2022.11.08IP中国:中国立体商標の登録及び司法保護に対する一考察
中国:中国立体商標の登録及び司法保護に対する一考察
2001年に改正された『商標法』第8条に、立体標識を商標として登録出願できることが規定されてから、立体標識商標(「立体商標」ともいう)は、中国商標法の保護範囲に正式に組み込まれた。
ここ20数年来、中国における立体商標の登録出願件数は年々増加の一途であり、その権利行使に関する司法判例はさほど多く見られないものの、企業の出願意欲はますます旺盛になっている。
本稿では、中国における立体商標の登録及び保護現状をまとめ、実務判例を通じて、立体商標の定義と表現形式、登録状況、登録と保護要件及び司法実務などの面から分析を進める。
I. 立体商標の定義と表現形式
1. 立体商標の定義
中国『商標法』には立体商標の定義が明確に定められておらず、『商標法』第8条において、立体標識の登録可能性が規定されているだけである。
ただし、中国の全国人大法工委(全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会)編『商標法釈義』(2013)には、立体標識の定義を「立体標識とは、商品自体の形状、商品の包装物又はその他の立体形状から、商品と役務の出所を識別できる標識のことをいう。
例えば、コカ・コーラのガラスビンの外観。立体標識により構成された商標を『立体商標』という。」と解釈している。
また、国家知識産権局が制定した『商標審査審理指南2021』(以下、「指南」という)の第六章には、立体商標について「立体標識又はその他の要素を含む立体標識により構成された商標」と明確に定義されている。
2. 立体商標の表現形式
立体商標の表現形式について、『指南』において明確に定義されている。
1)「商品自体の立体形状」
商品自体又は商品の一部により構成された立体形状のことであり、商品自体の形状、外観の独特なデザインなどを含む。例えば、
2)「商品の包装又は容器の立体形状」
美しい包装(箱、ビン又はその他の容器などを含む)は通常、消費者の注意を引きつけやすく、企業が立体商標として登録出願する主な対象でもある。
登録は許可されにくいが、登録査定される例も少なくない。例えば、
3)「その他の立体標識」
「その他の立体標識」とは、独特なデザインを有し、指定商品又は役務と直接関連しない立体標識のことをいう。
商品とは直接関連しないため、商標審査において、識別力を有すると判断されやすく、立体商標の中でも登録査定率は比較的高い一種である。例えば、
4)「立体形状と平面要素との組み合わせ」
これらの結合商標は更に以下のような3つの表現形式が挙げられる。
II.中国における立体商標の登録状況
筆者はデータベース「標庫」(https://www.tmkoo.com/)で「立体標識」をキーワードとして検索したが、2015年から2021年までに立体商標として登録された立体標識計4,180件を検出した。
具体的な状況は下表のとおりである。
1. 2015年~2021年における立体商標の登録出願状況(統計日:2022年4月12日)
上表が示すように、中国では2001年に立体商標の保護制度が導入されたが、立体商標の出願件数が増加傾向を示すようになったのは2016年からであり、2019年にはその出願件数及び登録件数がピークに達し、登録件数は1,782件であった。
この状況からも、立体商標の保護を求めようとする企業のニーズはますます高まっていることが分かる。
2. 立体商標の権利者TOP5(統計日:2022年4月12日)
大まかな統計によれば、「秦始皇帝陵博物院」は現在、中国で立体商標を最も多く保有している商標登録者であり、軍吏俑、跪射俑、武士俑などの20種類に近い陶俑に関連する登録立体商標計995件を保有している。
また、中国第一汽車集団有限公司、雲南皇威伝媒有限公司、北京2022年冬季オリンピック大会及び冬季パラリンピック大会組織委員会、長春市地鉄有限責任公司などは、その多くが全45類の区分で登録され、且つマンガキャラクターによる出願が多くなっている。
3. 立体商標の登録区分TOP15(統計日:2022年4月12日)
大まかな統計によれば、現在、中国において、第33類「酒類」を指定商品として登録された立体商標は334件に達し、登録総件数の8%を占めている。
その中でも、中国国内外のアルコール飲料会社の各種酒ビン及び外包装の登録が多く、マンガキャラクターのものも少なくない。
また、それに引き続き第35類、第41類、第16類、第9類、第28類、第25類、第18類、第42類、第30類、第14類、第21類、第3類、第43類、第32類などの区分も、立体商標の出願人によく指定されている区分である。
III. 立体商標の登録出願の形式要件
企業が中国で立体商標を登録出願しようとする場合、どのような形式要件を満たすことが必要であるのか。
『指南』には、立体商標登録出願の形式要件が詳しく規定されている。
企業はこれらの規定を参考にすることで、立体商標の出願書類を準備することができる。
1. 商標出願の声明
出願人は商標登録出願の願書の「商標出願の声明」欄に明記しなければならない。
明記してなければ、「立体標識」による商標登録出願であるとみなされない。
2. 立体形状図面の関連規定
出願人は、少なくとも三面投影図を含み、且つ多面投影図が同一の立体標識に属する立体形状を特定できる図面を提出することが必要である。
図面は長さと幅がそれぞれ10センチメートル以下、5センチメートル以上でなければならない。
立体標識を含む文字は投影図から独立してはならない。
3. 商標説明及び使用方式の関連規定
出願人は商標説明において、立体商標の指定商品又は指定役務における使用方式を説明しなければならない。
また、出願人は商標説明において、立体商標の図面について、文字による説明を添えることができるし、商標において権利主張をしない部分の専用権の放棄を表明することもできる。
商標説明:奶蓋
ゴンチャ人形である立体商標。指定色:白、黒、茶色、肌色、ダークレッド。
使用方式:商標は指定商品の広告宣伝、展示、販促及びその他のビジネス活動に使用される。
(奶蓋:ミルクティーの上に覆われる純生乳とミルクキャップ粉で調整した厚さ約3センチのクリーム)
IV.立体商標の登録及び保護要件
1. 立体商標の識別力
『商標法』第9条には、「登録出願商標は顕著な特徴を有し、容易に識別でき、且つ他人が先に取得した合法的権利と抵触してはならない。」と規定している。
そのため、立体商標が登録を獲得する前提は識別力を有することである。
立体商標が識別力を有するか否かを判断する際に、官庁は通常、固有の識別力(標識自体が商品又は役務の出所を識別できる識別力を有すること)及び獲得識別力(大量使用によって獲得した識別力)という2つの面から審査を行う。
以下に、いくつかの判例を通じて、行政及び司法段階における立体商標の識別力に対する審査について説明する。
1)景田ミネラルウオーターボトル
出願商標「」におけるボトルの立体形状は、出願人が「ミネラルウオーター」などの商品の包装物に、既に長期間、且つ大量に使用している立体形状であり、一定の市場知名度を既に有している。
ボトル全体は外観が独特であり、比較的強い独創性を有している。
出願人の商標「景田百歳山及び図」は実際の生産販売において既に大量に使用されており、商標「景田」は既に商品「ミネラルウオーター、蒸留水」の著名商標として認定されている。
この商品が比較的高い知名度を有する状況において、商品の外包装は切り離せない一部分として、関連公衆がこの立体標識を見る時に、それを商品の出所を識別する標識として識別でき、且つ出願人との一対一の対応関係を構築できる。
そのため、「ミネラルウオーター」などの商品に使用される出願商標は商標として有するべき顕著な特徴を有する。
2)ヴァンズ(VANS)靴
出願商標「」は各画角の格子柄スニーカーの投影図であり、その全体はよく見られる靴の外観として表現されている。
この立体標識は、「靴(足に履く着用物)」を指定商品として登録、使用されており、常用商品の立体形状に属し、商標として消費者に容易に識別されず、商品の出所を識別する役割を発揮するのが難しく、顕著な特徴に欠ける標識に該当する。
出願人が提出した証拠は、出願商標が使用によって既に顕著な特徴を獲得し、且つ識別する役割を果たすことを十分に証明できなかった。
3)フェレロロシェチョコレート
出願商標「」 は卵殻状の立体標識であり、赤、青、白の3色及び外国語「Kinder」の組み合わせによって構成された立体商標である。
そのうち、指定色が付されている卵殻状の立体標識は商品「チョコレート」に使用され、顕著な特徴を有し、外国語「Kinder」は不服審判請求商品に使用され、顕著な特徴も有する。
出願人が提出した証拠は、この立体商標が商品「チョコレート」に使用され、一定の知名度を有し、且つ出願人との一対一の対応関係を構築できることを証明できる。
そのため、出願商標は商品「チョコレート」において顕著な特徴を有し、且つ実際の使用によって、その識別力を更に強化し、商品の出所を識別する役割を果たすことができる。
4)中能源(中国能源建設集団有限公司)ボーリングプラットフォーム
出願商標「」は「深層油井又はガス井のボーリング、建築」などの指定役務において使用された場合、商標として識別されにくく、役務の出所を識別する役割を果たせず、商標が備えるべき識別力に欠ける。
5)マーテルノーブリッジ
係争商標「」は水滴型の断面にデザインされたボトル容器であり、そのボトルの外観には「MARTELL」が表示され、更に関連公衆に当該立体標識を酒類商品の容器として認知されることを促し、「MARTELL」は実際に商品に表示された商標である。
関連公衆は容器自体のデザインがより「斬新」であるため、ボトルを商標として識別しないが、ボトルの外観形状を酒類商品の容器として認知する。
そのため、係争商標は固有の識別力を有しない。同時に、原告が提出した証拠は、係争商標が酒類商品の容器である以外の意味を生じる商標として認知できることを十分に証明できない。
そのため、係争商標は獲得識別力も有しない。
6)上海晨光筆
係争商標「」は全体がペン類の外観の正投影図として表現され、「ペン類(事務用品)、万年筆」などの指定商品上に、商品の汎用図形が表示されているだけで、関連公衆の認知習慣によれば、商品の出所を識別する商標ではなく、全体としてペン類商品の汎用外形として認知されやすい。
そのため、係争商標は全体として、商品の出所を識別する役割を果たせず、商標として固有の識別力を有しない。
7)椰樹集団のジュース包装箱
係争商標「」全体は指定商品によく用いられる包装箱の形式として現され、箱には図形、漢字「椰樹」を含むが、「ジュース」などの指定商品において使用されるが、関連公衆の認知習慣によれば、商品の出所を識別する商標ではなく、全体として「ジュース」等の商品の包装として認知されやすく、商品の出所を識別する役割を果たせず、商標として固有の識別力に欠けている。
また、記録されている証拠は、係争商標は使用によって高い知名度を有することで、登録が許可された商標としての識別力を有することを十分に証明できない。
8)P&G社ジェルボール
係争商標「」は指定商品によく用いられる包装の形式として現され、関連公衆の認知習慣によれば、商品の出所を識別する商標ではなく、全体として洗濯剤、クリーン製剤などの商品の包装として認知されやすく、商品の出所を識別する役割を果たせず、商標として固有の識別力に欠けている。
また、P&G社が提出した記録されている証拠は、係争商標は使用によって高い知名度を有することで、登録が許可された商標としての識別力を有することを十分に証明できない。
上述の8つの判例から見れば、商標の行政審査でも裁判所の司法審理でも、中国は立体商標の識別力に対する審査について、厳格で保守的な態度を取っており、司法段階は行政段階に比べてより厳しくなっている。
全体的な状況は以下のようにまとめられる。
A.商品の形状又は包装は、デザイン自体が「斬新」又は「独特」になりやすいが、商標として固有の識別力を有すると認定されるわけではない。
B.商品の包装物の立体形状により構成された立体商標と比較して、商品自体の立体形状により構成された立体商標は、固有の識別力を有すると認定され難い。
C.獲得識別力は立体商標の識別力の認定において、主導的な地位を占めている。
全体から見れば、商品自体の立体形状により構成された立体商標でも、商品の包装物の立体形状により構成された立体商標でも、官庁は当該立体商標が商品の出所を指し示せるか否かを判断する際に、関連公衆の認知習慣を考慮する。
例えば、固有の識別力を判断する際に、官庁は立体商標と指定商品又は役務との関連性、関連公衆の通常の認知レベルを考慮し、獲得識別力を判断する際には、立体商標の実際の使用方式、経営状況及びそれに係る商品の関連公衆における知名度を重点的に考慮する。
記録されている証拠は、係争商標が使用によって、関連公衆によく知られ、高い知名度を有しているか否か、商品又は役務の出所を指し示せるか否かは、立体商標が識別力を有するか否かの重要な考慮要素となる。
2. 立体商標の非機能性
中国『商標法』第12条には、「単に商品自体の性質により生じた形状、技術的効果を得るために必要な商品の形状又は商品に実質的な価値を備えさせるための形状は、立体商標として登録してはならない。」と規定している。
この規定は、立体商標として登録が制限されている3つの状況を明確にしている。
即ち、「性質機能性」(例えばタイヤの正常回転によって得られるラウンド図形)、「実用機能性」(例えば頰に接触する角度によって得られる三枚刃カミソリの立体形状)及び「美学機能性」(例えばデザインの美しいアクセサリー)である。
簡単に言えば、立体商標が機能性を有しない場合、登録が許可されない。
以下に、いくつかの判例を通じて、中国における立体商標の機能性に関する司法審理を説明する。
1)広東可味社のバラチョコレート
係争商標は立体的なバラの標識「」であり、独創性が低く、且つバラの花と「チョコレート、キャンディ」などの商品はいずれも、記念日のプレゼントとして使用するという関連性がある。
可味社が「チョコレート、キャンディ」などの商品をバラの花の形状にし、商品の外観、造形などによって、消費者の購買意欲に影響を与えたいという願いは、商品に実質的な価値を持たせるための形状を使用する行為に該当し、関連公衆が商品の出所を識別する商標として識別され難く、登録商標として有するべき顕著な特徴を有しない。
2)優凱(YOUKAI)社の透明水滴洗濯剤の包装
係争商標「」は、完全に同一である3つの「コンマ形状の透明水滴」が中心を取り囲んで、先端と末端をつなぎ合わして構成された円形及び正方形の外枠により構成された立体標識である。「洗濯剤」などを指定商品として使用される場合、当該種類の商品を貯蔵する包装に該当し、標識自体が機能性を有し、関連公衆に商標としてではなく、「洗濯剤」類商品の包装として識別されやすく、商品の出所を識別する役割を果たせず、商標として有するべき識別力に欠ける。
3)瑞普索(REPSOL,S.A.)社のオイル缶形状の容器
係争商標「」は、色を指定した立体的な「オイル缶」形状の容器であり、缶体上半部には、容器形状に沿って白色の下地に図形と文字の標識がデザインされている。係争商標は第4類の「工業油脂と油、潤滑剤」などを指定商品として使用され、商品自体の機能的役割を体現することで、関連公衆に商品の出所を識別させる商標ではなく、商品を入れる容器として識別されるため、商標として有するべき顕著な特徴に欠ける。 中国の司法裁判において、非機能性の審査がさほど重視されておらず、現在の多くの立体商標に係る司法判例において、識別力に重点が置かれ、機能性に言及される判決書は多く見られないことに、筆者は気づいた。現在、立法上、美学機能性を有する標識の登録可能性が排除されたものの、美学機能性の定義は依然として曖昧であり、司法機関が「実質的な価値を持たせるための形状」を認定する際に余地を残している。例えば、一部の裁判官は関連判例において、美学機能性の審査について、以下のような観点を示している。
A.立体商標が消費者の購買意欲に影響を与えるか否かを考慮すべきである。もし消費者が商品に含まれる美感に基づき、購入することを最終的に決定した場合、立体商標が実質的な価値を持っていると判断すべきである。
B.立体商標が同業者の競争機会を奪うことで、不当な競争優位性をもたらしているか否かを考慮すべきである。
筆者は、上記の審査観点が中国における今後の美学機能性の立体商標に対する審査に、明確な考えの筋道を提供し、且つ消費者の購買意欲に影響を与えないか、又は不当な競争優位性を有しない一部の立体商標の登録可能性も残していると考えている。
近い将来に、美学機能性の立体商標に係る判決が増え、中国ができるだけ早く明確な判断基準を制定できることを期待している。
V.立体商標の権利行使
上述のように、中国における立体商標の登録件数はさほど多くないため、公開された権利行使の判例も多くない。
以下のいくつかの判例から、まず、中国における立体商標の権利行使状況について説明する。
1)レゴブロックの立体商標権侵害事件
A.クレーム侵害事件
権利者「レゴ博士有限公司」の人形イメージは、レゴ玩具の人物立体商標の一つである。
被疑侵害玩具製品の帽子、服、武器などの装飾物はいずれも、取り外せるものであり、これらの装飾物が取り外したものが人形図形のイメージとなる。
そのため、被疑侵害製品は侵害に該当する。
B.民事訴訟事件
裁判所は、被疑侵害製品の正面、タグ、ファスナー先端などに使用されている「LEGO」の標識と原告レゴ社の登録商標「LEGO」とは同一であり、ショルダーベルト、タグに使用されている被疑侵害標識と原告の立体商標とは構図要素、デザインスタイル、視覚効果が類似しており、類似商標に該当する。
被告の一つである忠諾社(広州忠諾皮具有限公司)はかつて第28330367号商標を出願したが、登録が許可されなかった。
また、被疑侵害製品に使用されている図形標識と忠諾社の「ロボット小黄人」作品とは同一であるが、当該作品の創作完成日は権利者の立体商標の登録日2013年12月14日より後であり、原告レゴ社の先行商標権に対抗できない。
レゴ社の商標「LEGO」、「楽高」が玩具商品において高い知名度を有することを総合的に考慮し、被告に対して、原告に経済損失及び合理的支出計13万元の支払いを命ずる判決を言い渡した。
2)マーテルXOの立体商標権侵害事件
原告マーテル社は係争立体商標の使用と宣伝によって、関連公衆に係争立体商標を反映する特定外形の酒ビンを原告と関連づけさせ、関連公衆が類似形状のビンを見たらマーテル社XO商品と連想させることができる。
被疑侵害製品の全体的な外形及び各要素の組み合わせ方式と係争立体商標が現している特徴とは一致し、商品又は役務の出所に対する関連公衆の混同誤認を引き起こしやすいため、類似商標だと認定すべきである。
被告の侵害行為の規模が大きく、侵害期間が長く、明らかにされたネット上での係争商品の販売状況を総合的に考慮して、裁判所は、被告に対して侵害行為の即時差止め、原告に経済損失105万元(合理的支出10万元を含む)の支払い、及び「中国知識産権報」、「海峡都市報」、「温州都市報」に声明を掲載することで、権利侵害の影響を除去することを命ずる判決を言い渡した。
3)古井貢酒の酒ビン及び包装箱の立体商標権侵害事件
裁判所は、毫州某酒業会社が生産している「金井福」という原酒シリーズ製品に使用されている酒ビンと古井社が使用している包装箱とは、文字表示、ビンに装飾されている竜形の模様、及びイメージキャラクターの図面、写真などの面において微細な差異はあるものの、酒ビンのビン体、ビン蓋、ビン口の金属色の密封シール及びサイズ、包装箱の酒ビンの図案と文字の構成における位置などの高さが非常に類似し、全体的な視覚効果において関連公衆の混同誤認を引き起こしやすく、立体商標の類似に該当するため、権利侵害に該当するとして、被告に対して侵害行為の差止め及び原告に賠償額10.5万元の支払いを命ずる判決を言い渡した。
現在、中国で公開された立体商標に係る司法保護の判例はまだ多くないが、上記の判例から見れば、立体商標の登録件数が最も多い第33類の酒類メーカーが立体商標の主要な権利の保護者であることは間違いない。
上記のように、マーテル、古井貢、酒鬼酒にしても、多くの酒類メーカーは、立体商標に対する権利保護の主張が裁判所の支持を得られ、賠償額が10万元~100万元に及び、中国司法の当該区分の立体商標に対する保護を十分に体現している。
もちろん、関連酒類メーカーは、酒ビンを商品の出所を識別するものとして積極的に使用して、中国消費者に様々な商品が陳列されている商品棚からビンによって識別する習慣を養うことに成功し、関連の立体商標の司法保護のための基礎も構築した。
つまり、裁判所は現在、立体形状及び平面要素の組み合わせによる立体商標に対し、侵害対比を行う時、基本的には2017年中国50大典型知的財産権判例の一つであるヘネシー事件の観点を採用している。
すなわち、係争立体商標は原告の広範な宣伝、使用によって、高い知名度を有し、関連公衆が当該立体商標、特に立体商標における立体形状と原告とが安定的な関連性を構築している場合、当該立体商標における立体形状は商品の容器であるだけではなく、商品の出所を識別する役割を果たしている。立体形状と平面要素を組み合わせて使用することは、従来の識別機能を弱めることがなく、反対に当該ブランドとの関連性をある程度強化できる。もちろん、係争双方が同業者であるか否か、被疑侵害製品に主観的な便乗行為があるか否かなどは、裁判官が侵害になるか否か及び処罰を重くする必要があるか否かを判断する際の重要な考慮要素となる。
VI. 結び
中国における立体商標の登録及び司法保護はまだ模索段階にあり、例えば非機能性に対する審査は十分でなく、識別力を獲得するための結論は、統一した基準に欠けており、改善すべきところが多くある。立体商標の登録及び司法保護において、自由な競争をより良く保護すると同時に、経営者の正当な権益を保護し、両者の利益のバランスを図ることが、今後の重要な課題であると言える。
[出典:LINDA LIU & PARTNERS]