2018.04.10IPEU:英国のEU離脱に関する離脱協定案と知的財産
EU:英国のEU離脱に関する離脱協定案と知的財産
2018年3月19日付で英国の離脱条件を定める「離脱協定」草案最新版が公表され、英国政府と欧州委員会は概ね合意に達した。この草案はEU側の立場で作られたもので、合意を優先するため、英領北アイルランドとEU加盟国のアイルランド間の国境問題など難題は先送りした。離脱協定には、Brexit後のEUTM(欧州連合商標)とRCD(欧州共同体意匠)の扱いに関する欧州委員会の提案を明示している。
概ね合意というのは、幾つかの項目については完全に合意に達しているが、その他の部分については交渉が継続中だからである。英国政府のWebサイト上で草案全文が確認できるが、英国・EUの双方が合意した部分は緑、大筋合意したものの調整が必要な項目については黄色のマーカーで提示され、交渉中の項目はマーカーなしのまま掲載されている。
今回合意に達したもののうち主要な項目は、離脱日の2019年3月29日後、2020年12月31日までを移行期間と決定したことである。移行期間中、英国では基本的にEU法が適用され、EU法の定義する「EU加盟国」には英国を含むものとして理解される。
さらに移行期間中、英国の弁護士はEU知的財産庁およびCJEU(欧州司法裁判所)に対して代理権を行使できる。
移行期間終了後、EUTM等のEU知的財産権の効力が英国にまで及ぶことはなくなるが、協定草案は、移行期間の終了前に登録または権利化されたEU権利(EUTM、登録済共同体意匠及び品種登録)の所有者は、自動的に英国で同等の知的財産権を付与されると規定している。EUTMの場合、同一の商品・サービスにおける同一の標識で構成される商標を意味する。また、英国商標はEU商標をもとにシニオリティを主張でき、離脱後に迎える最初の更新日は、対応するEUの権利の更新日と同じになると規定している。
英国商標について、EUにおける名声も英国における名声と看做されるが、移行期間後も継続して名声を得ていることを主張する場合は、イギリスにおける使用に基づかなければならない。
移行期間中に出願されたEUTM又は共同体意匠については、移行期間終了日から9か月以内に全く同一のEUTM又は共同体意匠をイギリスに出願できる。この場合の出願日はEUの出願日となる。
その他、係属中の無効審判、真正の使用(Genuine use)、未登録の共同体意匠についても英国・EUの間で合意されている。
双方が合意に達していない項目の中で大きな問題は、EU権利の英国への自動拡張についての費用負担がある。草案ではこれについて英国負担としている。
また、地理的表示(GI、PDO等)についても合意に達していない。
最後に今回の「合意」は今後更に欧州理事会の承認を得た後、EU議会の承認を得なければならず、最終的な合意ではない。
本件について進展が在り次第、IPニュースでもお伝えする予定である。
[出典:Herbert Smith Freehills LLP]