ASEAN(アセアン)経済共同体発足に向け、ますますこれらの地域のボーダーレス化が進む中、税関での水際における侵害品取締が重要度を増しています。これらの地域における水際措置はあまり知られていないため、以下にASEAN主要6か国とインドにおける水際対策を簡単に紹介します。
フィリピン
税関登録制度
あり
- 保護対象:著作権及び関連権、商標、地理的表示、特許、実用新案、意匠、集積回路のレイアウト・デザイン
- 有効期間:2年間
- 必要書類:申請書、登録を求める知的財産権の正当な権利者であることの宣誓供述書、(登録された権利の場合)フィリピン特許庁が発行する登録証明書のコピー3部、(未登録の権利の場合)裁判所又はその他の当局が知的財産権について承認した決定のコピー3部
- 申請先:税関知的財産ユニット(BOC-IPU)への知的財産権の登録を申請
- 登録料は2,000ペソ/品であるが、一権利者当り20,000ペソが上限である。したがって実務上、オフィシャルフィーは20,000ペソまでしか発生しない。
- 未登録の権利者は輸入差止めを都度書面で申請
- 税関規則上、未登録の権利の登録も認められているが、実務上は登録証のある権利のみ登録が認められる。
差止のフロー
- 警告/留置命令(Alert/ Holder Order)
疑義品が入国すると、税関より当該貨物・書類の検査及び確認の一時延長のため、警告/留置命令が発せられる。 - 検査
警告/留置命令受領後24時間以内に、命令を出した係官と権利者及びその代理人、荷受人及びその代理人の立会の下、税関職員が業務時間内に倉庫で検査する。検査の結果、差止に至る証拠がない場合、命令が解除され入国手続が開始される。 差止の証拠が発見された場合、24時間以内に地域庁税関にその旨が連絡され、差押及び拘留命令(WSD:Warrant of Seizure and Detention)が発行される。 - 差押
差押5営業日以内にWSDが権利人及び荷受人に書面で通知され、通知後10日以内に対応しない場合、貨物は政府財産となる。 - 公聴
関担当職員による権利人、荷受人、その他の関係者のヒアリングが開催される。ヒアリングの回数は担当職員が決定するが、公聴開始後20営業日以内には関係者の公聴を終えていなければならない。 - 命令
公聴後、地域庁税関が没収かリリースかの命令を下す。命令に不服がある場合は関税長官あてに書面で抗議を行うことが可能である。 - 侵害品の廃棄
問題点
- 検査や差止にかかる費用について、検査は侵害品と判断された場合は荷受人負担、それまでは権利者負担とされ、差止にかかる費用は「知的財産権侵害の情報が間違っていた場合は権利者負担となる」(CAO No. 7-93(5))と規定があるが、実際には殆ど支払われたことがない。
- 税関のマンパワー、予算が不足しており、例えば20日の公聴期間は当事者のスケジュールの都合により守られることは少ないという。また、侵害品の廃棄について税関負担が原則であるが、予算不足から権利者に対して一部費用負担を請求する場合もある。このため、過去には侵害品からラベルを外し、人道的目的に再利用したこともある。
ベトナム
税関登録制度
あり
- 保護対象:特許、意匠、商標、著作権、著作隣接権
- 必要書類:登録証、正規輸出入業者リスト、侵害者リスト、侵害品の詳細な説明と写真(あれば)、真贋鑑定の説明、真正品の写真、委任状等
- 有効期間:1年毎の更新
差止のフロー
- 通知
税関職員は疑義品が発見された場合、速やかに権利人又はその代理人に通知し、同人は通知の日から3営業日以内に対応しなければならない。 - 差止請求
侵害品の疑いがある貨物に対する通関手続の停止を求める請求と保証金を供託しなければならない。保証金は商品価格の20%に相当する金額又は商品価格が不明の場合はVND20,000,000以上の金額か、信用機関が発行した保証書となる。 権利人は長期又は短期の差止請求を提出できる。税関は24時間以内に通関手続停止通知を発行するか、申立を却下する。 - 差止手続
権利人が税関の通関手続停止通知を受領した後、10営業日の差止期間が始まり、申立人は保証金差入を条件としてさらに当該期限を延長できるが、20営業日を超えてはならないとされる。 - 決定
税関は商品の所有者及び権利人の提出した証拠、書面に基づき、疑義品について決定しなければならない。税関が独自に判断できない場合は権利人に対して知的財産権管理当局の鑑定取得を命じることができる。 - 処分 疑義品が侵害品であると確認された場合、知的財産権法第214条に基づき、警告、罰金、商品の没収、関連事業の停止、廃棄、非営利目的への模倣品の再利用等が決定される。商品の所有者は当局の決定を実行し、権利人に対して差止に起因する損害・費用を支払わなければならない。 当局の決定に不服がある場合、異議申立が可能である。
問題点
- ベトナムは国境が長く複数の国と接しているため、実際の取締はかなり困難である。
タイ
税関登録制度
あり
- 保護対象:商標、著作権
- 有効期間:商標登録が有効な限り税関登録も有効であり、更新の必要はない。
- 必要書類:商標見本1部、登録証明書1通、委任状(要認証)1通、損害補償状(要認証)1通
- 申請先:実際には知的財産局に必要書類を提出し、同庁より税関局に転送される。
- 実務上、未登録の権利は対象とならない。
差止のフロー
- 通知
税関職員は疑義品を発見するとデータベースで権利人を確認し、同人又は現地代理人に通知する。権利人が税関登録していない場合、税関職員は知的財産局に問い合わせ、商標権者、代理人を確認した上で通知する。権利人は10営業日以内に対応しなければならない。 - 検査
税関職員は請求により、商標権者に対して差押品の写真を提供できる。通常、権利人又は代理人に直接検査を要求する。 - 差止
検査後、侵害品であることが確認できた場合、権利人又は代理人は書面で差止請求を行う。税関は侵害品を倉庫に保管するが、保管料、担保金は求められない。 - 処分
権利人からの差止請求が提出されると、税関は輸出人又は輸入人に罰金を科す。輸出人又は輸入人が罰金を払えば、税関当局はそれ以上の措置を取らない。差押品はそのまま倉庫に保管され、税関が知的財産局、国家警察、特別捜査局と合同で年2―3回開催する公開処分で廃棄される。
問題点
- 輸出品も検査の対象となるが、輸出品の情報は税関には輸出当日に到着するため十分な検査ができない。しかしタイの水際対策は税関登録をしておけば損害補償状を事前に提出するため、実際に権利者に公的費用がかかることはないというメリットがある。
マレーシア
税関登録制度
なし
- 登録商標と著作権が保護対象となるが、税関登録の制度はないため、権利人が差止毎に請求しなければならない。
差止のフロー
- 差止請求
商標権に基づく差止の場合、請求にあたっては権利人が侵害品の輸入される時期と場所を特定し、権限を有するマレーシア知的財産庁へ申請を行い、当局の登録官(Registrar)がこれを承認するか却下する。申請は60日間有効である。
著作権に基づく差止の場合、マレーシア知的財産庁の管理官(Controller)に対し、著作権者である旨の宣誓とともに申請書、輸入時期と場所を提出する。 - 差止
商標の場合、登録官は税関へ通知し、同職員が貨物を押収、保管する。その後税関職員から登録官、申請者、輸入者へ通達がいき、両当事者による押収品の点検が行われる。輸入業者が押収品の没収に同意しない、又は申請人が輸入者への商品引き渡しに応じない場合は訴訟手続が開始され、裁判所が商品について判断する。
著作権に基づく差止の場合、管理官は申請を承認する場合、申請人へ保証金の支払を命じる。その後疑義品を押収し、押収担当の職員が所有者に通知し、侵害品が没収される。
問題点
- 権利人が侵害貨物の入港時間、場所等の情報を入手することは不可能に近く、実際にこの制度の利用実績はない。
シンガポール
税関登録制度
なし
- 登録商標と著作権が保護の対象となるが税関登録の制度がないため、権利人が都度請求することになる。
差止のフロー
- 差止の請求
申立は関税物品税局長官に書面で請求し、中央システムで管理される。書面には申請人の身分、侵害品の輸入時期、場所、その輸入に反対することを記載し、商標の登録証、委任状、手数料、保証金を添付する。申立は60日間有効である。 - 差止
税関は疑義品を48時間留置し、申請人と輸入者に通知する。その後申請人が対応しなければ商品はリリースされるが、対応しない場合、輸入者から賠償請求される可能性がある。 - 訴訟
申請人は10日以内に訴訟を提起しなければならず、提訴について長官あてに書面で通知する。申請人は訴訟開始後21日以内に税関長に対して物品の引渡を禁止する裁判所命令を入手しなければならない。 税関への保証金が不十分な場合、侵害訴訟の提起や税関長への通知を行わなかった場合、あるいは21日以内に裁判所命令を入手しなかった場合は物品が輸入者に引き渡される。
問題点
- マレーシア同様、権利人が侵害貨物の入港時間、場所等の情報を入手することは不可能に近く、制度が十分に活用できる状況ではない。
インドネシア
税関登録制度
なし
- 登録商標及び著作権が保護対象となる。
差止のフロー
- 差止の請求
権利人は侵害が疑われる輸入品について、商事裁判所へ差止申請を行う。申請の際には商標又は著作権の所有権を証明する書類、侵害の証拠、輸出入品に関する詳細と説明、保証金を提出する。 - 差止
裁判所は申請から2日以内に決定を下し、同日中に税関へ通知する。税関は決定を受けた日から10日間、疑義品を差止るが、当該期間は申請により10日間延長できる。税関は決定を受けた翌日以内に貨物の所有者に差止を通知しなければならない。 - 訴訟
申請人は差止期間内に訴訟を提起しなければならず、裁判所が侵害であると判断した場合、貨物は輸出入を禁じられ、国によって廃棄、没収が行われる。
問題点
- マレーシア、シンガポール同様、権利人が侵害貨物の入港時間、場所等の情報を入手することは不可能に近く、制度が十分に活用できる状況ではない。
インド
税関登録制度
あり
- 保護対象:商標、著作権、意匠、地理的表示、特許
- 登録期間:5年間、又は対象権利の存続期間のいずれか先に終了する期間
- 必要書類:権利証明書、真正品のサンプルやイメージ等を含む商品の詳細な説明、侵害品の留置理由書(statement of grounds for detention)、可能な場合は真正品と侵害品の画像、申請書のハードコピー、一般保証書(general bond)、損害填補保証書(indemnity bond)
- 申請先:オンライン申請
- 現行規則では、申請人はインド全ての港で有効な一括保証書(centralized bond)を提出するか、一般保証書を出し、その後侵害品が発見された時に特定貨物保証書(consignment specific bond)を提出するか選択できる。一括保証書を選択する場合、侵害品留置の場合に提出する担保金は一括保証書の額の25%となる。
差止のフロー
- 通知
疑義品が発見された場合、税関は権利人又は代理人に通知し、10日以内に確認が求められる。 - 検査
権利人は通常5日以内、腐りやすいものの場合は3日以内に手続きを進め、通関停止品を検査する。場合によっては見本入手、貨物の輸入業者、原産地や数量等の情報開示も求めることができる。検査は両当事者立会で行われ、権利人は担保の額面の25%に相当する担保金を添えて商品の価格の110%相当の担保を供託しなければならない。 - 廃棄
商品が侵害品であると確認され、輸入者が反論しない場合、税関は権利者の同意を得てその貨物を廃棄する。
廃棄/処分までに生じた費用、保管料等は権利者が負担し、税関に支払った担保金から控除される。 - 控訴
税関の決定に不服がある場合は、控訴裁判所に提起できる。
問題点
- 登録や検査にあたり担保金を準備しなければならないことが権利人の大きな負担となっている。
いずれの国においても税関は職員が不足しており、中には職員の任期が1年という国もあります。知識や経験が不足している職員は模倣品・海賊品についても比較的自分たちにとってわかりやすい、判定の鑑定な商品のみを積極的にチェックする傾向にあります。更に、検査の結果侵害品と確信し、権利者に通知しても権利者が無反応である場合、失望し、そのブランドに対しては次回以降発見しても連絡しないか、他のブランドにシフトする可能性があります。
このような状況を回避するためにも、現地代理人を通じて税関へ積極的に商品情報や真贋鑑定の方法を提供する等、権利者側の努力も必要となります。また、行政・公的機関からの通知に対しては例え侵害品ではなかった場合でも、謝意を表す等、積極的な意思表示をすることが望ましいといえます。
マークアイでは現地代理人と連携し、各国の税関職員へ積極的に真贋鑑定や情報提供を行い、日本企業と現地税関職員との交流を促進するセミナーを開催しております。
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