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2023.08.08IP台湾:「CHIMEI」 v.s. 「CHIME」~台湾における商標類似性の判断


台湾:「CHIMEI」 v.s. 「CHIME」~台湾における商標類似性の判断

2023年5月15日、台湾・経済部訴願委員会(以下、「訴願会」)は、奇美實業股份有限公司(CHI MEI CORPORATION。以下、「奇美社」)とイタリア企業・固喜歡固喜公司(GUCCIO GUCCI S.P.A.以下、「GUCCI社」)の間をめぐる登録番号第02099179号「CHIME文字と図」商標(以下、「CHIME商標」)異議申立事件において、台湾・知的財産局(以下、「知財局」)の決定(案件番号:經訴字第11217300710号)を取り消した。

そして、GUCCI社の登録商標「CHIME商標」が、奇美社の著名な登録第1259430号、第1259543号「CHIMEI」商標(以下、合わせて「CHIMEI商標」)と類似し、誤認を生ずるおそれがあると認め、知財局に改めて適法な決定を下すよう命じた。

本件で奇美社が異議を申し立てた「CHIME商標」は、GUCCI社が2019年7月12日付で知財局に出願し、2020年11月1日付で商標登録を受けたもので、第36類(慈善のための募金、募金、金融又は財務に関する調査、投資、建設プロジェクトのための資金の貸付けの手配などを含む)と第41類(教育、知識又は技芸の教授、娯楽の提供、運動競技会や文化イベントの企画・運営、画廊・学校教育などを含む)を指定役務とする商標である。

奇美社は、当該商標が「CHIMEI商標」と類似しており、需要者に誤認を生じさせるおそれがあるとして、商標法第30条第1項第10号、第11号に違反すると主張した。

それに対し、知財局は、2022年10月31日付で異議申立不成立の決定を下した。

「CHIMEI商標」は著名商標であり、「CHIME商標」は「CHIMEI商標」と同一又は類似する役務を指定するものであると認めたが、「CHIME」という文字は特定の意義を持ち、また、「CHIME商標」全体には他のデザインがあり、奇美社の会社名の英訳による「CHIMEI」と比べると、両商標は、称呼・外観及び観念が異なるものであり、商標全体としての類似性は極めて低いと考えられるとした。
それに加えて、両商標が各々の識別性を備え、需要者が両商標のことをかなり熟知していることを踏まえ、誤認を生ずるおそれがないと判断された。

奇美社がこの決定を不服として、訴願を提起したところ、訴願会は、知財局による商標法第30条第1項第10号に基づいた異議申立不成立との決定を取り消す処分を下した。

訴願会は、「CHIME商標」と奇美社の「CHIMEI商標」を比べると、両商標の主な識別部分は同じく「CHIME」であり、両者はフォントの違い及び語尾に「I」がついているか否かなどの僅かな差異しかなく、需要者は「CHIMEI」と同じ発音で称呼する可能性があることから、両商標は、称呼・外観及び観念における類似性が低くないとした。

そして、両商標が同一又は高度に類似する役務を指定していること、「CHIMEI商標」とGUCCI社の「CHIME商標」が各々識別性を有していること、需要者が両商標に対してある程度馴染んでいること、などの要素に基づいて総合的に判断した結果、GUCCI社が善意で「CHIME商標」を出願したとしても、需要者に誤認を生じさせるおそれがあると判断した。

また、本件のもう一つの争点となった商標法第30条第1項第11号について、訴願会は次のように認めている。

奇美社は世界最大手のABS樹脂製造者であり、その「CHIMEI商標」は奇美社が長期にわたり石油化学、電子工業などの商品や役務に使用したことによって、需要者・取引者の間で広く認識されている著名商標である。
また、奇美社は「CHIMEI商標」を奇美文化財団、奇美博物館など「CHIMEI商標」の指定役務と関連する役務に長年使用して多角化経営を行っている上、両商標の類似性も低くないこと等から、需要者に誤認を生じさせるおそれがあると考えられる。
よって、需要者がGUCCI社の「CHIME商標」と奇美社の著名な「CHIMEI商標」を混同するおそれがある。

上記から、GUCCI社の「CHIME商標」全体には「CHIMEI商標」と異なるデザインがあるものの、そのデザインが需要者による識別の依拠にできるものではないため、需要者の印象に残るものはやはり「CHIME」の文字であることが分かる。

訴願会は、これに基づいて「CHIME商標」が「CHIMEI商標」に類似する商標であると認め、結果的に本件を逆転させるポイントになった。

商標が類似するか否かを判断する際、原則として「全体的観察」によって判断されるとは言え、同時に、需要者に印象を与えられる「主要部分」があるか否かにも留意しつつ、総合的に両商標の類似性を判断するほうが妥当であると考えられる。


[出典:Saint Island International Patent & Law Offices]


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