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2021.04.06IP中国:人工知能(AI)による創作物は著作権の保護対象


中国:人工知能(AI)による創作物は著作権の保護対象

人工知能(Artificial Intelligence,以下、AIという)は、従来、科学技術分野でデータ分析の役割を担っていたが、ここ数年、機械学習とディープラーニングを通じて、自律的に文学、美術作品を生成することができるようになった。しかしながら、AIの生成した創作物が、著作権法で保護される「著作物」に属すかどうかについては様々な意見がある。2019年末に、中国の南山区人民裁判所は、コンピュータソフトウェアによって生成された文章には独創性があるので、著作権の保護対象であるとの判決を下した。これは、AIが生成した文章が「著作物」に属すると認定した中国で最初の判決である。

本事件の経緯は以下のとおりである。

本事件の原告は、深圳市に本拠を置く騰訊計算機系統有限公司(Tencent Holdings Limited,以下、原告という)である。
権利者の騰訊科技(北京)有限会社(Tencent Technology(Beijing)Co.,Ltd,以下、権利者という)は、原告の関連会社で、データとアルゴリズムに基づく文章作成支援システムであるコンピュータソフトウェア「Dreamwriter」を独自開発し、2015年にそれを完成させて、2019年に《騰訊Dreamwriterソフトウエア[略称:Dreamwriter]V4.0》のソフトウエア著作権登録証明書(登録番号:軟著登字第38684479号)を取得した。原告は、権利者から使用許諾を受けて、Dreamwriterの使用権を有しており、年間約30万件の作品を作成することができる。

原告が管理する創作チームは、2018年8月20日にDreamwriterを使用して作成した金融・経済記事《午後の論評:上海総合指数は2671.93ポイントで0.11%の小幅上昇、通信事業、石油採掘等のセクターが上昇を牽引》(以下、係争文章という)を騰訊証券ウェブサイトに初めて発表し、文末に「この記事はテンセントロボットDreamwriterが自律的に執筆したものである」と明記した。
同日、上海盈訊科技有限公司(被告)は原告所有の係争文章を複製し、自ら運営するウェブサイト「網貸之家」に《午後の論評:上海総合指数は671.93ポイントで0.11%の小幅上昇、通信事業、石油採掘等のセクターが上昇を牽引》という見出しをつけた記事を掲載した。
当該記事の内容は係争文章の内容と完全に一致しているだけでなく、文末に同じように「この記事はテンセントロボットDreamwriterが自律的に執筆したものである」との説明もあった。

原告は、被告が許可を得ずに無断で係争文章を複製し、運営するウェブサイトを通じて一般公衆に広めたことによって、自分の情報ネットワーク伝播権が侵害されたと主張した。
このほか、原告の所有する知的成果物を複製して競争上の利益を獲得した被告の行為は、信義誠実の原則及び商道徳に違反し、金融経済メディア市場の公正な競争を混乱させたため、不正競争行為に該当すると主張した。

判決において、裁判所は、文章の創作性の有無を判断する際に、2つのステップを踏まなければならないとの見解を示した。

一、文章が独自に創作されたもので、その外面的表現形式において既存の作品とある程度の差異を有しているか、或いは最低限の独創性を備えているか否か:

本件の係争文章は、原告の管理する創作チームがDreamwriterを用いて生成されたものである。
その外面的表現形式は、文字作品としての形式要件を満たし、その内容は、当日午前の株式市場の情報、データの選択、分析、判断を反映しており、文章構成は合理的で、ロジックも明確であるため、一定の独創性があると認められる。

二、文章の生成過程から創作者の独自の選択、判断及び技術などが反映されているかを分析するほか、著作権法実施条例第三条[1]の規定に基づき、具体的に創作行為に属するか否かを認定する際に、この行為が知的活動に属するか、及びこの行為と作品の特定の表現形式との間に直接的な繋がりがあるか否かを考慮しなければならない:

係争文章の生成過程は主に、データサービス、触発と執筆、AIによる校正及びAIによる文章発表の四つの段階を経ている。
そのうち、データ類型の入力とデータフォーマットの処理、触発条件の設定、文章構造のテンプレートの選択とコーパスの設定、AIによる校正アルゴリズムモデルの学習などは、全て原告の管理する創作チームが選択し調整したものである。
係争文章の創作過程と通常の文字作品の創作過程との違いは、原告の管理する創作チームが係争文章の生成において行った関連の選択及び調整と、係争文章の実際の作成との間に、一定の時間差が存在することにある。
裁判所は、係争文章の同時性の乏しいこの特徴は、技術的アプローチ又は原告の使用するツール自体が備えている特性によりもたらされたものであり、原告の管理する創作チームの行った上述の選択及び調整は、著作権法に定められる創作に関する要件を満たしているため、係争文章の創作過程に含まれるべきであるとの見解を示した。

原告の管理する創作チームがデータの入力、触発条件の設定、テンプレートとコーパススタイルに対して行った取捨選択と調整は、係争文章の特定の表現形式と直接繋がりがある知的活動に属する。
Dreamwriterは、何の理由もなく又は自分の意識で自律的に動作するわけではない。
この自律的な動作は、原告の選択を反映したものである。
もし、このDreamwriterのした自律的な動作過程のみを創作過程とした場合、ある意味で、コンピュータソフトウェアを創作主体とみなすことになり、客観的事実とは一致しない。
このため、係争文章の生成過程から分析すると、この文章の表現形式は、原告の管理する創作チームの独自の調整と選択によって決定されたものであり、その表現形式は唯一でなく、一定の独創性を有するものである。

このため、裁判所は、係争文章の外面的表現形式と生成過程から、係争文章の特定の表現形式及び創作チームの行った独自の判断と選択並びにDreamwriterによって技術的に「生成」された創作過程はいずれも著作権法の文字作品の保護条件を満たす、つまり、著作権法実施条例第二条[2]に定められる、文字作品には独創性を有しなければならないとの要件に合致すると判断し、これに基づき、係争文章は、中国の著作権法が保護する客体に属すると認定した。
更に、原告は本事件の当事者適格を有し、被告は権利侵害をしたと認定した。

本事件において、裁判所は、AIが文章を生成した過程を分析し、AIが生成した文章を著作権の保護対象とするには、次の二つの条件「一、文章が独立して創作されたもので、その外面的表現形式に既存の作品との最低限の差異があること;二、文章は、創作者の独自の選択及び判断を反映しなければならず、且つ創作者と直接繋がりがある知的活動による特定の表現形式を有すること」を満たさなければならないとの見解を示した。
この判決は、単なる地方の裁判例にすぎないが、AI によって生成された文章が著作物に属するか否かを認定した最初の判決であるため、今後の類似事件の判断において、ある程度参考になる。


[出典:Lexology, Tsai Lee & Chen Patent Attorneys & Attorneys at Law]


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