2025.01.15IPタイ:2文字商標の本質的な識別性
タイ:2文字商標の本質的な識別性
タイでは長い間ローマ字やアラビア数字の組み合わせから成る商標、特にデザイン化されておらず、発音もできない商標の登録は困難とされてきた。
タイ商標法第7条の「独創性のある文字および数字」の解釈については、これまで様々な見解が対立してきた。
知的財産局(以下「DIP」)は、文字や数字が本質的な識別性を持つためには、顕著な視覚的特徴を備えていなければならず、「独創性のある」ものは、文字の重なりやつながり等の様式またはタイの伝統的な口承文様や幾何学的モチーフのような複雑なデザインでなければならないと考えている。
上記は、DIPによる許容可能な文字・数字商標の例
しかし、裁判所は一貫して、3文字の商標は、デザイン化されずに表示される場合であっても本質的な識別性を具備し得ると認めている。
その根拠は、これらの商標はランダムで珍しい組み合わせと見なされ、多くの場合、一般的な単語と区別することができ、公衆が関連する商品/役務を識別し、他の商標と区別するには十分であるというものである。
登録性に関する最高裁判所の判例に従い、DIPは2022年1月に審査ガイドラインを正式に更新し、3文字以上の組み合わせは、たとえデザイン化や発音可能な単語で形成されていなくても、本質的な識別性があると見なすことができると認めた。
しかし、2文字商標については課題が残っており、登録性を獲得する上で依然として大きな障害に直面している。
・JD事件
<背景>
中国最大級の電子商取引企業であるBeijing Jing Dong 360 Du E-Commerceは、広告および経営管理に関する第35類役務について、下記の「JD.COM」(&図形)および「JD.CO.TH」(&図形)の商標を出願した:
DIPは、「JD」のデザイン化が不十分であり、「.com」と「.co.th」は一般的な記述的語であるとして出願を拒絶した。
出願人は商標委員会に上訴したが、商標委員会は拒絶査定を支持し、DIPの拒絶理由を繰り返し、商標は全体として本質的な識別性に欠けると判断した。
最初の拒絶査定にも関わらず、出願人は真っ向から対立する手段を選び、「JD」は出願人の会社名に由来する恣意的な文字の組み合わせであり、「.com」および「.co.th」は第35類役務を記述するものではなく、よって、商標は本質的な識別性があると断固として主張し、両決定に異論を申し立てる民事訴訟を提起した。
<知的財産・国際取引中央裁判所判決>
今回、知的財産・国際取引中央裁判所(以下、「IP&IT裁判所」)は、「JD」は通常のローマ字から構成されているが、これらは出願人の会社名(Beijing Jing Dong 360 Du E-Commerce)に由来し、通常の方法ではない組み合わせであるため、商標法第7条に基づき識別性を備えると判断し、出願人に有利な判決を下した。
また、IP&IT裁判所は、「.com」のような一般的な用語を商標として登録することは、役務を識別するものであれば禁止されていないことを認めた。
IP&IT裁判所は、「.com」や「.co.th」と組み合わせた場合、「JD」は識別力があり、登録の適格があると判断した。
<控訴審判決>
被告であるDIPは、「JD」には識別力がなく、「.com」と「.co.th」は一般的な記述的語であるため、分離による審査は正当であり、商標には本質的な識別性がないと主張し、判決を不服としてタイ専門事案控訴裁判所に控訴した。
2022年1月9日、控訴裁判所はIP & IT裁判所の判決を支持し、以下のように述べた:
「独創性のある」文字とは、公衆が「商標に関連するサービスを他のものと区別できる」ように、通常使用されない方法で文字を配置することを指す。
これは、それぞれの文字に特殊なデザインや独創的なアレンジが施されていることを意味するものではない。
出願人の商標の場合、ローマ字の「J」と「D」は、訳語や特定の意味なしに単一の平面上に一緒に配置されており、このような文字の配置が一般的に使用されているという証拠はない。
従って、「JD」は独創的な文字の配列と考えられ、商標法によれば、独自の識別力を有する。
<最高裁判所判決>
2024年8月8日、最高裁判所はDIPの上告を棄却し、控訴裁判所の決定を確定させ、2つのJD商標の登録性を支持した。
<(出典元代理人)コメント>
本事件、特に「JD」が特徴的な文字の配列であると裁判所が認めたことは、タイにおける2文字商標の登録性に関する法的基準の積極的な進化を浮き彫りにしている。
本事例は、2文字商標は十分に構成された事例があり、全体として識別性が証明されれば、実際に登録できる可能性があることを将来の出願人に明らかにした。
(IP&IT裁判所Back Case No IP 79/2564 (Red Case No IP 137/2565))
[出典:Tilleke & Gibbins International Ltd.]