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2023.06.27IP中国:同意書運用の変化


中国:同意書運用の変化

【はじめに】
同一あるいは類似商標について権利者双方が共存に同意している場合、両商標の共存を認めるべきか否かの決定にあたり、中国の裁判所は、当事者の意思自治の原則と公共の利益のバランスに常に直面してきた。
この課題をどう考えるかは、商標出願人が同意書提出により、先行商標の引用を克服し、出願を公告へ進めようとしている場合に特に重要な点となる。
2019年、北京高級人民法院は「北京市高級人民法院による商標の権利付与・権利確定に係る行政案件の審理ガイドライン」において、共存の問題について一般的な原則をいくつか示した。
しかしながら、商標出願手続きにおける共存合意や同意書の有効性に影響を与える様々な主観的/専門的事象により、共存は複雑な問題となっている。
最高人民法院(the Supreme People's Court:SPC)、北京高級人民法院(Beijing High People’s Court:BHPC)、北京知的財産法院(the Beijing Intellectual Property Court:BIPC)における、商標の共存をめぐる以下2つの事例が、特に注目に値するポイントと動向を示している:
 •Nexusのケース
 •Orbitalのケース

Nexusのケースでは、商標の視覚的効果を精査し、商品を区別し、先行商標権利者からの同意書について慎重に検討を行った結果、最高人民法院は同一の文字から構成される文字商標は共存し得るとの判決を下した。
一方Orbitalのケースでは、北京知的財産法院は先行商標の登録企業の代表署名者の権限について疑問を呈し、同意書の有効性に疑義を唱えた。

【NEXUSのケース】
■背景

2012年11月7日、Google社は第9類の手持ち式コンピュータおよびポータブルコンピュータについて、商標NEXUS(図1)を出願した。

図1:Google社のNEXUS商標

中国商標局(The China Trademark Office:CTMO)は図2のShimano Inc.が権利者である第9類の自転車用コンピュータについて登録されている商標NEXUSを根拠に、Google社の出願申請を拒絶した。

図2:Shimano Inc.のNEXUS商標

■下級裁判所の判断

商標評審委員会(The Trademark Review and Adjudication Board:TRAB)、北京市第一中級人民法院(the Beijing First Intermediate Court:BFIC)、北京高級人民法院(Beijing High People’s Court:BHPC)はいずれもこの判断を支持した。
Google社側は、両商標についてShimano Inc.と共存同意を結んでいることを、同意書を提出し主張したものの、いずれの裁判所もこの共存同意を考慮しなかった。
裁判所は、Google社とShimano Inc.の2つの商標は酷似しており、消費者混同の可能性を排除し得ないと判断した。
これについて北京高級人民法院は次のように述べている:

商標法の立法の意図は、一方で商標権利者の利益を保護し、他方で消費者の利益を保護することである。

したがって、共存同意は考慮されるべきではない。

■最高人民法院の判断

Google社は最高人民法院に対して再審請求した。
その結果、最高人民法院は商標評審委員会、北京市第一中級人民法院、北京高級人民法院の判決を覆し、Google社のNEXUS商標の登録を認めた。
最高人民法院の判決は以下の理由に基づくものであった:

•同一の文字で構成されているものの、両商標の外観は異なる。
•引用商標の指定商品である「自転車用コンピュータ」は自転車に関連するものである。一方、Google社の商標の指定商品である「手持ち式コンピュータ」「ポータブルコンピュータ」は家電製品に関連するものである。
•(両商標の)共存が消費者の利益を損なうことを証明する客観的な証拠がないにもかかわらず、同意書や引用商標権利者の合法権益を考慮しないことは妥当でない。

2016年の終わりに最高人民法院は上記の決定を下した。NEXUSのケースは同一の文字からなる2つの商標が商標登記簿上で共存することが認められた極めて珍しい例である。

このケースは(商標出願者の)私権を重視するものと考えられる。
最高人民法院はGoogle社とShimano Inc.のそれぞれの分野における良い評判を考慮し、Google社の商標登録が国益や社会公共利益を損なうことはないと結論付けた。
しかしながら、最高人民法院のこのケースにおける商品の類似性に関する評価は意外なものであったといえる。
例えば、2019年に最高人民法院は商標「ECLIPSE」との商標共存に関するNestle社の再審請求を棄却する決定を下したが、その際に最高人民法院は「コーヒーやお茶を入れるための電気器具」と「ガスバーナー」は紛らわしいほどに類似していると判断している。

2021年10月1日から施行の最新の審判制度改革後、国家的な重要度を備えない事案の最高人民法院に対する再審は認められなくなった。
NEXUSのケースは、商標評審委員会、北京市第一中級人民法院、北京高級人民法院が同一の文字からなる商標の共存を認める可能性は低い傾向にあることを示している。
今後このような商標の共存同意や同意書が認められるケースは、皆無ではないにせよ、より例外的な事案になると考えらえれる。

【Orbitalのケース】
■背景

当局は、Orbital Systems ABが出願した第11類「ORBITAL SYSTEMS」(図3)について、Mag Aerospace Industries (MAI), LLCが権利者である先行商標「ORBITAL」を根拠に、登録を拒絶した。
 
図3:Orbital Systems ABのORBITAL SYSTEMS商標
 
図4:Mag Aerospace Industries (MAI), LLCのORBITAL商標

■北京知的財産法院の判断

北京知的財産法院は識別性の問題を検討し、Orbital Systems ABのORBITAL SYSTEMS商標のより特徴的な要部は「orbital」である判断し、この2つの商標は一般消費者に混乱を起こすだろうと結論付けた。

特筆すべき点は、北京知的財産法院が拒絶された商標の登録に同意する同意書を発行した署名者の権限に対して特に異を唱えたことである。
北京知的財産法院は、Mag Aerospace Industries (MAI), LLCが、署名者が代表として同意書に署名する権限を有することを証明する証拠を提出しなかったと指摘し、同意書の有効性が確認できないと判断した。

共存に関する書類の形式について、裁判所はより厳格になっている。
同意書は領事認証手続きを受ける必要がある。
さらに、共存に関する書類に記載された署名者の資格や権限を証明するため、同様に領事認証手続きを受けた追加資料を併せて提出する必要がある。

【コメント】

中国国家知識産権局(CNIPA)も裁判所も、商標の共存同意や同意書を認めることにより慎重になっている。
NEXUSのケースは、実質的に同一の2商標の共存が認められ得る可能性を提示しているが、近年同様のケースはない。
ただし、以下のような場合に、中国の裁判所は共存同意や同意書を認める可能性があると考えられる:
•両者に関する情報(氏名、住所など)が明示されており、その情報が中国国家知識産権局に登録されている情報と整合性が取れること。
•共存する両者の商標に関する情報(商標番号、区分、中国で認められている指定商品など)が明示されていること。
•該当する法域の一つとして中国が指定されていること。
•共存に時間的な制約を設けていないこと。
•共存に条件が設けられていないこと。
•両者が共存によって生じる法的影響を十分に認識し、混乱を防ぐために必要なあらゆる措置を講じる意思があること。
•共存同意および/または同意書が権限のあるものによって締結され、その権限を証明する文書があること
•共存同意および/または同意書、認可書類、先行商標権利者の正当な立場を証明する書類が領事認証手続きを受けていること

同意書を求める側は、先行商標の権利者から、係争商標の登録及び仕様の両方について同意を得ることが賢明である。
これにより、仮に様々な要因で係争商標登録が確保できなかったとしても、先行商標が商標権侵害訴訟の基礎商標となるリスクを排除することが出来る。


[出典:Wanhuida Intellectual Property]


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