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2025.12.23IPイギリス:SkyKick最高裁判決後の実務動向


イギリス:SkyKick最高裁判決後の実務動向

英国知的財産庁(UK Intellectual Property Office:UKIPO)は、SkyKick UK Ltd and another v Sky Ltd and others([2024] UKSC 36)に関する英国最高裁判所判決を受け、英国商標の審査実務に適用される新たな指針を公表した。
本稿では、当該指針の内容およびその後の実務運用について概説する。

UKIPOが発出したPractice Amendment Notice 1/25(PAN 1/25)は即時に適用されており、これにより審査官は、出願に係る指定商品・役務が「明白かつ自明に過度に広範である」と認め得るか否かを、従前にも増して積極的に検討するとしている。
当該指定が過度に広範であると判断される場合は、審査過程において悪意(bad faith)を理由とする拒絶理由が付される。

もっともUKIPOは、特定の区分数や指定商品・役務の数量に基づく画一的な判断基準を設けるものではなく、指定が広範であること自体をもって直ちに悪意とするものではないとの立場を明確にしている。
しかしながら、とりわけ相互に関連性を欠く商品・役務にまたがる指定を行う場合には、出願人において、当該指定を必要とする商業上の合理的根拠を有することが求められる。

PAN 1/25の施行以降、出願段階における指定商品・役務の審査は、従前と比較して明らかに厳格化している。
悪意による拒絶理由を付すか否かは、出願人の事業の性質および当該商品・役務について商標の登録意図に照らし、個別に判断される。
UKIPOは、同一の指定内容であっても、出願人の事情次第では、ある者については善意の出願とみなされ得る一方、別の者については悪意と理解され得る旨を明確にしている。

また、出願人は、自らの事業の状況に照らし、「出所表示の目的において、公正かつ合理的な範囲に属する商品・役務」について登録を求めることが、より明示的に求められる。
従前より、英国商標の出願人には、出願時に指定商品・役務について誠実な使用の意思(bona fide intention to use)を有することを宣言する義務が課されていたが、今回の実務改訂により、審査官は、当該意思が真に存在するか否かを実質的に問い得る権限を有することとなった。

PAN 1/25は、特に慎重な検討を要する事例として、以下の類型を例示している。
 • 多数の区分にわたり、広範な商品・役務を指定する場合
 • 商品・役務の記載に用いる語が、概念的に広範かつ抽象的である場合
 • 類見出し(class headings)を使用する場合、とりわけ複数区分にわたり横断的に用いる場合
 • 「コンピュータソフトウェア」「医薬品」「被服」など、取引の実情に照らしても過度に広い一般用語を用いる場合
 • 全45類を指定する出願は一律に拒絶の対象となり、また第9類の全商品を包括的に指定する出願も同様に拒絶される場合
拒絶理由が通知された場合、出願人には、①当該指定を必要とする商業的合理性を説明する、または②商品・役務をより関連性の高い範囲に限定する、いずれかの方法により応答する機会が与えられる。

英国商標出願実務への影響
すでに、上記運用に基づく審査指令は多数発出されている。

もっとも、本実務変更は、広範な指定や多様な商品・役務を含む出願を一律に排除するものではない。
また、出願時点において現に使用していない商品・役務を指定することも、引き続き許容されており、成長途上にある企業が将来の事業展開を見据えて商標権を確保すること自体が阻害されるものではない。

しかしながら、指定する商品・役務は、現時点および合理的に予見可能な将来の事業活動との関連において、公正かつ合理的であることが求められる。
これにより、従前にも増して、指定商品・役務の作成(specification drafting)に対する慎重かつ戦略的な検討が不可欠となっている。

なお、審査基準の厳格化により、将来的には、悪意(bad faith)を理由とする異議申立てや無効主張の件数が減少する可能性も指摘されている。


[出典:D Young & Co LLP]


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