2026.05.12IP台湾:地名商標の識別力と保護の限界
台湾:地名商標の識別力と保護の限界
地名を商標に用いる場合、多くの面で登録拒絶のリスクが伴うため、特に注意が必要である。
第一に、地名が実際の出所と異なる場合、欺瞞性を帯びた記述と見なされる可能性がある。
例えば、「大成鹿野」を商標として出願していながら、その商品原材料の産地が鹿野でない場合、台湾商標法第30条第1項第8号に違反する可能性がある。
また、「Boy London」商標を出願した事例では、商品及び原材料がロンドンと無関係でありながら、消費者に出所がロンドンである、又はロンドンと関連する商品又は役務であると誤認させる虞があるため、裁判所は登録を認めなかった。
第二に、地名が公共の利益や地域のイメージ保護に関わる場合、政府機関により使用が制限されることがある。
例えば、観光地の「日月潭」や「台北」が挙げられる。
第三に、出願された地名が単に商品又は役務の出所を示しているに過ぎない場合、通常、識別力を有しないと認定され、登録は認められない(台湾商標法第29条第1項違反)。
しかし、識別力を有しない地名商標であっても、長期間の使用により消費者に特定の出所を示す標識として認識されるようになった場合には、台湾商標法第29条第2項に基づき、使用により識別力を獲得したと主張することで、登録が認められる可能性がある。
台湾知的財産及び商事裁判所は最近、「YORKSHIRE TEA」商標に関する無効審判事件において、地名商標の使用による識別力の獲得に関する判断基準に関する詳細な分析を行った。
・事件経緯
英国BETTYS & TAYLORS社(以下B&T社)は、2017年に上記「YORKSHIRE TEA」商標を台湾特許庁に出願し、第30類の茶類関連商品を指定商品とした。
台湾特許庁の審査において、本件商標は外国語のみで構成されており、消費者に対して商品が英国ヨークシャー産であると理解されやすく、記述的な文字に属するため、商品の出所を表示する機能を欠いており識別力に乏しいと認定され、登録拒絶の通知が出された。
しかし、B&T社が提出した使用証拠に基づき審査を行った結果、台湾特許庁は、本件商標が既に使用による識別力を獲得していると認め登録を認めた。
その後、馥餘実業股份有限公司(台湾BARISTA COFFEE社 以下馥餘社)が、B&T社商標は商品の産地について消費者に誤認を生じさせるものであり、識別力を有しないとして、台湾特許庁に対し無効審判請求を行った。
台湾特許庁は馥餘社の主張を退ける審決を下し、その後に馥餘社より提起された訴願も棄却され、行政訴訟を提起したが、知的財産及び商業裁判所は審理の後、訴えを退ける判決を下した。
・本件における法律上の争点
台湾商標法において、第29条第1項第1号で規定される、商品の産地又は関連する特性等を記述する文字のみで構成される商標、又は、同条第3号で規定されるその他識別力を有しない標識のみの商標に該当する場合については、登録が認められない。
したがって、本件「YORKSHIRE TEA」商標が、英国に古くからある地名「YORKSHIRE」と、商品名である「TEA」から構成されており、その登録が上記規定に違反するかどうかが本件の争点となった。
・裁判所の見解
台湾知的財産及び商事裁判所は、第29条第1項第1号及び第3号の規定に違反する商標について登録は認められないが、同条第2項の規定を満たし、使用による識別力を獲得している場合には、既に商標としての機能を有するものと判断し登録が認められるとしている。
馥餘社は、B&T社が提出した証拠資料はいずれも海外でのマーケティングに関する資料であり、台湾における使用状況を証明するものではないと主張した。
さらに、英国ヨークシャーという地名が、消費者に対して当該商品が英国ヨークシャーで製造・生産・設計・使用されたものであると連想させ、識別力を有しない等と主張した。
しかし裁判所は、「YORKSHIRE TEA」商標について、以下の理由に基づき、B&T社が台湾において使用による識別力を既に獲得していることを証明するのに十分であると認め、馥餘社の訴えを棄却した。
- 使用による識別力を獲得したかどうかは、商標の使用期間、商品の表示方法、市場でのマーケティング状況、消費者の認識等の要素を総合的に観察して判断すべきである。
- B&T社が1970年代末から「YORKSHIRE TEA」を茶葉ブランド名としており、英国国内で長年にわたり経営し、多くの国で商標の登録が認められていることや、台湾でも2000年から百貨店、スーパーマーケット、コーヒーチェーン店、ECプラットフォーム等を含む多くの実店舗及びオンライン店舗で安定して販売されており、市場シェア及び認知度が継続的に向上していると認定した。
- B&T社が提出した証拠には、本件商標「YORKSHIRE TEA」を使用している商品実物のパッケージ、販売チャネルでの陳列写真、台湾の販売代理店を通じた取引記録、ブランドプロモーション資料等が含まれており、これらは本件商標が台湾において長期且つ一貫して使用され、台湾市場において特定の出所との関連性を確立していることの証明に十分である。
したがって、消費者が当該商品に接する際、「YORKSHIRE TEA」の文字によって出所を識別でき、単なる記述的語句として用いられているものではない。
また、馥餘社の主張は、使用証拠の一部を切り取って反論しているものであるため、採用するには不十分である。
以上から、B&T社が「YORKSHIRE TEA」事業を構築してから既に100年以上が経過し、多大な時間・金銭・労力を費やして、本件商標を茶に関連する商品及び役務に広く使用し、大量の広告及びプロモーション活動を行っていることは、本件商標の評判が既に確立されていることの裏付けとなり得る。
したがって、本件商標は使用による識別力を獲得していると判断すべきである。
・まとめ
地名は公的な情報に属し、特定の企業が独占することはできないが、必ずしも商標として登録できないというわけではない。
適切なデザインの組み合わせ、登録戦略及び使用証拠により、地名商標として保護を受ける可能性はある。
以下に出願戦略の提案を示す。
1.単純な地名商標のみの出願を避ける
単純な地名語句(台北,イタリア,Yilan等)は、出願時の通過率が極めて低いため、地名のみを商標構成要素とすることは避けることが望ましい。
消費者によく知られている地名語句(国名や主要都市名など)は、特定の商品が生産されていること、又は特定の役務が提供されていることが知られていない場合であっても、消費者にとっては、単にある地名を指し示す意味合いにとどまることから、通常は識別力を有しないものと判断される。
2.他の識別要素と組み合わせたデザイン
地名を他の創作的要素と結びつけた場合、より識別力を強めることができる。
例えば、ブランド名を加えたり、図形要素と組み合わせたりすることが挙げられる。
これにより、地名は記述的語句ではなく象徴的な要素となり、識別力の有無の審査において有利となる。
3.登録区分及び商品・役務を正確に選定する
国名や主要都市名以外の地名の場合、その記述性は、出願する商品・役務により異なる。
例えば、「阿里山」(台湾の有名な茶葉の生産地)を「茶葉」の商品に使用する場合、記述的語句であるとされる可能性があるが、「玉山」(台湾で最も高い山)を「銀行」と組み合わせて「玉山銀行」(実在する台湾の銀行名)のように使用する場合は関連性が低く、登録可能性は相対的に高くなる。
出願人は地名との関連性が低い区分を選ぶことで、拒絶リスクを避けるべきである。
4.使用証拠を収集し準備する
企業が既に当該地名商標を長期間にわたり使用しており、市場の認知を得ている場合、使用により獲得した識別力を主張することができる。
証拠資料としては、販売額及び販路の情報、広告掲載の記録(紙媒体・インターネット・映像)、メディア報道又は市場調査報告等の証拠資料を準備することが推奨される。
[出典:維新国際専利法律事務所]