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2023.02.28IPEU:海外で提供されている商品/役務の使用に関する事例


EU:海外で提供されている商品/役務の使用に関する事例

EU一般裁判所(The General Court)は、欧州連合知的財産庁(EUIPO)の審判部(Boards of Appeal)が下したEU商標の不使用取消審判に関する審決を覆し、EU圏外のホテル及びその付帯サービスに関する広告・宣伝活動は、EU圏内での使用行為に該当すると判断した(The General Court decision in Case No. T-768/20 (Standard International Management LLC v EUIPO)

【背景】
2011年、米国のホテルグループであるStandard International Management LLCは、図形商標「THE STANDARD」(英文字を上下逆さまに記した態様)を、ホテル、レストラン、バー、ケータリングなどに関連する商品・役務について登録した(登録番号第008405243号)。


 
2018年、香港を拠点とするホテルグループAsia Standard Management Services Ltdが、当該サービスはEU圏内では提供されておらず、米国国内のみを対象としているとして、商標「THE STANDARD」(登録番号第008405243号)に対して不使用取消審判請求を行った。
EUIPOの取消部門は当該商標のEU圏内での正当な使用が不十分であるとして、当該商標を取り消した。

【審判部(Boards of Appeal)の決定】
Standard International Management LLCは審判部に対し不服申立を行ったが、請求は棄却された。審判部は、当該商標のホテルと付帯サービスは米国でのみ提供されており、EUの関連領域外であると判断した。
当該商標権利者が提出したEU圏内の消費者に向けたホテルの広告と付帯サービスに関するすべての証拠について、審判部は関連性が無いとして不採用とする決定を行った。
また、対象とする消費者の国籍および出身地に関する証拠についても採用しなかった。
当該商標権利者の提出証拠をすべて却下し、商品やサービス自体がEU圏内で提供されていない場合、商標権利者は当該商標の正当な使用を証明することはできないと結論付けた。

Standard International Management LLCは、審判部(Boards of Appeal)の真正な使用に関する判断は誤っており、EU商標理事会規則第58条(1)(a)に反するとして、審判部の判断を取消すようEU一般裁判所に上訴した。

【EU一般裁判所の決定】
EU一般裁判所は審判部の決定を破棄し、次のように判断した:
・(提出された証拠が)EU圏内の消費者に向けたホテルと付帯サービスの販売促進(promotion)活動とは関連しないとみなした審判部の決定は誤りである。
・ホテルと付帯サービスを保護する商標のEU圏内での広告は、正当な商標の使用とみなすことができる。

EU一般裁判所は、サービスが提供される場所と、商標が使用される場所の相違を強調した。
商標の使用は様々な行為によって示され、サービスの提供のみに限定されるものではないため、
「商標が使用される場所」のみが真正な使用に該当するものではない。
広告や販売促進活動といった行為はEU商標規則による「商標の使用行為」であることから、これらの行為が関連する地域で行われる場合、商標の正当な使用と認められ得る。

さらにEU一般裁判所は、今回の議論となったホテルとそれに関連するサービスがEU圏外で提供されているかどうかにかかわらず、EU圏内で広告や販売促進活動が行われていれば、当該商標の正当な使用として認められると言及した。
商標の正当な使用を立証するためには、その商標が登録された指定商品/サービスの出所を表示する本質的な機能に沿って使用されていれば十分である。
したがって、出願人は米国国内で提供される商品及びサービスの販路を開拓し維持するために、EU圏内で商標を使用することが可能である。
このような解釈はEUIPOのガイドラインにおいても裏付けられている。
ガイドラインでは、商標が対象とする宿泊施設や特定の製品等の商品またはサービスが海外で提供されている場合、広告のみで正当な使用の条件を満たすと記されている。

【出典元代理人のコメント】
EU商標の正当な使用を確保するには、海外で提供されている商品やサービスに関するEU圏内の広告だけで十分であるとするEU一般裁判所の判決は、EU圏外に拠点を置く商標権利者にとって喜ばしいものであろう。
ただしこの判決はホテルとそれに付随するサービスに限定されており、今回の判決で提示された原則が他の種類の商品やサービスについても支持されるか否かはまだ不明瞭である。


[出典:International Law Office]


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