近年、ChatGPTをはじめとする、人工知能（以下「AI」）の発展によりもたらされた新たなテクノロジーの登場により、職場におけるAIの導入は、企業間や業界間でますますホットな話題となっており、企業にとって刺激的な新たな機会がもたらされている。
AIの利用をめぐる法的な議論の大半は、主に仮定の話であり、AI関連の問題に対処するために必要な規制や法的枠組みは、まだ発展途上にある。
しかし、AIテクノロジーを導入する企業やAIテクノロジーを使用する第三者と協働する企業は、そのようなAIを使用することが与える法的な影響の可能性を考慮する必要がある。
企業は、法的リスクや予期せぬ結果に対処し、その影響を最小限に抑えるための積極的な対策を講じることが可能である。
たとえば、最近起きた2つの出来事は、AIが知的財産権の創造と保護にどのような影響を与えうるかを示している。

まず初めに、コロンビア特別区連邦地方裁判所は、2023年8月18日、Thaler対Perlmutter事件において、AIが人間の関与なしに生成した芸術作品は著作権法による保護の対象とはならないと判示した。
裁判所は、著作権はAIの所有者に帰属すべきであるとする原告の主張を退けたのだ。
裁判所は、作品の生成に人間の関与がなかったという事実が、当該作品を著作権による保護の対象から除外することになると判示した。
さらに、裁判所は、著作権法の中核をなすのは人間の創作活動であり、人間の関与なくして著作権は存在しないと明確に述べた。

Thaler事件は視覚的な作品の著作権保護を扱ったものだが、その判示は、楽曲、文学、さらにはソフトウェア・コードにも適用される可能性がある。
さらに、Thaler事件はAIが作品全体を作り出した状況に関してのものだが、作品の著作権保護を危険に曝すことなくAIが作品の創作に関与することが許されるのはどの範囲までなのかという残された問題がある。

次に、全米脚本家組合(Writers’ Guild America)（以下「WGA」）による長期にわたったストライキの後にWGAと全米映画・テレビ製作者同盟（Alliance of Motion Picture and Television Producers）（以下「AMPTP」）の間で締結された2023年の最低基本合意（Minimum Basic Agreement）（以下「MBA」）は、著作権の創出と保護の問題に対処するために（また、脚本家の雇用を守るために）、契約当事者が職場でのAIの使用に関する様々な条項を契約書にどのように組み込むことができるかの例を示している。
たとえば、MBAには、AIを「人」、「作家」、「プロの作家」とみなさないことに両当事者が同意することを示す明確な文言が含まれている。
また、MBAは、企業がライターにAIの使用を要求することはできず、企業がAIを用いて脚本を書いたり書き直したりすることはできないと定めている。
MBAはさらに、必要な場合には、ライターは企業の同意を得てAIを使用することができると定めている。
最後に、AIを訓練するために作家の素材を使用することは明示的に禁止しない一方で、MBAは、「AIを訓練するために作家の素材を利用することはMBAまたはその他の法律で禁止されている」と主張する権利をWGAが留保していることを認めている。

AIを取り巻く規制・法的枠組みはまだ黎明期にあるが、本稿で取り上げた2つの事例が示すように、企業は、AIを利用することの法的な影響を検討し始めるべきであるといえる。
企業はまた、AIが自社の知的財産を危険にさらしたり、企業自身が法的責任にさらされたりするリスクから身を守るために、積極的な措置を採り始めることが可能である。
このような措置には、たとえば、社内規程の策定や、AIの使用について規定する特定の条項を第三者との契約に盛り込むことなどが含まれる。