2022.08.09IP中東・北アフリカ・パキスタン:ニース分類の詳細―MENAP地域の特殊性
中東・北アフリカ・パキスタン:ニース分類の詳細―MENAP地域の特殊性
中東・北アフリカ・パキスタン(MENAP)の国々は、何らかの形でニース国際分類(NCL)に従っているものの、その適用に関し、この地域全域を通して特殊な点がいくつかある。本稿では、これらの点を検討する。
商品/役務が同じ区分に属する場合は類似と見なし、属さない場合は非類似と見なすべきか
この地域におけるいくつかの国では、商品/役務の類否判断を商標出願がされた区分のみに基づき行っている。2つの商標が同じ区分で出願された場合は類似と見なされ、その逆も同様である。この方法にはいくつかのメリットとデメリットがある。
同じ区分に属する商品/役務を類似と見なす
この方法は、ほぼ全てのMENAP諸国の商標局が実施しており、メリットは絶対的事由に基づく審査がより簡単になることである。商品/役務同士をより詳細に比較する代わりに、審査官は同一の区分に基づき直ちに判断を下すことができる。結果として、商標審査がより早くなり、これは一般的に出願人に歓迎される。
しかし、この方法は市場の現状を無視し、厳しい規制環境を作り出してしまう。同一区分内の商品/役務でも全く異なることがあり、したがって類似商標を受け入れることができる場合があるためである。例えば、「化粧品(cosmetics)」と「洗剤(detergents)」はいずれも第3類に属し、「ベビーフード(baby food)」と「除草剤(herbicides)」はいずれも第5類に属す。これらの部門における企業が競合関係にあるとは考えにくく、このような異業種間で類似する商標を使用しても、一般的に消費者が混同することはないであろう。したがって、それぞれの商標がカバーする実際の商品/役務をより詳細に観察する必要があり、同じ区分における類似商標であることのみに基づき、商標出願が自動的に却下されるべきではない。
異なる区分に属する商品/役務を非類似と見なす
出願人が商標を選択する際、あまり制約を受けるべきではないため、この方法の意図は理解できる。他の誰かが類似商標を使用しているからといって、デフォルトで異なる区分における他の商品/役務に関して自分の商標の使用を妨げるべきではない。しかし、またしても類似商標の商品/役務を十分に検討せずにこの原則を適用するのは、いくつかの懸念が生じる。
異なる区分に出願したのみで自動的に商標が抵触しないと見なされる場合、出願人が拒絶を避けるために区分を“弄る”ことになる可能性がある。例えば、「吸入器(inhalers)」に関して商標を第10類ではなく第5類で出願して、第10類の類似商標を回避したり、「ソフトドリンクのボトル(soft drink bottle)」を第16類の容器類ではなく、実際の内容物(飲み物)に関して第31類で出願したりすることが考えられる。同様に、商品区分に属するものは、役務区分に移行することも考えられる。例えば、被服産業における出願人は、物理的な製品(被服)に関して第25類で出願する代わりに、製品の販売に関して第35類で出願することで拒絶を回避できる可能性があり、同様に、完成したプログラムに関して第9類ではなく、ソフトウェア開発に関して第42類で出願することもできる。したがって、区分のみに基づく商品/役務の表面的な比較ではなく、より徹底的な審査が必要となる。
UAEにおける新商標法はこの問題に取り組んでおり、同じ区分に分類されているからといって、商品/役務が互いに類似していると見なしてはならないと(第8条IIで)明確に述べている。また、商品/役務が異なる区分に分類されていることのみに基づき、異なるとは見なされないとされている。
出願人はどのように商品/役務を選定するべきか
NCLにおける希望する区分における表記を選択する方法には、様々なアプローチがあり、その内の一つとして、事前承認されているリストから商品/役務を選ぶことがある。
この方法のメリットとして、審査が簡素化され、結果として審査が早くなることである。事前承認されているリストから選んでいるため、審査官は商品/役務リストを精査する必要がない。これは、例えばアメリカに比べて審査が非常に早いUAEやサウジアラビアにおける審査からも見受けられ、出願人にとって非常に好意的な状況である。
全体として、この方法は指定商品/役務が認められるか、また商品/役務リストの食い違いによるオフィスアクション、ひいてはコストが発生するか、先取って明確にすることができる。
地域当局は、状況や作業量に最も適したNCLカテゴリを採用することが多い。事前承認リストと出願人が選定した商品/役務表記の間における妥協点が最も適切なアプローチとなるであろう。
なお、事前承認リストからのみ商品/役務を選択するべきとするには、デメリットもある。出願人の特定の製品/役務が商標局の指定するリストに明示されていない場合、リストにおける最も近い項目、あるいは区分全体を包括的に保護するクラスヘディングを選択することを余儀なくされる。そうでなければ、事前承認リストにない場合、出願人は含めるつもりだった一部表記を諦めざるを得ない。いずれにせよ、これは不確実性をもたらし、出願人は保護(範囲)における穴に対して脆弱なままとなる。
これは、古い版のNCLを採用している国ではさらに複雑になる。前述のように、全てのMENAP諸国は何らかの形でNCLに従っているものの、そのすべてが最新版を採用しているわけではない。結果として、新しい商品/役務が古いリストに記載されていない可能性があり、事前承認されたリストからのみ商品/役務を選択することを強いられた場合、出願人は再び同じ苦境に立たされてしまう。
この問題は、前述した同一区分に属するかで類否を判断するという点とも関連する。商標局は商品/役務リストの詳細を比較しないため、(最も近い表記やクラスヘディングを選択することによって)意図するクラスをカバーする場合、事前承認されたリストから特定の表記を指定することはほとんど無意味になる。
事前承認リストにはメリットとデメリットがあるため、欧州連合知的財産庁(EUIPO)やシンガポール、マレーシアにおけるアプローチのような中間的な方法を検討することが必要となる。これらの地域では、事前承認リストから選択することも、独自の商品/役務表記を指定することも可能である。同時に、前者を選択した場合には、前述した審査のしやすさを考慮し、一定の利点が与えられる。シンガポールおよびマレーシアでは、事前承認リストの表記を使用した場合、オフィシャルフィーが安くなる一方、より高い費用で独自の表記をして指定するという選択肢もある。EUIPOでは、ハーモナイズド・データベース(Harmonised Database)から表記を選択した場合でも同じ料金が請求されるものの、出願はより迅速に審査される(ファスト・トラック)。
要約すると、事前に承認された商品/役務リストは、出願人にとってより安全で迅速な出願ができるという利点がある一方で、そこからしか商品/役務表記を選べないとしてしまうと、場合によっては制限が多すぎることがある。出願人が独自の表記を指定することも認めることで、折衷案を採用するのは検討に値するアプローチであろう。
当局はシングルクラスとマルチクラスのどちらを採用するべきか
MENAP地域のいくつかの国はマルチクラス制度を採用している一方、他の国はシングルクラスのみでの出願を受領しており、湾岸協力会議(GCC)地域では後者が主流である。
シングルクラス出願の利点は、あるクラスで異論があっても、他のクラスの商標登録が遅れないことである。マルチクラス出願において、1区分のみに対する異論による遅延リスクは、出願を分割することで軽減できるものの、一部区分に対して異論があった場合、分割出願を残りの(異論を受けていない)区分において確実に登録するためには、追加の時間と費用が必要になる。この問題を解決するには、事前に商標調査を行うことが有効である。その結果が明確であれば、マルチクラス出願を進めることができる。そうでなければ、少なくとも登録可能性に懸念のある区分については、シングルクラスでの出願を検討できる。
他区分で指令を受けると解消されるまでの間、商標登録を保留されてしまう。徹底した商標調査を行うことで、費用のかかる遅延を事前に回避することができる。
マルチクラスで出願できることの利点は、やはり明らかなコスト要因である。オフィシャルフィーおよび代理人費用は、一般的にマルチクラス出願における追加クラス分はより安くなる。さらに、1つの出願のみに対するデータの記録や期限を守る方が、出願人の管理上の労力は少なくなる。更新や設定登録の手続は区分数に関係なく、各商標に対して1つの手続きを提出すればよいため、後々このような手続きを行う際にコスト削減と商標の取り扱いの容易さが関連してくる。
これは商標局にとっても同じことが言える。1つの出願と登録を処理するだけで、時間や行政上のインプット、ひいてはコストを削減することが可能になる。
ブランドオーナーにとって喜ばしいことに、UAEにおける新商標法では、マルチクラスでの出願も導入される。上述の通り、シングルクラスとマルチクラス出願のどちらにもメリットとデメリットがあることを考慮すると、出願人が選択できるようになるべきであるため、これは前向きな進歩であるといえる。したがって、企業は、迅速な登録の必要性、商標の管理に関する希望、マルチクラス出願において一部のクラスで異論を受ける可能性などの要因に基づき、案件毎にシングルクラスとマルチクラス出願のどちらを行うかを決定することができる。
まとめ
MENAP地域における一部の商標分類実務については、明らかに改善の余地がある。特にUAEにおける新商標法のように、進展はみられるものの、分類プロセスをより出願人に優しいものにするために、改良が必要となることもあるであろう。
[出典:LEXOLOGY]
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