2021.11.24IP台湾:商標の使用について
台湾:商標の使用について
商標の使用について、台湾商標法第5条は、次のように規定している。
第5条 商標の使用とは、販売を目的として、次に掲げる状況の一に該当し、かつ、関連需要者に商標として認識されるに足るものを指す。
一、商標を商品又はその包装容器に付すこと。
二、前号の商品を所持、陳列、販売、輸出又は輸入すること。
三、商標を役務の提供に係る物品に付すこと。
四、商標を商品又は役務に係る商業文書又は広告に用いること。
前項各号の状況は、デジタル映像・音声、電子メディア、インターネット又はその他の媒介物の方式によるものも同様とする。
このため、登録商標に対し3年不使用取消審判が請求された場合、商標権者は、商標が実際に使用されていたことを証明するに足り、かつ、商業取引の一般的慣習に合致した使用証拠を提出しなければならない。
台湾商標法には、商標を台湾国内で提供される商品又は役務上で使用しなければならないとの明文規定は無いため、たとえ役務の提供地が外国であっても、商標権者が台湾国内で当該役務について宣伝し、又は広告を打ちさえすれば、台湾国内で商標を使用したものと認められてきた[1]。
しかし、知的財産及び商事裁判所[2]は、最近、商標権者が台湾国内で役務を宣伝し、又は広告を打ったが、役務の提供地が外国であった不使用取消にかかる事案において、異なる解釈を示した。
【事案の概要】
商標権者・東急株式会社の保有する台湾登録商標第1768451号「東急」商標が、第三者に3年不使用取消審判を請求された。
商標権者は、台湾において係争商標を第35類「百貨店」役務に使用したことを証明する証拠として、台湾において国際観光旅行展に参加した際に配布した東急百貨店の宣伝冊子、チラシ、割引券等の資料を提出した。
知的財産局の審理では、商標権者は確かに台湾において百貨店を経営していないものの、上記証拠により、台湾において係争商標を「百貨店」役務に使用したことを認めるに足りると判断された。
その後、本件は訴願が提起されたが、訴願委員会が知的財産局とは異なる判断を示したため、商標権者は知的財産及び商事裁判所に行政訴訟を提起した。
【判旨】
裁判所は、審理後、訴願委員会の意見に同調する判断を示した[3]。
裁判所によれば、商標法は属地主義を採用しており、商標が登録後に使用されているか否かは、原則的に、商標権者又は商標権者の同意を経て商標を使用する者が、台湾の管轄区域内で、登録商標を指定商品又は役務に使用しているか否かによって判断する。
そして、現行の台湾商標法第5条における「販売目的」の規定及び商標の属地主義の精神からすれば、商業取引の目的に基づき、台湾の市場にて商品又は役務を販売し、客観的な商業取引行為がある場合に限り、「販売目的」があるといえる。
言い換えれば、「販売目的」は、単に「需要者に当該商標を認識させること」では決してなく、当該商標の指定商品又は役務と結合し、台湾の需要者が当該商標の指定商品又は役務に対して、台湾の市場において実際に取引する可能性がなければならず、そうしてはじめて、「台湾の需要者が台湾の領域内で混同誤認を生じないように保護する」、「台湾域内における公平な競争を維持する」との商標法の立法目的に合致しているといえる。
また、商標の使用は、上記「販売目的」に合致する必要があるほか、商標が経常的に、経済的意義のある使用をすることにより、商標権の属する地理的範囲内の販売市場を開拓し、又は維持することができて、はじめて商標の実際の使用であると認められる。
仮に単に台湾において商標イメージを広めるのみであり、取引行為を台湾で全く行っておらず、台湾の需要者が台湾において当該商標の指定商品又は役務について取引できない場合、当該商標は台湾において当該商品又は役務の市場又は販売経路を開拓又は創造する経済的意義を備えず、商標としての意義を失っていることは明らかであるため、商標登録の効力を維持する使用とは認められない。
裁判所は、仮に役務の提供地が台湾国外であるとしても、台湾に事務所又は販売店があり、台湾の需要者が台湾において国外のホテルやレンタカーサービス等を予約できるのであれば、一部の取引行為が台湾にあるといえ、商標の使用が認められるとする。
しかし、本件においては、商標権者は台湾においてその百貨店役務を宣伝するのみであり、役務の提供地は日本であるから、台湾において何らの取引行為をしておらず、台湾において係争商標を百貨店役務に使用したとは認め難いとした。
知的財産及び商事裁判所の上記判断は、台湾国外でのみ役務を提供する商標権者への影響が極めて大きい。本件は、現在、最高行政裁判所にて審理中である。
仮に最高行政裁判所がこの解釈を支持すれば、国外の商標権者が台湾においてその役務を宣伝し、又は広告を打つのみであり、役務を提供せず、また、実際の取引行為が無い場合、登録商標が3年不使用取消を受けるリスクが生じるであろう。
[1]台北高等行政裁判所93年度訴字第959、960号判決、判決期日2005年5月6日
[2]前身は知的財産裁判所、2021年7月1日から名称が変更された
[3]知的財産裁判所109年度行商訴字第104号、判決期日2021年1月28日
[出典:Saint Island International Patent & Law Offices]
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