2023.06.27IPEU:スローガンの商標の登録について
EU:スローガンの商標の登録について
企業は、自社のスローガンをEUTMで保護する上で、困難に直面している。
EU一般裁判所の最近の決定において、広告スローガンに関連する2件の商標登録出願が、規則2017/1001の第7条(1)(b)が定める絶対的拒絶理由「識別性を欠く商標」に該当するとの理由で拒絶された。
この2件は、同様の出願を拒絶した長い判例リストに加わることとなる。
「識別性」は、登録が申請された商品または役務、および関連する公衆の商標に対する認識を参照して評価される。
広告スローガンを含む非伝統的な商標の場合、「公衆の認識」に関連する検討は難易度が増す。
スローガン:「Sustainability through Quality」(判例:T-253/22、出願番号:018158368)
2019年11月29日、ドイツの自動車メーカーであるGroschopp AG Drives & Moreは、「Sustainability through quality」という語の商標を申請した。
この出願は2020年3月23日、商標に特徴的な特性がないことを理由に拒絶された。これは、一般裁判所に控訴された。
控訴審で出願人は、純粋な広告メッセージを超えて、スローガンが商品・役務の商業的起源を示すものとして公衆に認識される場合、広告スローガンが「識別性」を有することは判例上明らかであると主張し、それが今回のケースであると主張した。
さらに出願人は、アウディの商標登録されたスローガン「Vorsprung durch Technik」(英訳:Advance by Technology、登録番号:000621086, 003016292)が「識別性」を備え、「Sustainability through Quality」がそうでないとするのは、信じがたいことであると主張した。
しかし、一般法廷はこの訴えを退けた。
申請者のスローガンは、持続可能性は品質の高い製品やサービスに通じている、あるいはそうでなければならない、そしてそれらの製品やサービスは持続可能性の原則に基づいているという、全ての事業者に当てはまる一般的なメッセージを表現したに過ぎないとの見解である。
更に、「Sustainability through Quality」という表現は、関連する公衆にとっては、出所を示すというよりは、専ら宣伝として認識されるであろうと考えられる。
スローガン:「OTHER COMPANIES DO SOFTWARE WE DO SUPPORT」(判例:T-204/22、出願番号:1559651)
Rimini Street, Inc.は、2020年9月30日にEUを指定するWIPOに、「OTHER COMPANIES DO SOFTWARE WE DO SUPPORT」というスローガンの国際登録を申請した。
EUIPOはまた、識別性を理由にこの申請を拒絶した。本件は、一般裁判所に控訴された。
出願人は、「support」の方法や「Other companies」という表現が指す事業などが、多くの疑問を残し明示している訳ではないため、争点となったスローガンは特徴的であると主張した。
彼らの見解においてこのスローガンは、曖昧な意味を伝え、関連する公衆の認知プロセスを誘発することができるメッセージを伝えているもの、記憶に残るものであり、識別性を有するものである。
しかしながら、一般裁判所は容認しなかった。彼らの見解では、1つの標識における一般的な英単語の組み合わせ(例えば、「Do」や「Other Companies」)は、容易に気付くことができ、一般消費者の側で解釈に努力を要さない明確で誤解の余地のないメッセージを伝えるものである。
出願人が提示した意味は、一般消費者にとって説得力がなく、直ちに認識できるものでもない。
このスローガンには独創性がなく、少なくとも関連する公衆による何らかの解釈や、認識する過程を誘発する共鳴性を欠いていた。
また、このスローガンは、消費者に問題のサービスの出所を知らせることもできなかった。言い換えれば、識別性を有していなかった。
コメント
この2つの事例は、ブランドの所有者がEUでスローガンを登録しようとする場合、特徴的なものを開発するよう促す新たな警鐘である。
特に、以下のことを自らに問いかける必要がある:
1.そのスローガンは、消費者に当該商品あるいは役務の出所を明確に示すことができるか。
2.そのスローガンは、少なくとも何らかの解釈や認知過程を必要とする独創性や共鳴性を示しているか。これらの最近の判決から、一般的なフレーズはこの基準を満たさないことが明らかである。
3.そのスローガンは、想像力、意外性、解釈の労力を必要とする語呂合わせや興味をそそる要素を含んでいるか。極めて独創的なスローガンだけが、先使用の広範な証拠なしに登録の可能性を見込める。
[出典:K&L Gates]