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2026.01.14IP中国:商標法改正に関する状況


中国:商標法改正に関する状況

I. 立法手続きの概要
中華人民共和国商標法改正草案(以下「本改正草案」という)は、2025年12月22日、国務院により全国人民代表大会常務委員会(以下「全人代常務委員会」という)へ提出され、同年12月25日に審議が行われた。
本改正草案は、全9章84条から構成され、2023年1月13日に公表された「意見募集稿」(全101条)と比較して、より簡潔な構成となっている。本改正草案は、中国の現行商標制度に対し体系的な調整を加えるものであり、特に、商標登録要件の明確化、実務の規律化、審査・審決手続の最適化、行政手続きの強化などに重点が置かれている。
全体として、今回の改正は商標実務の円滑化を図るため、実務上の課題に対応することを目的としている。
立法上は、すでに一定程度成熟し運用が可能となっているルールを明文化することを重視するとともに、関連する国内法および国際基準との整合性をはかる方針が採られている。
このような背景の下、本改正草案は、意見募集段階で大きな注目を集めた一部の制度提案について、あえて対象を限定したり、または見送ったりするなど、意図的な政策判断が反映されている。以下に概要をまとめる。

II. 本改正草案と意見募集稿の主な相違点
1.採用されなかった制度(立法上の慎重な姿勢を反映)
意見募集稿には、以下のような注目度の高い新制度が提案されていた:
•同一の出願人による重複的な商標出願に対して、包括的な制限を課す規定
•公告後であっても、絶対的拒絶理由に基づき、職権により登録査定を取消し再審査可能とする仕組み
•悪意を持って登録された商標について、無効としたのち請求に基づき当該商標を正当な権利者へ移転する制度
•「使用意思の宣誓(declaration of intent to use)」制度と、5年ごとに使用状況の申告を義務付ける使用宣告制度
上記はいずれも本改正草案には採用されなかった。これらの問題は、引き続き現行法の枠組みの中で対処されることになる。

立法政策の観点からは、制度を急いで再設計するよりも、実務上の実現可能性を重視した慎重な姿勢を示すものである。本改正草案は、現段階では商標制度の根幹を大幅に再構築するのではなく、既存制度の成熟した部分を整理・強化する方向性を採っている。

<関連性の高い改正案の抜粋>
2.異議申立期間:2か月へ短縮
本改正草案第35条は以下のとおり規定する:
「予備審査を経て公告された商標に対し、公告日から2か月以内であれば、何人も当局に異議を申し立てることができる。」
これは意見募集稿と同様であり、異議申立て期限が現行商標法の3か月から1か月短縮される。
権利者は公告商標の監視(ウォッチング)・確認・社内判断・異議申立準備の期間が短縮されるため、監視体制および意思決定プロセスの見直しが必要となる。

 

3.著名商標の保護:他類間保護の拡大
本改正草案第20条第2項は、他類間保護を付与するにあたり、著名商標に関し登録商標と未登録商標の区別を撤廃している。
「非類似の商品又は役務について登録出願された商標が、他人の著名商標の複製、模倣又は翻訳に該当し、公衆を誤認させるおそれがあり、その結果として著名商標権利者の利益を害するおそれがある場合には、当該商標は登録を拒絶され、その使用は禁止される。」
本改正草案は、意見募集稿に見られたような、識別力の希釈化や名声の毀損といったより詳細な表現は採用してはいないものの、著名登録商標のみに他類間保護を限定している現行商標法第13条第3項と比較すれば、実質的な拡張を示す内容である。
本規定が現行案のまま採択された場合、中国において広く認識されている商標(未登録であっても)による、他の区分の保護のための強固な法的基盤となるであろう。
(1)権利者の観点からは、本改正草案は、著名商標に対する他の区分の保護を強化しようとする明確な立法意思を示すものである。ただし、著名商標としての認定は、依然として個別事案ごとに判断され、実務上は高い立証水準が求められるため、必要に応じて付与される性質のものである。したがって、主要ブランドについては、早期に中国で商標登録を確保することが、執行コストの低減および予測可能性の向上を図るうえで、最も信頼性の高い手段である。
(2)悪意による模倣出願への対応としては、ブランドの権利者は、中核ではない区分における第三者出願の監視を強化し、社内の対応体制の迅速化を図るとともに、ブランドの評価や著名性を裏付ける証拠資料の体系的な構築および維持を積極的に行うべきである。これにより、必要に応じて、適時の異議申立て、無効審判請求、または行政的取締措置を効果的に支援することが可能となる。

4.審査・審決の中止:裁量から原則中止へ
本改正草案第40条は以下のとおり規定する:
「異議、再審請求、拒絶査定不服審判、登録無効審判において、先行権利の判断が係属中の裁判または行政手続の結果に依拠する場合、当局は原則として審査または審決を中止しなければならない。」
これは意見募集稿の「中止することができる」よりも強い義務的表現である。本改正により、重複するバックアップ出願の抑制、手続の一貫性、並行手続における異なる判断が生じる可能性の抑止が期待される。また、未登録の権利を含む、より幅広い保護対象を柔軟に認めることが可能となる見込みである。

5.登録商標の不適切使用の規制:「公衆を誤認させる」行為に対する対応
本改正草案第56条第1項は以下のとおり規定する:
「登録商標の使用が公衆に誤認を与える場合、当局は期限を定めて是正を命じ、従わない場合は5万元以下の罰金を科し、情状が重大な場合は登録を取り消すことができる。」

本規定は、登録後の使用状況を行政上の制裁および商標権の安定性と直接的に結び付けるものであり、登録商標が実際にどのように使用されているかに対する立法上の関心が一段と高まっていることを示している。特に、品質、原産地、成分、性能などに関する表示を伴う産業分野においては、注意を払う必要がある。

6.使用要件:職権取消の明文化
改正案第56条第2項および第3項は、以下の点をさらに明確にしている。
「登録商標が、その指定商品について普通名称となった場合、又は正当な理由なく3年間継続して使用されていない場合には、いかなる法人又は個人も当局に対し当該登録商標の取消しを請求することができる。」
「これらの定める状況に該当する場合、当局は職権により当該登録を取り消すことができる。」
普通名称化した商標や未使用のまま存続している商標を整理・排除するにあたり、行政が介入するためのより明確な法的根拠を示すものである。これにより、休眠状態にある登録または識別力を欠く商標への対応が強化され、制度全体の実効性が向上することになる。

7.登録可能な商標:「動き商標(モーションマーク)」の導入
改正案第14条は、次のとおり規定している。
「自然人、法人または非法人組織の商品を、他人の商品と識別することができる標識であって、文字、図形、文字記号、数字、立体標識、色彩の組合せ、音、動き商標、ならびにこれらの結合からなるものは、いずれも商標として登録することができる。」
意見募集稿では、「音その他の要素」などの包括的な表現が用いられていたものの、動き商標については明示的に言及されていなかった。

改正案において動き商標が明示的に含まれたことにより、アニメーションや動的に表示されるものについて、より明確な法的根拠が与えられることになる。一方で、すべての非伝統的商標を過度に広く認めることは避け、審査の範囲を実務上管理可能なものに維持している。

8.非伝統的商標に対する識別力の判断
改正案第17条は、「機能性の理論(functionality doctrine)」を、非伝統的商標にまで拡大している。
「立体標識、色彩の組合せ、音又は動き商標について当該商標が次のいずれかの特徴のみから構成されるときは、商標として登録することができない。
(一)商品そのものの性質に関する特徴
(二)技術的効果を得るために不可欠な特徴
(三)商品に実質的な価値を付与する特徴
意見募集稿では、この規定は主として立体商標に限定されており、色彩、音、動き商標については明示的には適用対象とされていなかった。
本改正案は、非伝統的商標の登録可能性を拡大する一方で、機能的または技術的特徴が商標権によって独占されることを防ぐための歯止めを強化するものであり、バランスの取れた立法指針を示している。

Ⅲ.総合的な所見および暫定的な提言
総じて見ると、本改正案は、手続の効率化、悪意のある出願の抑制、行政対応力の強化という意見募集稿段階の改正案における基本的な政策方針を維持しつつも、制度の根幹に踏み込む大規模な再設計については、慎重な姿勢を取り、踏み込みを限定した内容となっている。異議申立期間の短縮、手続停止ルールの明確化、公衆を誤認させる使用に対する制裁といった、すでに実務上顕在化している課題に直接対応する措置は維持された一方で、遵守負担や行政負担を大きく課す可能性のあるもの、または運用面で十分に成熟していない、より論争的な提案については本改正案から削除されている。

このような状況を踏まえ、各社は以下の点に留意することが推奨される。
•手続リスク(異議申立期間):
   異議申立期間が2か月に短縮されることを前提に、ウォッチングなどの監視体制および社内意思決定のタイムラインを再構築すること。
•出願戦略(非伝統的商標):
   登録可能性の拡張と、機能性排除基準の明確化の双方を踏まえ、動き商標をはじめとする非伝統的標識に関する出願戦略を再検討すること。
•登録後の使用確認:
登録商標が実際にどのように使用されているか、特に品質、原産地、性能などに関する表示について点検を行い、公衆を誤認させるものと評価されるリスクを低減する必要がある。

IV.立法スケジュールに関する注記
本改正案は現在、全国人民代表大会常務委員会(NPC常務委員会)において引き続き審議中であり、今後、追加の意見募集や審議ラウンドが行われる可能性がある。これまでの立法過程を踏まえると、本改正案はさらに1回または2回の審議を経る可能性があり、その過程で一部の規定が修正されることも考えられる。
実務経験上、改正商標法は2026年中、早ければ2026年前半にも立法手続を完了し、正式に公布される見込みである。
今後の動向を引き続き注視し、さらなる改正や最終的に成立した条文の内容について、その影響を含めて適時情報提供を行う予定である。


[出典:NTD Patent & Trademark Agency Ltd, Bird & Bird]


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