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2025.10.21IP台湾:最高行政裁判所が知的財産及び商事裁判所の「誤認混同の虞」に関する判決を覆す-Amazon Alexa商標異議申立事件


台湾:最高行政裁判所が知的財産及び商事裁判所の「誤認混同の虞」に関する判決を覆す-Amazon Alexa商標異議申立事件

最近、台湾知的財産及び商事裁判所は商標異議申立に関する案件で、台湾特許庁の判断及び経済部(日本の経済産業省に相当)の決定を覆したが、案件が最高行政裁判所に上訴されると、最高行政裁判所によって当判決は即座に破棄された。
本件における商標の類似性判断、使用証拠や認知度等といった様々な判断要素に関する見解は、大変注目に値する。

事件経緯
世界最大のインターネットオンライン小売業者であり、米国の有名な多国籍電子商取引会社である「アマゾン株式会社(Amazon.com, Inc.)」は、電子商取引プラットフォーム、クラウドコンピューティング、ストリーミングメディア、AI等、多岐に渡る事業を展開しており、2014年に最初の音声アシスタント商品「Amazon Alexa」を発売し、青い吹き出し型の図形を商標とした。
その後、2017年12月1日、傘下の技術開発子会社「アマゾンテクノロジーズ株式会社(AMAZON TECHNOLOGIES, INC.)」(以下「アマゾンテクノロジーズ社」、すなわち異議申立人)が、台湾で前記図形商標(以下「Amazon Alexa商標」)を商標登録した。

台湾の電子商取引会社である「旺沛大数位株式会社(WanPay Digital Marketing Co., Ltd.)」(以下「WanPay社」、すなわち本件商標権者、原告)は、2020年1月16日、二重チェックマークを丸で囲んだ図形の商標(以下「本件商標」)を商標登録した。
その後、アマゾンテクノロジーズ社が、本件商標とAmazon Alexa商標が酷似しているとして台湾特許庁に対して異議申立を行い、異議が認められた。

WanPay社はこの異議申立による商標無効の決定を不服とし、経済部に訴願を提起したが、経済部はこれを却下した。
これを受けて、WanPay社は知的財産及び商事裁判所に行政訴訟を提起し、第一審において、台湾特許庁及び訴願審議委員会の決定が覆され、双方の商標は類似していないとして、原処分を取り消す判決が下された(知的財産及び商事裁判所111(2022)年度行商訴字第28号)。

しかし、アマゾンテクノロジーズ社が最高行政裁判所に上訴すると、最高行政裁判所は知的財産及び商事裁判所の判決を破棄し、審理の差戻しを命じた(最高行政裁判所112(2023)年度上字第21号判決)。
知的財産及び商事裁判所は差戻し審を行い、最終的にWanPay社の主張を退け、アマゾンテクノロジーズ社の勝訴とする判決を下した(知的財産及び商事裁判所113(2024)年度行商更一字第1号判決)。

知的財産及び商事裁判所の判決見解(第一審)[1]

第一審では、台湾特許庁及び訴願審議委員会の決定を覆し、双方の商標は類似しないとして、原処分を取り消す判決を下した。
見解は以下の通りである。
(1) Amazon Alexa商標と本件商標の構成は類似性が低い
Amazon Alexa商標は、一部が欠けた円形の淡い青色の吹き出し型の図形により構成されているが、本件商標は一部が欠けた円形の黒色の吹き出し型及びその中にある二重チェックマークの図形により構成されている。
2つの商標が消費者に対して与える全体的な印象については、内部の二重チェックマークの有無や色の違いから視覚的に異なり、識別可能な差異を有する。
よって、全体観察の観点から言えば、2つの商標は明らかに異なるもので、類似性は低い。

(2) 双方の商標は関連消費者に広く認知されていない
アマゾンテクノロジーズ社により提出された資料について、その内容は単にAlexa製品の海外での販売状況を示すもの又は単なるアマゾン社の紹介に過ぎないため、本資料ではAlexa製品が台湾において一部の関連業者や消費者に認知されていることしか証明できない。
また、WanPay社が提出した使用証拠は、日付のない宣伝資料1枚と、視聴回数がわずか48回のYouTube動画1本であり、こちらも関連消費者に広く認知されていると認定するには不十分である。

(3) 本件商標の出願は悪意ではない
アマゾンテクノロジーズ社は、自社ブランド商品「Alexa」は既に金融決済サービスと結びついた事例があり、電子決済、ソフトウェア開発、金融等を中心ビジネスとするWanPay社は必然的にアマゾンテクノロジーズ社の「Alexa」ブランド及びその商標を認知していたと主張した。
しかし、台湾国内ではそのような事例についての報道は少なく、また台湾国内で金融決済サービスが使用された具体的な事例もない。
よって、WanPay社がAmazon Alexa商標を認知していた上で悪意にそれを模倣し、本件商標を出願したと認定するには不十分である。

上記を総合すると、2つの商標は区別可能であり、台湾国内における双方の商標の使用状況から、関連事業者や消費者に広く認知されているものではないため、関連消費者が2つの商標を誤認混同する可能性は低い。

最高行政裁判所の判決見解(上訴審)[2]
しかし、最高行政裁判所は知的財産及び商事裁判所の判決を破棄し、審理の差戻しを命じた。
見解は以下の通りである。
(1) 本件商標はAmazon Alexa商標を完全に取り入れており、類似性について再度慎重に検討する必要がある
2つの商標を比較した際、本件商標は吹き出しの形、線の太さ、欠けている部位がすべてAmazon Alexa商標と完全に一致しており、相違点は色及び内部の二重チェックマークの有無のみである。
また、チェックマークは一般的に認証や確認を示すものであり、色の違いのみでは区別に限界がある。
第一審では、2つの商標が消費者に与える印象は異なり、類似性は低いとしたが、この点については再度慎重に検討する必要がある。

(2) 第一審では双方の商標の使用証拠及び認知度について十分に審議していない
商標間に誤認混同の虞があるかどうかを判断する際、「各商標の関連消費者における認知度」は審査要素の一つであり、より広く認知されている商標に対しては、より強い保護を与えるべきである。
アマゾンテクノロジーズ社から提出された根拠によれば、Amazon Alexa商標は、スマート音声アシスタント「Amazon Alexa」のマークであると同時に、モバイルアプリ「Amazon Alexa」でも利用されている商標であることが確認できる。
また、台湾の複数のメディア報道によれば、Amazon Alexa商品に関する報道や、台湾国内の消費者の評価も一定数存在している。
一方で、WanPay社が提出した使用証拠は、日付の記載がない中国語の宣伝資料1枚と、視聴回数がわずか48回のYouTube動画1本のみである。
第一審では、Amazon Alexa商標に関する報道の多くが海外での販売状況についてである点のみに基づき、双方の商標は関連事業者や消費者に認知されていないと判断したが、これは明らかに不適当である。

(3) 第一審ではWanPay社が関連消費者に双方の商標を誤認混同させる意図があったかどうかを調査していない
第一審において既にWanPay社の主な事業範囲が電子決済、ソフトウェア開発、金融サービスであると認定しており、さらにアマゾンテクノロジーズ社は本件商標が出願される前にAmazon Alexa製品が金融決済サービスと結びついていることを示す報道や広告を証拠として提出した。
たとえ台湾国内でまだそのサービスを利用できないとしても、客観的に見てWanPay社がAmazon Alexa製品が金融決済に用いられているという事実を認知していた可能性はある。
本件商標はAmazon Alexa商標を完全に取り入れており、また指定商品もコンピュータソフトウェア等で類似性がある上、実際には金融決済サービスにも使用されていることから、WanPay社側が関連消費者に誤認混同を生じさせる意図があったかどうかについても再度調査すべきである。

知的財産及び商事裁判所の判決見解(差戻し審)[3]
知的財産及び商事裁判所に差し戻され再度審理した結果、知的財産及び商事裁判所は最高行政裁判所の見解に従った。
裁判所は、Amazon Alexa商標と本件商標の類似性の高さを認めるとともに、Amazon Alexa商標は関連消費者により広く認知されており、より強い保護を与えるべきであるとした。
また、アマゾンテクノロジーズ社は関連消費者に広く認知されており、客観的に見て関連消費者が誤認混同する虞があるとした。
最終判決において、WanPay社の訴えは退けられ、アマゾンテクノロジーズ社が勝訴した。

出典元事務所コメント
2つの商標間に「誤認混同の虞」があるかどうかは、各国の商標関連法や審査実務の違いにより、主観的な認定に基づく場合もあれば、単に機械的に比較する場合もある。
台湾の場合、台湾特許庁が「誤認混同の虞の審査基準」を定めており、複数の考慮要素を挙げた上で、各要素について詳細な説明がされている。実務の上でも、この基準が商標間の誤認混同の虞の有無の判断に対する参考基準として用いられている。

「誤認混同の虞の審査基準」は2021年10月に改訂され、例えば、第5.2.6.11節「商標の一部が他人の商標の全部である、又は他人の商標の主要識別部分を含むものは、……類似の程度は高いと認定することができる」などの、いくつかの審査基準が追加された。
本件において、最高行政裁判所はAmazon Alexa商標と本件商標の類似性を比較する際に、この審査基準を採用し、本件商標がAmazon Alexa商標を完全に取り入れていることから、第一審での2つの商標の類似性判断には疑問があると指摘した。

また、「関連消費者の各商標に対する認知度」もまた「誤認混同の虞の審査基準」における審査要素の一つである。
もし関連消費者が一方の商標のみを認知しており、2つの商標を誤認混同する虞がある場合、認知されている側の商標に対してより強い保護を与えることが考慮される。
しかし、この判断基準は商標の指定商品又は指定役務の範囲にもよるため、主張する側は使用証拠を提出する必要がある。多国籍企業が販売する製品の消費者は通常、全世界に存在するため、特に台湾国内での商標の使用実態や証拠の有無について注意する必要がある。

最高行政裁判所が判決で示した見解を例にとると、アマゾンテクノロジーズ社が提出した台湾メディアの報道が訴訟の勝敗を決定する重要な要素の一つとなった。
第一審では、これらのメディア報道は「Amazon Alexa」製品の海外での使用状況を示しているとした。
しかし、最高行政裁判所はこの判断を覆し、これらのメディア報道は商品や商標について言及しており、また該当商品が台湾国内でも販売されていること、及び台湾国内の消費者により評価や商品の操作方法について議論がなされていることから、第一審を取り扱う裁判所(すなわち知的財産及び商事裁判所)において関連消費者の認知度に関して再度詳しく審査すべきであると指摘した。
最終的に、知的財産及び商事裁判所の差戻し審の判決においても、Amazon Alexa商標は台湾国内の関連消費者に広く認知されており、より強い保護を与えるべきだと認定された。

関連消費者の商標に対する認知度は、誤認混同の虞を判断する絶対的な要素ではないものの、商標訴訟の場においては、広く認知されている方が有利である。
そのため、多国籍企業は自社商標の国際的な認知度を主張するだけでなく、台湾国内での商標の使用実態や証拠、例えば、台湾ユーザー向けに提供された中国語版のウェブサイトやアプリケーション、台湾メディアの報道、台湾インターネットフォーラムにおける消費者間の議論、台湾の消費者への販売取引の領収書等に対してより一層注意すべきである。

[1] 知的財産及び商事裁判所111(2022)年度行商訴字第28号判決
[2] 最高行政裁判所112(2023)年度上字第21号判決
[3] 知的財産及び商事裁判所113(2024)年度行商更一字第1号判決


[出典:Wisdom International Patent & Law Office]


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