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2022.09.06IP台湾:NFT化した画像に対する保護


台湾:NFT化した画像に対する保護

2022年6月13日に台湾知的財産局が発表した「メタバースと設計専利(意匠権)の関係」(中国語名:元宇宙與設計專利之關係)という報告書によると、工業的手段で作られた製品の外観、並びに手製の製品の外観は、いずれも設計専利の保護の対象となる。
そのうち、メタバースを体感するためのハードウェア(例えばVRゴーグル)が物品の設計として保護されるのに対し、メタバースにおけるオブジェクトの外観を表現するデジタルデザインや、NFT化した画像は、コンピュータ画像(コンピュータグラフィックス)デザインとして保護される。
知的財産局の審査基準が再度改訂されるまでは、同報告書に示された上記の見解が、知的財産局の審査官がメタバースやNFT化した画像に係る設計専利出願を審査する際の基本原則とされるかと思われる。
※NFTが非代替性トークン(Non-Fungible Token)のことを指すのに対し、NFT化した画像はNFTが示す仮想オブジェクトを視覚的に具体化した画像である。
具体的に言えば、例えばあるデザイナーが仮想空間におけるオブジェクトを創作した場合、NFTは、そのデザイナーの正体、所有権、取引履歴を証明する仕組であるのに対し、NFT化した画像はその仮想オブジェクトの外観をいう。

NFT化した画像はコンピュータ画像デザインである
知的財産局の審査基準によると、「コンピュータ画像デザイン」は、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)やアイコンを含むとされているが、審査基準の文言からすれば、コンピュータにより生成された他のタイプの画像もこのカテゴリに含まれると解釈する余地があることから、同報告書は上記の見解を示しているのであろう。
だが、同報告書はNFT化した画像をGUIやアイコンに分類していないという点に留意すべきである。
2020年11月1日から、「コンピュータ画像デザイン」は、スクリーン若しくはモニターのような装置をその応用物品とする必要がなくなった。
そして、応用物品を指定するという条件を満たすために、「コンピュータプログラム製品の画像」、「コンピュータプログラム製品のグラフィカルユーザインタフェース(GUI)」、若しくは「コンピュータプログラム製品のアイコン」を応用物品とすることが可能となった。
現在、仮想空間のオブジェクト(virtual objects)は一般的に国際意匠分類の14-04に分類されている。
国際意匠分類の改正がない限り、NFT化した画像はそのサブクラスに分類されるのであろう。

出願審査
台湾の設計専利出願実務では、コンピュータ画像デザインを記載する際、そのデザインを表示する実体物品を描く必要が無い。
また、同報告書によると、NFT化した画像を含む仮想空間のオブジェクトのデザインを記載する場合、実在の物体を表現するような方法で表示することができる。
同報告書は、米国意匠D893696号「Augmented Reality Globe」を例として挙げている。
 
米国意匠D893696号の斜視図
さらに、同報告書によると、デジタルデザインの通常の知識を有する者にとって、現実世界のデザインを仮想空間でのデザインに用いることは、簡単なはずである。
このため、もし現実世界の車のデザインを仮想空間での車のデザインに用い、それを「コンピュータプログラム製品の画像」として設計専利出願したとすれば、現実世界の車のデザインを先行技術として、創作性の欠如を理由に拒絶されるべきである。

権利の範囲
上記のように、同報告書では、現実世界のデザインを仮想空間でのデザインに用いると、創作性の欠如の問題があると指摘しているが、例えば現実世界の車の外観の設計専利の効力は、現実世界の車に及ぶものの、仮想空間での車には及ばないので、自分の現実世界の物品のデザインを他人がNFT化した画像に用いることを防ぐため、現実世界の物品の設計専利出願をする際に、仮想空間での画像も同時に出願するほうがよいと勧めている。
一方、裁判所が今後同報告書の見解を採用するかどうかは不明である。
2017年のある設計専利侵害事件の判決(105年度民専字62号判決)で、知的財産及び商事裁判所は、消費者の視点より、創作者の視点に立ち二つの物品が近似するかどうかを決めるべきであると判断している。
即ち、その技術分野の創作者が容易に設計専利権者(原告)の設計を侵害者(被告)の製品に用いることができる場合、両者は近似であると看做されるべきであるとしている。
この案件においては、原告の設計専利も被告の製品も現実の世界における物品であるほか、この判決で示された見解も多数説ではないが、今後、現実世界の物品デザインと仮想空間での画像デザインに係る事件でこの見解の採用が検討される可能性があるかと思われる。


[出典:Saint Island International Patent & Law Offices]


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