2025.06.24IPイギリス:EU離脱後の英国商標の脆弱性 2025年以降の使用要件について
イギリス:EU離脱後の英国商標の脆弱性 2025年以降の使用要件について
英国のEU離脱(Brexit)後、ヨーロッパにおける商標権を巡る状況は大きく変化した。
最も重要な変化のひとつが、既存EU商標と同等の英国商標が自動生成されたことである。
この措置により、英国における商標権保護の継続性が確保された。
しかしながら、このような英国のいわゆる「クローン」商標について、特に異議申立や不使用取消訴訟における審査が今後より厳しくなる見込みである。
2025年12月31日にEU離脱の移行期間満了日(IP Completion Day)から5年を迎えるにあたり、クローン商標に関する規則の変更が予定されている。
この変更により、クローン商標で保護する商品役務を英国で使用していない権利者は、脆弱な立場に置かれる可能性がある。
■英国「クローン」商標の設定と役割
2021年1月1日、英国知的財産庁(UKIPO)はEU登録商標すべてについて、同等の権利を持つ英国商標を自動生成した。
これらのクローン商標は、もとのEU商標の出願日、優先権主張、シニオリティ(seniority)主張を保持し、EU商標からは独立して存在し、英国法の適用を受けるものである。
Brexit後の英国とEU商標制度の決定的な違いの一つが、商標の真正な使用の要件である。
そもそも英国法において、商標は登録から5年以内(または以前の使用期間の終了から5年以内)に英国内で使用されなければならず、使用されない場合は取消請求等に対して脆弱となる。
しかしながら、Brexit後の移行を円滑に行うため、UKIPOは英国商標の権利者が不使用取消を受けたり異議申立を行ったりする場合、移行期間中の(英国ではなく)EUにおけるEU商標の使用に依拠してよいと認めた。
■異議申立や取消訴訟における使用要件
異議申立の場合、英国商標が異議申立時に登録から5年以上経過している場合、異議申立人は使用を証明する必要がある。
ただし、このような(異議申立の根拠となる)英国商標の多くは英国で使用されていないEU商標からクローンされたものであるため、2021年1月1日より前の移行期間中は、使用要件をEUでの使用に依拠することが認められていた。
同様に、取消訴訟(特に不使用取消)において、英国のクローン商標の権利者は、商標の使用が真正でありかつEU市場全体を対象としたものであれば、EUにおける2021年より前の使用に依拠してクローン商標の権利を守ることができた。
このような暫定的な措置は、英国市場に進出していないEU商標権利者が、Brexitに伴う法的移行を理由として罰則を受けることを防ぐことを目的としていた。
■現在の状況
英国のクローン商標の権利者は、2021年1月1日より前のEUにおけるEU商標の真正な使用に基づき、そのような使用が使用要件の5年間に該当する場合は、商標権の保護や他者への係争を行うことが可能である。
しかしながら、この暫定措置は2025年12月31日に終了する。
該当する使用期間が2021年1月1日より前の期間を含む商標については、EUでの使用も引き続き考慮して審査がなされる可能性はあると考えられる。
しかし、使用期間が完全に2021年1月1日以降に始まる場合、UKIPOはEUではなく英国領域内の真正な使用証拠を要求することになる。
つまり、2024年以降に請求される手続きにおいて、Brexit以降に英国で使用されていない英国のクローン商標は、その使用の質と量、商品役務の性質によっては、取消される可能性が高くなったり、異議申立における根拠商標としての有効性が低くなったりする可能性がある。
商標の使用は、単に登録維持のみを目的とした形式的なものではなく、真正な使用であることを証明しなければならないが、その使用は必ずしも数量的に顕著である必要はない点に注意が必要である。
UKIPOの係争手続で根拠とされる使用証拠の有効性は、多くのケースにおいて、権利者の事業や商品役務の性質に左右される。
■今後に向けて:2025年以降の新しい規則
2026年1月1日は権利者にとって重要な日付である。
2026年1月1日以降、EUにおける商標の使用は、UKIPOの係争手続において英国商標の使用証拠としては認められなくなる。
この変更により、Brexit以降に英国で使用されていない英国のクローン商標の脆弱性が大幅に高まることになる。
例えば、2016年に登録された英国のクローン商標は、不使用取消等による取消を回避したり、異議申立において根拠商標としたりするためには、2021年から2026年の間に英国で真正に使用された事実を証明しなければならなくなる。
■商標権利者が考えるべきこと
移行期間が間もなく終了する今、権利者は今すぐ対策を講じる必要がある。英国のクローン商標の権利者は、以下の4点を行うべきである。
1.ポートフォリオの精査を行い、英国での真正な使用がないことで取消のリスクがある商標を特定する
2.英国での商標の商業的使用を開始または強化し、その使用を十分に記録し、訴訟手続において証拠として提出できるように準備をしておく
3.使用の立証が困難である場合、商標の再出願やリブランディングを検討する
4.権利行使、特に使用証拠が必要となる異議申立について、戦略の見直しを行う
[出典:Venner Shipley]