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2022.10.12IP中国:商標の識別力の獲得と喪失


中国:商標の識別力の獲得と喪失

『商標法』第9条には、「登録出願する商標は、顕著な特徴を有し、容易に識別でき、且つ他人の先に取得した同法的権利と抵触してはならない。」と規定している。
「顕著な特徴」、すなわち「識別力」は、商標が登録されるために不可欠な主たる要素の1つであることが明確にされている。
また、『商標審査審理指南』によれば、商標の識別力とは、関連する公衆に商品や役務の出所を識別させるために、商標が備えるべき特徴のことをいう。
具体的に言えば、商標を消費者に識別させ、覚えさせることは、商品や役務の出所を示す機能や役割を発揮させることである。
『商標法』第11条第1項の第1号、第2号には、識別力を欠く標識について、列挙する方式で具体的に規定している。
同第3号は雑則に属し、前2号に規定される以外のものであり、社会通念に基づいて、商標として指定商品又は役務に使用する時に、識別力に欠ける標識のことをいっている。
また、『商標審査審理指南』には、当該雑則に含まれる簡単すぎる線、普通の幾何図形、日常の取引場所、企業の組織形態、よく使われる祝福・賛美の言葉などいくつかのよくあるタイプが列挙されている。
このように、多くの標識は商標としての生来の識別力を欠いていることがわかる。
これらの標識は所属業界や関連公衆の間で広範に使用される公的資源に属し、多くの人が共同で使用しているため、異なる生産者や経営者を区別する役割を果たせないし、商標の識別力も有していない。
商標登録とは、登録者が専用権を取得し、当該標識を独占して使用する権利を有するもののことをいう。
したがって、このような識別力を有さない標識を商標として登録することが許可された場合、他の生産者又は経営者が当該標識を正当に使用する合法的権利を奪い、公正競争の市場秩序を混乱させやすくなり、業界の健全な発展に悪影響を与えることになる。
しかし、商標の識別力は極めて奇妙なものであり、永久に不変なわけではない。
商標の識別力を生来有していない標識は、いつまでも商標登録されないということではなく、商標登録をすでに取得した標識も、識別力を永久に有するわけではないという意味である。
商標の使用は、商標の識別力に変化が生じる主な原因となっている。


1. 商標の識別力の獲得
『商標法』第11条第2項の規定によれば、第1項に掲げる標識が使用により識別力を取得して、且つ容易に識別できるようになった場合には、商標として登録できる。
つまり、商標の識別力は、使用により獲得することができる。
農夫山泉公司の「17.5°」商標は、使用により識別力を獲得した代表的な商標である。
公開資料には、農夫山泉の17.5°橙は「皮が薄くて実が大きく、果肉が豊富で、みずみずしく、甘酸っぱくて美味しく、市場で高く評価されている」とあり、17.5°と名付けられた理由は、米国農務省 (USDA)のランク付け基準によれば、クラスAのオレンジジュースの糖酸比は12.5〜20.5と定義されているが、17.5°が最適だとされている。
したがって、17.5°はオレンジの甘酸っぱさを表現する語彙として、商標の識別力を有していない。
農夫山泉が初めて当該商標を出願した時、識別力を有さないという理由で拒絶査定された。
商標審判委員会は拒絶査定不服審判決定書において、「出願商標『17.5°』は通常の活字体『17.5°』のみで構成され、これを樹木、穀物(穀類)、生きている動物、新鮮な果物などを指定商品として商標とした場合、商品の糖酸比の比率又は製造加工・食用保存の温度などのことであると消費者に思われやすく、指定商品の品質などの特徴を直接表すだけであり、識別力に欠け、商標の識別機能も有せず、『商標法』第11条第1項第2号に規定の商標として登録できない状況に該当する。」と指摘した。
農夫山泉は、当該拒絶査定不服審判決定を不服として、北京知的財産裁判所に提訴し、17.5°橙の委託販売契約、注文伝票、販売統計表、製品出荷証明書、広告契約書、領収書及び各種メディアに掲載された関連広告、国家図書館における検索結果、大型プロモーション計画、会計監査報告、各種名誉証書などの大量の出願商標に関わる使用証拠を提出した。
その中には、「17.5°」商標の合法的権益の保護に関する証拠及び裁判所が判決書において、「17.5°」が「知名商品特有の名称」であると認定されたことに関する証拠も含まれる。
その後、裁判所は、「出願商標『17.5°』を指定商品に使用する場合、この標識は、当該果物の糖度、水分含有量や糖酸比などの果物の品質、又は当該果物の保存温度ことを示していると、消費者に判断されやすくなる。
したがって、公衆に商品の出所を識別させる機能がないので、商標として登録すべきではない。
しかし、農夫山泉が提出した証拠によれば、出願商標は、大量で、広範な宣伝と使用により、高い知名度をすでに有しており、農夫山泉と比較的安定した関係を構築しているため、使用により識別力を獲得している状況に該当する。」と認定した。
最終的に、商標審判委員会は、裁判所の判断に基づいて、出願商標「17.5°」は『商標法』の第11条第2項に基づいて商標として登録できる状況に該当するという拒絶査定不服審判決定を改めて下し、法律に基づき初歩査定を下し、当該商標は2019年に登録が許可された。
上記の事例から、使用により識別力を獲得したことを主張する場合、大量で広範な商標の使用証拠を提出しなければならないことがわかる。
実務においては、以下の2つの点に特に注意する必要がある。
まず、このような商標を登録出願するとき、実際に使用する商品・役務に限定すべきである。
なぜなら、使用により獲得する商標の識別力は、当該商標の知名度に関連し、知名度は当該商標が実際に使用する商品・役務に関連するからである。
ある商品上に当該商標が大量に使用されることで、識別力を有したとき、その識別力は他の商品に及ぶことはない。
同様に、天性の識別力に欠ける標識は、すべての商品に識別力を有していないわけではない。

たとえば、「リンゴ」という言葉は、果物の品種として、普通名称に該当し、果物を指定商品にすれば、識別力を有さないのは明らかであるが、携帯電話を指定商品にすれば、識別力を有するとして、登録が許可される。
また、Byte Dance社の「头条」商標の登録もそうである。
当該商標は、「紙、印刷物、ポスター、新聞、定期刊行物、ニュース刊行物、文房具、電気版、教材(器具を除く)、建築模型」の10品目を指定商品として登録出願された。
裁判所は、そのうち「紙、印刷物、ポスター、新聞、定期刊行物、ニュース刊行物」の6品目の指定商品において、当該商標は使用によりすでに識別力を有するようになっており、識別しやすく、『商標法』の第11条第2項に規定の登録できる状況に該当すると認定し、それに対して、「文房具、電気版、教材(器具を除く)、建築模型」の4品目の指定商品においては、「商標法」第11条第1項第3号に規定の登録できない状況に該当しないと認定した。
このことから商標が識別力を有するか否かは、指定商品・役務によって、それぞれ区別して対処していることが分かる。
次に、ある標識が他の標識と併用される状況下において、当該標識と他の標識の識別力を区別し、当該標識が使用により識別力を有しているか否かを判断すべきである。
実務において、一商標が他の商標と併用されていることや、一つの商品に複数の商標が併用されることは少なくない。
このような状況において、当該標識が使用により識別力を有するようになったことを証明するとき、出願人は、提出した使用証拠によって、商標の知名度又は認知度が当該標識に対応するものであり、その他の併用している商標に対応するものではないことを証明することは困難である。
このような問題に直面するとき、反駁することも困難である。
立体標識を登録出願するとき、立体形状自体は識別力に欠けるため、当該立体標識と識別力を有している平面要素を組み合わせて登録出願する場合も同様である。
つまり、平面要素と組み合わせることによって、立体標識が全体として識別力を有し、商標登録が可能になるが、識別力に欠ける立体形状自体は商標専用権を獲得しているわけではない。
したがって、出願人は識別力を有するB商標と併用されるA商標が既に使用により識別力を有していると主張した場合、その使用証拠に複数の商標が同時に体現されているので、当該主張は、関連公衆が実際にB商標の存在によって商品の出所を識別することを理由に覆されやすい。
たとえば、第G1431621号「EXPANDING HUMAN POSSIBILITY」商標の拒絶査定不服審判事件において、国家知識産権局は、「当該商標は『人間の可能性の拡大』と理解でき、商標として使用した場合、役務の出所を識別するための標識として関連公衆に認識されにくいので、登録商標としてあるべき識別力に欠け、『商標法』第11条第1項第3号に規定の状況に該当している。
また、出願人が提出した証拠も、使用により識別力をすでに獲得したことを十分に証明できない。」と認定した。
また、その後の訴訟においても、係争商標は通常、宣伝、広告用語として理解され、且つ出願人が提出した商標の使用証拠の大部分に、出願人がすでに登録している「Rockwell Automation」などの他の商標が含まれているので、係争商標が使用により指定役務における識別力をすでに有していることを十分に証明できないと、裁判所は同様の判断をした。
これらのことから、使用により識別力を獲得し、登録が許可されるには、当該商標を適切な方法で使用すべきで、後続の証拠の提出における困難に直面しないように、他の商標、特にすでに登録されている他の商標との併用をできるだけ避けたほうが得策であることがわかる。


2. 商標の識別力の喪失
『商標法』第49条第2項には、登録商標がその指定商品の普通名称となったとき、いかなる単位又は個人は商標局に登録商標の取消を請求することができると規定している。
『商標審査審理指南』によれば、登録商標がその指定商品の普通名称になるということは、本来商標としての識別力を有する登録商標が、市場での実際の使用過程において、指定商品の普通名称になってしまうことをいう。
同時に、『商標法』第11条第1項第1号において、商品の普通名称は、識別力に欠ける標識に該当し、商標として登録できないことが明確にされている。
したがって、登録商標が一旦普通名称になってしまうと、パブリックドメインとなり、登録者はその専用権を喪失し、当該登録商標も登録が必然的に取り消されることになる。
P&Gの第16712415号「拉拉裤LA LA KU」商標の登録取消審判事件では、商標局は最初の取消手続きにおいて、当該商標が長期間にわたる広範な宣伝・使用により、名度をすでに有していると認定し、出願人が提出した証拠は、本件商標が赤ちゃん用使い捨ておむつなどの普通名称になっていることを証明するには不十分であるとして、本件商標の登録を維持した。
その後、取消審判請求人は審判請求を行い、中国国立図書館先行科学技術調査センターが発行した「拉拉裤」を検索キーワードとする『文書複製証明書』及び『検索報告書』、「拉拉裤」「紙おむつ」を検索キーワードとする京東と淘宝(中国のEコマース)プロットフォームにおける検索結果のスクリーンショット、関連公証機関が出願人の証拠保全申請に基づいて発行した『公証書』及び百度の検索エンジンにおける「拉拉裤」を検索キーワードとする検索結果などの証拠を提出することで、当該商標が業界で広く使用され、商品の普通名称となっていることを証明した。

商標審判委員会は審理を経て、以下のことを認定した。
上述証拠は、2011年から2017年に「拉拉裤」を紹介する多くの記事において、「拉拉裤」という言葉はいずれも、パンツタイプおむつのことをいっており、且つ業界の多くの事業者は「拉拉裤」をパンツタイプおむつの商品名称として使用しており、中国で利用率の高い京東、天猫という2大ECプラットフォーム及び百度検索エンジンにおいて、「拉拉裤」は、すでにパンツタイプおむつを検索する際に使われる商品名になっていることを証明できる。
したがって、多くの同業者及び消費者は、「拉拉裤」という言葉をパンツタイプおむつの普通名称として使用しており、被請求人(P&G)の登録商標として識別していなかった。
また、P&Gの「拉拉裤」の使用方式からみて、「拉拉裤」単独ではなく、「帮宝适/PAMPERS拉拉裤」として使用されており、そのキャッチフレーズとして「引っ張るだけで着用できる」という特徴をアピールしているため、関連公衆は「拉拉裤」が紙おむつの名称であることを認識しやすい。

P&Gが登録取消審判の再審査決定を受理した後、北京知的財産裁判所に訴訟を提起したが、一審判決は審判決定を基本的に維持し、「拉拉裤」はその指定商品の普通名称にすでになっているとして、同社の訴訟請求を却下した。
 第4020320号「青汁」商標の登録取消事件では、商標局は、最初の取消請求段階において当該商標登録を維持した。
しかし、その後の審判請求段階において、双方当事者より提出されたネット記事、メディア報道、関連商品の販売情報などの証拠によれば、中国において「青汁」という言葉は、「緑色植物をしぼって作られたジュース又はその加工粉末から作られた飲料」として消費者に広く認識され、様々なメーカーが製造した「青汁」を名称とする飲料や粉末などの商品が市場に出回っていることから、「青汁」はすでにこのような商品の普通名称となっていると認定した。
また、被請求人が審判商標を登録し、「青汁」標識を長期間使用したにもかかわらず、「青汁」がすでに栄養飲料業界の従事者や関連消費者に商品名称として広く使用され、関連商品において商品の出所を識別するものとして認識されにくいため、登録商標として独占的に使用されるのは適切ではないと認定した。したがって、「青汁」商標登録を取消す決定を下した。
また、第9199914号「摩卡MOCCA&図」商標の登録取消審判事件では、商標局は、取消段階及び取消審判段階で、提出された証拠をもって、当該商標が登録後に「コーヒー」などの商品の普通名称になってしまったことを証明するには不十分であり、『商標法』第49条に規定の商標の指定商品の普通名称になった状況に該当しないと認定し、商標登録を維持する決定を下した。
その後、取消請求人は行政訴訟を提起し、一審裁判所は審理を経て、このように認定した。
「摩卡」は第三者が創作したものではなく、イエメンの紅海沿岸にある港湾都市「モカ」のことを指すという意味があり、16世紀から17世紀にかけて、モカは世界最大のコーヒー貿易センターであったため、当該商標が出願される前から、すでにコーヒー商品と具体的に関連づけられていた。
また、提出された証拠(消費者の認知度に関する調査結果、モカコーヒーを提供する同業者の状況、関連書籍、新聞・定期刊行物、ネットメディアの記事、辞書へ収録掲載など)からみれば、消費者の認知状況、同業者の使用状況、第三者の報道のいずれからも、本件審理時に、関連公衆はすでに「モカ」がコーヒー商品の一種のことを指すと認識されており、しかも上記認識は特定地域に限定されず、全国的な現象であり、「モカ」はコーヒー類商品における普通名称として定着していることがわかる。
その後の二審裁判においても、北京高等裁判所は原審判決を維持する終審判決を言い渡し、商標局は最終的にその終審判決に基づいて商標登録を取消す決定を下した。
これらの事例から、商標は一度登録されさえすれば安心というわけではなく、不適切な使用や合法的権益の保護に対する認識不足により、本来識別力を有する商標が関連商品の普通名称になってしまうことで、識別力を喪失して登録が取り消される可能性があることがわかる。
ある商標権者は、登録商標を規範的に使用せず、登録商標を商品名称として使用し、使用規模が大きくなることで商標の一般化という良くない結果になっている。
また、ある商標権者は、他の主体がその登録商標を商品名称として使用することに対して、それを阻止するための適切な合法的権益の保護措置を積極的に取らなかったたことで、商標の一般化をもたらしている。
上記の「農夫山泉17.5°」商標は、実際には初歩査定された後に他人から異議申立され、且つ登録後にも無効審判を請求されたことがあるが、異議申立、無効審判のいずれも成立せず、当該商標は現在も登録が有効である。
これは農夫山泉が継続的に合法的権益を保護していることと無縁ではない。
検索により、農夫山泉が第41548626 号「安橙园17 50」商標、第41944754号「久泰17.8」商標、第39886690号「靓果树17.55°」商標、第33101625号「正甘17.5」商標及び第28087717号「陈氏桐远17.5」商標などの類似又は関連する商標に対して異議申立をしたことがわかる。
異議申立において、これらの商標はいずれも農夫山泉の17.5°商標と類似するとされ、登録が許可されなかった。
異議申立されたこれら商標には、17.5と類似する数字部分が含まれるだけでなく、農夫山泉とは無関係な漢字部分も含まれる。
しかし、農夫山泉がこのような商標の登録に対して自由放任の態度をとれば、時間の経過とともに、様々な17.5橙が市場に出回り、その17.5°商標の識別力が希薄化され、17.5°橙も徐々に業界で普通に使われるオレンジの普通名称になってしまい、業界内で併用されて、商標登録が取り消されるリスクがある。
農夫山泉はこれらの商標に異議申立することで、その登録と使用を妨げ、17.5°の商標の一般化をある程度回避している。
つまり、関連公衆に商品・役務の出所を識別させてくれる識別力は、商標登録を獲得するための要素の1つであるが、この要素は不変であるわけでなく、商標使用やイデオロギーの変化により、商標の識別力が無から有へ、有から無に変化することもある。
したがって、識別力に欠けるという理由で商標出願が拒絶査定された場合でも、大量の使用証拠の収集することによって、登録を取得できる可能性があるため、出願人は安易に諦めるべきではない。
また、商標登録後も、商標権者は油断してはならず、日常使用において商標使用が標準化されているか、一般化の傾向はないか細心の注意を払い、できるだけ商標の識別力が喪失しないように積極的に合法的権益を保護すべきである。


[出典:LINDA LIU & PARTNERS]


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