条の2 (Article 10bis)にいう不正競争行為に該当する地理的表示の使用。
e. その他上記に類似または類する表示の使用。

(2) 地理的表示に関する申請者
本施行規則第7条では、地理的表示の登録申請は、次のいずれかの者のみが行うことができるとされています。

a. 生産者とは、加工された宝石やその原石、食材やアルコール飲料を含む農産物や天然物、そのほか手工業や工業の製品を加工、生産、製造する個人、または地理的表示の対象となる商品の採取、生産または製造に直接関与する利害関係者を代表する生産者団体または組織。
b. 商品の生産地を管轄する政府機関または地方公共団体、および、フィリピン国民に対してその国の法律上、自国民と同様の権利と保護を与えている国の国民の地理的表示に関し、当該外国政府の代表者。
c. 上記a及びbに基づく地理的表示の規制及び保護を特に付託された組織、団体、 または先住民文化コミュニティまたは先住民。

(3) 外国人・外国法人が地理的表示を登録する際の要件
本施行規則第7条は、一定の要件のもと、外国人・外国法人が地理的表示を登録することも許容しています。フィリピン国内企業、組織または団体、もしくは地方公共団体またはその機関のいずれにも該当しない者が外国の地理的表示の登録を受けようとする場合は、次のいずれかの資格に該当する者でなければなりません。

a. 知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定、マラケシュ協定)加盟国、または、そのほか地理的表示の保護に関する他の国際条約または協定であって、フィリピンも加盟しているものに加盟している国において設立または組織された法人であること。
b. フィリピン国内またはフィリピンが加盟している地理的表示の保護に関する国際条約または協定の加盟国に居住、所在し、または実質的かつ効果的な産業・商業施設を有していること。

ただし、外国の出願人は、出願の対象となる地理的表示が、登録または保護されていることを証明する書類を提出する必要があります。
これには、当該政府の管轄機関または民間の証明機関が発行した文書、あるいはその他の類似の法的文書または証明書が該当します。

(4) 登録不可能な名称
本施行規則第18条は、地理的表示として登録することができない名称について、以下のように定めています。
a. 法令、公の秩序、公序良俗に反するもの。
b. 外国の地理的表示であって、当該生産国または地域において保護されていないもの、または保護が取り消されたもの。
c. 商品またはその使用の特性、性質、品質、原産地、生産工程に関して、公衆を誤解させ、または欺くもの。
d. フィリピンにおける商品の一般名称、普通名称または慣用名称のみからなるもの、またはそれと同一のものであり、登録しようとする地理的表示が同一の商品に対して適用されうるもの。
e. 植物品種または動物品種の名称と同一または酷似しており、商品の真の原産地について消費者を誤認させるおそれがあるもの。
f. 地理的表示に関する定義に該当しないもの。
g. 同一商品または密接に関連し、誤解を招く商品に関して、フィリピン国内またはフィリピンが加盟している条約若しくは国際協定において先に出願または登録された地理的表示と同一または酷似しており、またはそれを想起させるもの。

(5) 登録の取り消し事由
次の事由に該当する場合、登録された地理的表示は、取り消される場合があります。
a. 施行規則第2条(h)に規定する保護要件を満たしていない場合。
b. 地理的表示を付した商品の品質、社会的評価、その他の特性が主として帰せられる当該商品の自然的・人的要因を含む生産地に変更があり、当該変更により不適格となる場合。
c. 裁判所または審判所の判決または決定に基づき、登録された申請者が地理的表示の使用、商品の生産基準及びその他製品の仕様に対して有効な権限を有しない場合。
d. 地理的表示の登録申請の過程で、陳述及び書類上、虚偽の申告があった場合。
e. 登録または保護された地理的表示が、保護が付与される以前にフィリピンにおいて、その対象となる商品の一般的または慣習的名称であることが証明された場合。

(6) 地理的表示と商標の先使用者
本施行規則は、フィリピン国内において同一または関連する商品またはサービスに関して当該地理的表示を継続的に使用してきた、フィリピンの国民もしくは居住者、またはフィリピンに実質的または有効な商業施設を有する者又はフィリピン国内の事業者が、商品またはサービスに関連して、他国の特定の地理的表示を継続的または同様の方法で使用することを妨げるものではなく、以下のいずれかの者はこれに該当するものとされます。
– 1994年4月15日から、少なくとも10年間以上前から使用している場合
– 1994年4月15日以前から善意で使用している場合

以下の場合に、善意で商標を出願または登録した場合、または善意の使用により商標権を取得した場合が上記に該当します。
– 本施行規則の発効前
– 地理的表示がその生産国において保護される前

商標登録の適格性もしくは有効性、または商標使用権は、当該商標が地理的表示と同一または類似していることをもって、害されるものではありません。

3.その他の更新情報
地理的表示制度の創設は、地域ブランドを有する日本の産業がフィリピン市場に進出するうえで、当該ブランドを保護し、競争力を維持していくために極めて重要な制度です。
日本の地域産業がフィリピン国内に進出する際は、ぜひご参照いただけたらと存じます。


[出典:One Asia Lawyers]


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