2025.06.24IPベトナム: 中国語等の商標の拒絶について
ベトナム: 中国語等の商標の拒絶について
国際経済が深く統合され国境を越えた貿易活動が絶え間なく発展していく中で、特に商標のような知的財産権の保護は法的な基盤として不可欠な役割を果たしている。
しかしベトナムでは、とりわけラテン文字に由来しない中国語、韓国語、日本語といった外国語の表記を用いた商標の登録に関する規定が依然として議論の的になっており見直しが求められている。
今こそこの問題により広く目を向け、ベトナムにおける中国語や同様の言語から成る商標の承認、保護に向けて前進するときである。
以下は出典元事務所(KENFOX IP & Law Office)による、中国語等非ラテン文字から成る商標の拒絶に対する分析と、ベトナムの知的財産法における同規定に対する見解である。
非ラテン文字言語の商標の拒絶査定:その背景
現在のベトナム知的財産法によれば、ラテン・アルファベットに由来しない文字(中国語、韓国語、日本語、アラビア語など)のみから成る商標は“稀な言語(uncommon languages)”に分類され、ラテン文字や識別力のある視覚要素が伴わない単独の状態で出願された場合、保護を拒絶されるリスクが高い。2005年の知的財産法(2022年に改正・補足)の第74条2(a)に基づき、「稀な言語の文字や語」である商標は識別力に欠けると見なされる。実際に登録を拒絶される主な理由は、識別性や先行登録商標との混同のリスクの判断に直接影響する、馴染みのない文字の発音や意味、類似度を判断することがベトナム知的財産庁(IPVN)の審査官にとって困難だからである。
なお、この規定は文化的拒絶や歴史的対立の直接的な結果によるものではない。
その証拠に、この規定はベトナムとの歴史的/政治的関係に関わらず非ラテン文字を使用するすべての言語に広く適用されている。
友好国であるラオス(ラーオ語)、カンボジア(クメール語)、ロシア(キリル文字)の言語もこのカテゴリーに分類される。
すなわち、非ラテン文字言語から成る商標の保護の拒絶の本質は異なる書記体系の認識/審査が困難であるというテクニカルな要因にある。
非ラテン文字商標の保護を認めるべきか否か?
しかし、現在の状況や世界的な傾向を踏まえると、上記の規定は多くの限界があり、もはや適切ではない。
・まず、国際的なプラクティスおよび相互主義の原則と不一致である。
これは最も明確な矛盾点である。
ベトナムが中国語、韓国語、日本語のみから成る商標の保護を拒絶する一方で、中国、韓国、日本、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイなど、最も重要な経済パートナーで、それらの地域および世界的に発展した知的財産システムを有する国々は、ラテン文字を使用したベトナム語商標の登録や保護を受け入れている。
この不平等な扱いは国際関係における平等性や相互尊重の原則に反するだけでなく、一方的な法的障害を生み出し知的財産保護における相互主義の原則を損なっている。
ベトナムは他国の商標を形式的な理由(克服可能な問題)で拒絶しながら、自国の商標が海外で広く保護されることを望むことはできないであろう。
・第2に、グローバルブランドアイデンティティーの構築と維持を困難にしている。
グローバル化した世界において、一貫したブランドアイデンティティーを維持することは成功の鍵である。
元の文字で世界中に広く認知されているブランド(例えば、中国市場で使用されているマクドナルドの中国語ロゴ)はベトナム市場への進出を希望する場合、それまで構築してきた一貫性を守る上で深刻な問題に直面するであろう。
ベトナムの登録要件を満たすためだけに要素の変更や付加を強制するのは非合理的で、費用もかかり、ブランドコミュニケーションの効果を低減させる。
このことは非ラテン文字を使用する国家の投資家から見て、投資先としてのベトナムの魅力を損なうことになり、投資環境に直接的な影響を与える。
・第3に、“稀な言語”という主張はもはや成り立たなくなっている。
審査官の認識能力の限界に由来する当初のテクニカルな要因に基づく根拠は、だんだんと時代遅れになりつつある。
中国語、韓国語、日本語などを学び流ちょうに使いこなすベトナム人の数は急増しており、社会全体、さらには国家機関や特定の法律専門家の語学力も急激に向上している。
さらに重要なのは、翻訳ソフトや文字のデータベース、AIといった技術の発展により、非ラテン文字の認識、検索、評価は十分に可能になっており、今や「認識できない」という問題ではなく、テクニカルな課題を解決するためのツールや訓練への投資意欲が問われている。
中国語のように国際貿易で広く使用されている言語の文字から成る商標の登録を認めることは、単なる行政的な規定の変更ではなく、時代遅れの法的な障壁を撤廃し、国際的パートナーに対する敬意を表すとともにより公平で透明な投資・ビジネス環境を作り出すことである。
これは直接的に国益に貢献し、外国投資の誘致と同時にベトナム企業が国際市場への進出を望む際には、ベトナム語の商標に対して公平な保護が求められる環境を整備することにつながる。
終わりに
非ラテン文字から成る商標の保護を拒絶する現在の規定はテクニカルな理由に起因するものであるが、明らかに法的不平等を作り出しており、商業活動を阻害し、国際的な統合の流れに逆行するものである。
今こそ、ベトナムの知的財産法は強く一歩を踏み出し、国際的な状況における積極性と戦略的ビジョンを示す時である。
中国語、韓国語、日本語などのオリジナル言語での商標登録と保護を認めることは国際的なプラクティスとの調和を図るのみならず、貿易や投資を促進し、国際社会におけるベトナムの地位を向上させる具体的な施策であり、絶え間なく変化する社会で知的財産法がベトナムの国益を守る真に有効なツールとなるための必要かつ差し迫った手段である。
[出典:Kenfox IP & Law Office]