2024.02.20IPカナダ:「ケベックの公用語・共通語のフランス語を尊重する法律」(法案96)の規則案公開
カナダ:「ケベックの公用語・共通語のフランス語を尊重する法律」(法案96)の規則案公開
2024年1月10日、ケベック州議会は「フランス語憲章」(以下「憲章」)に対する商業やビジネスでの言語に関する規則(以下「規則案」)を提案した。
長く待たれていた規則案は法案96により導入された憲章の大幅な改正に関する包括的な指針を示すものである。
法案96「ケベックの公用語・共通語のフランス語を尊重する法律」は、2022年6月に、憲章に基づきケベック州におけるフランス語の要件を見直し強化するためにケベック州議会で採択された。
この規則案が採択されれば、商業およびビジネスでの言語に関する規則がさらに改正され、特に商品パッケージにおける非フランス語商標の使用に関する規則が明確になり、公共表示やポスターに使用されるフランス語の顕著性に関する規則が改正され、商業文書の定義が正式に拡大、標準的な組織の契約書(すなわち定型契約書)をオンラインや電話にてフランス語で提供する方法が明確になる。
規則案は45日間の協議期間を経て、2024年の夏までに可決される予定である。
規則案は、法案96の導入の結果生じた変更が実務上どのように適用されるかを明確に定めるための重要なステップであり、ケベック州で事業や販売を行う企業やケベック州の取引先と契約を結ぶ企業にとって極めて重要であり、これらの変更を踏まえ法令順守のアプローチを慎重に検討する必要がある。
主要な変更点
商品表示(パッケージ/ラベル)
・出願中(係属中)商標の取り扱い:法案96が可決される以前は、憲章はカナダ商標法で定義される非フランス語商標(コモンロー商標および係属中の商標を含む)をフランス語に翻訳することなく使用できる明示的な例外規定を定めていたため、看板、ポスター、商業広告、およびパッケージやラベル上の商標は、フランス語以外で表記することができた。
法案96は、2025年6月1日以降、この例外規定を完全に「登録」された商標に限定している。
しかし、規則案では、登録商標には出願中(係属中)商標も含まれることが明記された。
これは明らかに法案96の趣旨から大きく逸脱しており、ケベック州フランス語庁(以下QQLF)の最近の実施方針とも異なっている。
カナダ知的財産庁(CIPO)が正式に商標登録を認めるまで長期間かかることを考えると、この点は、より柔軟な運用を求めロビー活動を展開してきた産業界にとって朗報だといえるだろう。
・「商品」の明確化:法案96に基づく改正による商標の例外規定は「商品」に適用され、より一般的な商品表示(商品の包装やラベリングを含む)には適用されないため、規則案は「商品」という用語には、その容器や包装、商品に付属する文書や物品が含まれることを明確に定義している。
これは、商標の例外規定が、商品そのものだけではなく、商品パッケージや商品に付随する文書にも当てはまることを明示するものであり、今回の改正がより狭い範囲に焦点を絞ったものであるという以前の指摘を一蹴するものである。
・デジタル上の商品表示:規則案、デジタル上の商品表示(すなわち、ダウンロード可能な情報やアプリケーションを含む可能性のある「統合ソフトウェア」の表示)は、従来の商品と同様、商品表示規則の対象となる。
・「一般用語」と「記述」の定義:法案96は、2025年6月1日以降、「商標に含まれるフランス語以外の一般用語や商品記述をフランス語に翻訳することを義務付ける」という新条項があり、これが論議を引き起こす可能性がある。
規則案は、「一般用語」を商品の性質を表す1語以上の単語と定義し、「記述」を商品の特長を表す1語以上の単語と定義することで、この規則の適用をさらに明確化しようとしている。
この定義は非常に広義に解釈でき、規則が実務上どのように適用されるかの制限に言及したりするものではないことから、議論の焦点となる可能性が高い。
一方、ケベック州政府は参考資料を最近発表しており、主な英語のみの商標ブランド名は、一般用語や商品記述が含まれていても、翻訳する必要がないことを示唆する有益な内容となっている。
例えば以下の参考資料の例では、架空の商標「BestSoap」は、一般的で商品を記述するような名称と考えられるものの、英語のままで良いとされていることが明らかにわかる。
上記の参考資料は法的な根拠とはならないものの、要部となるブランド名が一般用語や商品記述の規則の適用を受けないことを示しているようだが、付随的なブランド名や派生したブランド名がどう扱われるかについては疑問が残る。
・一般用語と商品記述のプロミネンス・ルール:規則案では、フランス語以外の商標に含まれる一般用語や商品記述を、フランス語翻訳よりも目立たせたり、より優先させて使用したりすることはできないとする新たなプロミネンス・ルールを導入している。これは、フランス語と等しく顕著であることが最低条件であることを明示しているが、フランス語翻訳の一般用語や商品記述の認められうる配置(例:パッケージの前部と後部)などは明らかでなく、今後の議論の焦点となるだろう。
QQLFが、規則案により導入された他の異なる媒体(例:公共表示やポスター)に対する規定と同様に、包装上のすべての翻訳が元の言語と同じ範囲内に表示されることを求めるか否かはまだ不明である。
・猶予期間:法案96により導入された商品表示規則に準拠していない商品は、その商品(商品パッケージではない)が2025年6月1日以前に製造されたものであり、商標のフランス語版が登録されていない場合に限り、2027年6月1日まで流通、小売、販売提供が許可される。
商業文書
・ウェブサイトとソーシャルメディア:規則案は、QQLFの方針及び施行を正式に反映させ、ウェブサイトに掲載された情報やソーシャルメディアに投稿された情報は、フランス語要件の対象となる商業文書に該当すると明記している。
公共表示と商業広告
・「強調的な表記」の定義改訂:フランス語憲章における強調的な表記とみなされる範囲を定める規則は撤廃され、規則案では「強調的な表記」方法の定義がより現状に即した形で導入されており、公共表示やポスターのフランス語の文字が、フランス語以外の文字よりも同一視覚範囲内ではるかに大きな視覚的効果を持つ場合、強調的であると規定している。
・視覚的効果:強調的表記規則では、大きな視覚的効果を、(i)フランス語の文字に割り当てられるスペースが最低でも2倍大きいこと、(ii)フランス語の文字が最低でも2倍の大きさであること、(iii)公共表示やポスターの他すべての特徴がフランス語の文字の視覚的効果を減ずるような効果を持たないこと、と定義している。
一方、規則案では大きな視覚的効果を、(i)フランス語の文字が多言語の文字よりも最低でも2倍の大きさであること、(ii)フランス語の文字の可読性と永続的な視認性が多言語の文字と同等であること、と定義している。
小さな変更にはなるが、フランス語の文字をより目立たせるより実務的で柔軟かつ現実的な基準を示している。
・視覚範囲:規則案では、「同一視覚範囲」という概念を導入している。
これは、公共表示やポスターのすべての構成要素が、見る人が移動することなく同時に視覚し、読み取れる全体的な範囲のことを指す。
公共表示やポスターに表示される非フランス語の商標や企業名には、規則案で定義されているようにフランス語を伴うことが要求されている点に併せて、ケベック州政府が発表した以下の参考資料に示されるように、フランス語の存在が商標に対して顕著に優勢であることが求められるようになる。
(参考資料では、認められる表記方法の右の例において、アパレルを意味するフランス語「VETEMENTS」が顕著に優勢に表示されている)
・「公共」表示とポスター:規則案では、どのような場合に公共表示やポスターが公共的なものとみなされるかが明示されている。
しかしながら、(公共表示やポスターが)敷地外から見える場合や、ショッピングセンター内の敷地に設置されている場合、鉄塔に取り付けられた看板や、その他の独立した構造物上の公共表示やポスターについてはある程度の例外とされている。
細部にわたる規定にはなるが、これらの変更は規則の適用をより明確にするものである。
附合契約
・関連文書:法案96は非フランス語の附合契約(一方の当事者によって条件が課され、通常は交渉不可能な標準的書式の契約)の使用に大幅な制限を導入し、2023年6月1日に発効した。
非フランス語の附合契約は依然として認められているものの、附合契約を締結しようとする当事者は、まず相手方にフランス語版を提供しなければならない。
フランス語版を提供してはじめて、英文条項に基づいて相手方を英語版の契約で拘束することができる。
英文条項では、契約書そのものの言語だけでなく、契約に関連する文書も同様に英語のみとすることが一般的であるが、規則案では、何をもって附合契約の「関連文書」とするかを明確にしている。
関連文書は、(i)契約の存在を証明する文書、(ii)契約への添付が法律で義務付けられている文書、(iii)その他付随的な文書であるもの、に限定される。
後者の定義は広範であり、限定的なものではないため、英語で契約することに当事者間で合意している場合でも、翻訳要件を回避するための同程度の柔軟性が認められるかは不明である。
・契約媒体:附合契約に関する新しい規則は、紙やデジタルの契約についてはおおむね明確であるが、法案96により導入された改正は、ウェブサイト上の契約(利用規約など)や電話で締結された契約などに関しては明確でない。
規則案はこの差異を是正しようとしており、例えば、オンラインで締結される附合契約では、被締結者にフランス語の標準条項を「与える」ことにより、フランス語で提供されたものとみなされると規定している。
また電話契約では、被締結者がまず「技術的手段」を用いて関連条項を参照する機会があったことを要件としている。
しかし、これらは間違いなく答えよりも多くの疑問を生じさせるものであり、関連規定が今後の議論の重要な争点となる可能性がある。
今後の展望
規則案は、2024年2月24日まで45日間の協議期間が設けられている。
しかし、ケベック州政府がフィードバックに対応するために時間がかかることが予想されるため、規則案が最終決定されるのは2024年夏以降になる可能性が高く、協議期間中に大規模なロビー活動が行われたり、多数の(意見)提出がなされたりする場合は、最終決定がさらに遅くなる可能性がある。
最終法案が決定すれば、大半の規定は法案96の新商標規定と同じ2025年6月1日に施行されるが、附合契約に関する規定は例外であり、規則案の最終版が公表されてから15日後に施行される。
規則案は、多くの企業の憲章順守に影響を与え、これまで用いられてきた戦略ではリスクを回避できない可能性がある。
法案96の影響を十分に考慮した企業であっても、規則案がまとまれば、規則案の内容を踏まえて自社アプローチを見直す必要性が出てくるかもしれない。
ケベック州憲章に基づく多額の罰金が科される可能性がある点と、QQLFによる厳格な執行がなされる可能性がある点をふまえると、ケベック州市場に参入する企業にとって、法案96の改正がコンプライアンス上の重要な焦点であり続けることは確実である。
[出典:Baker McKenzie Canada]