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2022.09.06IP中国:商標の抜け駆け登録に関わる民事責任


中国:商標の抜け駆け登録に関わる民事責任

最近、福建省高級人民法院は、原告の艾默生電気公司(以下、「艾默生公司」)と被告の厦門和美泉飲水設備有限公司(以下、「和美泉公司」)、厦門海納百川網絡科技有限公司(以下、「海納百川公司」)、王移平、厦門興浚知識産権事務有限公司(以下、「興浚公司」)との不正競争紛争案に対して、二審判決を下した。

本件経緯
1.被告一の和美泉公司、被告二の海納百川公司は、法廷代表者(王移平)が同じな関連会社である。
被告一の和美泉公司は、2010年から2019年まで、合計27回で原告の「愛適易」「愛適易INSINKERATOR及び図」などの核心的な商標を15類の商品/サービスに登録出願した。被告二の海納百川公司は、2017年から2019年まで、合計21回で原告の」「愛適易INSINKERATOR及び図」商標を13類の商品/サービスに登録出願した。

また、上記2社は、他の国内外の名ブランドと同じ又は類似する商標も多数出願した。原告が複数回も異議を申し立て、及び無効請求をしたところ、北京市高級人民法院は、被告の上記行為が信義誠実の原則に違反し、故意に他人の知名度の高い商標を複製、盗作することが明らかであり、正常な商標登録秩序を乱したと認定した上、上記商標の登録を許可しなかった、又は、無効にした。

2.被告一の和美泉公司の上記27回の商標登録出願の中、26回の代理人は被告四の興浚公司であった。
被告二の海納百川公司の21回の商標登録出願の代理人は全て被告四の興浚公司であった。

3.原告は、被告の商標抜け駆け登録行為に対応するために、弁護士に商標訴訟、商標無効審判請求、行政訴訟を依頼し、合計1386165.31元の弁護士費用を支払った。

4.原告は、法院に訴訟を提起し、主に下記の2点を主張した。
①被告に侵害行為(艾默生公司の「In-Sink-Erator」「愛適易」などの商標と同じ又は類似する商標を抜け駆け登録する行為など)を停止せよと命じる。
②各被告が連帯賠償責任を負い、原告に経済損失及び合理的な支出を合計500万元払うことを判決する。

本件判決のポイント
1.被告の商標抜け駆け登録行為が不正競争に該当すると認定した。
具体的には、下記のように認定した。艾默生公司の継続的な宣伝とプロモーションにより、「愛適易」商標が食品廃棄物処理機分野で一定な影響力を持ってきた。
また、インスタントホットドリンクシステムにも関わっている。
一方、和美泉公司と海納百川公司は浄水装置の製造販売を業としており、その製品に艾默生公司と同様なもの(環境にやさしいキッチン設備と浴室用設備)があるため、ある程度で競争関係になっている。

このような状況で、和美泉公司と海納百川公司(両者の法廷代表者がともに王移平である)は、複数類の商品/サービスに艾默生公司の「愛適易」商標シリーズと同じ又は類似する商標を多数登録出願した。
しかも、その登録出願の意図及び関連商標設計の出所などについて合理的な説明をしなかった。
これらの行為は、明らかに正常な営業需要の範囲を超えており、艾默生公司の正常な製造販売に一定な影響を与えた。
したがって、艾默生公司は商標異議申立、商標無効審判請求、行政訴訟及び本件の民事訴訟により、自社の合法的権益を保護せざるを得ない。
和美泉公司と海納百川公司が悪意により商標を抜け駆け登録した行為は、信義誠実の原則に違反し、公正な市場競争秩序を乱し、艾默生公司の合法的権益を損害したため、「中華人民共和国不正競争防止法」に規定の不正競争行為に該当する。

2.被告に、原告の「In-Sink-Erator」「愛適易」などの商標と同じ又は類似する商標を抜け駆け登録する行為を停止せよと命じた。
具体的には、下記のように認定した。
本件被疑侵害商標が全て無効にされた、又は登録を許可されなかった、又は取り消された、又は出願人が自発的に出願を取り下げたが、商標抜け駆け登録行為が公正な市場競争秩序を乱し、また侵害のコストが低いため、侵害行為を停止せよと被告に命じないと、権利者は引き続き商標意義申立、無効審判、行政訴訟などのようなコストの高い手段で自社権利を保護せざるを得ない。
したがって、原告の艾默生公司の上記主張を支持する。

3.代理人の興浚公司の行為が侵害に幇助する行為に該当し、興浚公司が侵害への幇助を停止し、一定な連帯賠償責任を負うという判決を下した。
具体的には、下記のように認定した。第11671228号商標を除き、和美泉公司と海納百川公司が登録した48枚の商標に47枚は、登録出願の代理人が興浚公司であった。
専門的な商標代理機構として、受任した商標登録業務に対して、積極的に調査・確認の義務を尽くし、登録してはならない状況がある場合、依頼人に明確に通知するべきである。
しかし、興浚公司は、依頼人の登録しようとする商標が「中華人民共和国商標法」に規定の使用を目的としない商標に該当することを知っているものの、依然として、受任した。
特に、2015年12月25日に、北京市高級人民法が終審で和美泉公司の抜け駆け登録行為を批判した後、興浚公司は、依然として和美泉公司の商標登録依頼を受任した。
上記興浚公司の行為は侵害に幇助する行為に該当したため、その他の被告と共同で法的責任を負うべきである。
したがって、興浚公司が連帯賠償責任として賠償額の40%を払うことを判決した。

4.賠償額について、原告の商標異議申立、無効審判で支払った弁護士費用などの実際支出の主張を支持した。
具体的には、下記のように判決した。
被告の大量の抜け駆け登録行為により、原告に客観的な経済的損失(商標異議申立、無効審判、行政訴訟及び本件の民事訴訟に掛かった弁理士費用など)をもたらしたため、「和美泉公司、王移平が共同で艾默生公司に経済的損失(権利侵害を差し止めるための合理的な支出を含む)の合計120万元を支払い、その中、興浚公司が連帯賠償責任として賠償額の40%(48万元)を負担する。
また、海納百川公司、王移平が共同で艾默生公司に経済的損失(権利侵害を差し止めるための合理的な支出を含む)の合計40万元を支払い、その中、興浚公司が連帯賠償責任として賠償額の40%(16万元)を負担する。」という判決を下した。

本件による示唆
本件は、我国が商標抜け駆け登録行為を抑制する多面的な措置における大きな突破である。
商標の悪意による抜け駆け登録に対して、我国は下記の複数の措置を取った。
①悪意による抜け駆け登録者をブラックリストに載り、商標出願審査段階で抜け駆け登録出願の商標に対して登録を許可しない。
②商標法を改正し、「使用を目的としない悪意による商標登録出願を却下すべきである。」という規定を追加した。
③2019年10月に、国家市場監督管理局は、「商標登録出願行為の規範化に関わる若干の規定」(2019年12月1日から施行)を公布した。
同規定に、悪意により抜け駆け登録出願人に対する処罰措置の「第12条 本規定第 3 条に違反し、悪意のある商標を登録出願した出願人について、商標法第 68 条第 4 項の規定により、その出願人の所在地又は違法行為発生地の県級以上の市場監督管理部門が情状に応じて警告、罰金などの行政処罰に処する。
違法所得がある場合、違法所得の3倍、最高で 3万元の罰金に処することができる。
違法所得がない場合、1万元以下の罰金に処することができる。」と規定された。
上記の措置は、悪意による商標の抜け駆け登録行為をある程度に抑制できるが、効果的に差し止めることができない。
その原因は、他人の知名ブランドを抜け駆け登録することによる巨大な利益より、支払う代価(商標が無効にされ、僅かの数千元の商標登録費の損失、及び数万元の罰金)が低くすぎるからである。

本件において、悪意による商標抜け駆け登録行為を不正競争行為に認定されたことで、悪意による抜け駆け登録者が民事責任を負わなければならないようになった。
この司法上の突破により、悪意による商標抜け駆け登録を効果的に差し止めることができる。

一、抜け駆け登録者にとって、民事賠償と行政罰金は登録費の損失と比べて、より大きな経済的代価である。
知的財産権に関わる民事訴訟において、被告の悪意の程度及び原告の損失などの状況により、数十万元乃至百万元の賠償額(行政処罰の罰金を遥かに超えている)を判決した事例が少なくない。
このような重い懲罰により、権利侵害の代価を引き上げ、悪意による抜け駆け登録を効果的に差し止めることができる。

二、民事責任に抜け駆け登録者の再度の抜け駆け登録を禁止することが含まれるため、根本的に悪意による抜け駆け登録を差し止めることができる。
権利確定の行政機関は商標審査、異議申立又は無効審判で抜け駆け登録した商標の登録を許可しない、又は抜け駆け登録した商標を無効にすることしかできいため、抜け駆け登録者の再度の抜け駆け登録を効果的に抑制できない。
一方、民事訴訟において、抜け駆け登録者が法院の判決により抜け駆け登録行為を停止しないと、膨大な賠償金を支払うことになりますので、これにより、抜け駆け登録行為が効果的に抑制されることができる。
また、権利者の権利保護のコスト低減及び国家の行政司法資源の節約もできる。

三、民事賠償に権利者の商標異議申立及び無効審判に掛かった弁理士費用などの支出が含まれるため、権利者が積極に権利行使することを促進することができる。
大量で複数回の抜け駆け登録行為に対して、高い時間的及び経済的なコストで権利行使(異議申立、無効審判など)することより、むしろ放棄或いは抜け駆け登録者に商標を買収するほうが良いと思う権利者が多いため、悪意による抜け駆け登録が更に多くなる恐れがある。
民事責任が導入されると、権利行使に掛かる費用が抜け駆け登録者より負担することになるため、権利者が積極的に権利行使するようになり、抜け駆け登録が効果的に抑制されることができる。

四、侵害者を幇助した代理機構より連帯の民事賠償責任を負うことにより、代理機構が積極的に審査義務を履行することを促進できる。
知的財産権専門サービス提供者としているものの、抜け駆け登録案件で審査の義務を尽くさなかった商標代理機構が多い。
更に、代理費用を稼ぐために、依頼人の抜け駆け登録行為を幇助する代理機構もある。
したがって、以前のように代理機構に対して行政処罰措置を取るだけで、抜け駆け登録への幇助行為を抑制できないため、民事責任を導入することで、代理機構が積極的に審査義務を履行することを促進し、悪意による抜け駆け登録を阻止することが必要である。


[出典:康信知識産権代理有限責任公司]


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