2024.12.24IPEU:ノンアルコール飲料とアルコール飲料の類似性について
EU:ノンアルコール飲料とアルコール飲料の類似性について
EU当局がアルコール製品とノンアルコール製品の類比判断について方針転換したことで、飲料生産者や飲料ブランドの権利者がアルコール製品とノンアルコール製品の両者について商標権を保護することが容易になっている。
2022年の「Zoraya / Viña Zoraya」(ケースNo. R0964/2020-G)のケースにおいて、欧州連合知的財産庁(EUIPO)の審判・大合議体(the Grand Board)は「ノンアルコール飲料」は「ワイン、スピリッツ、リキュール」と少なくともわずかな(低い)類似性を有すると結論付け、ノンアルコール飲料とアルコール飲料の類似判断における方針転換を示した。
また、「風味付き炭酸飲料」と「ワイン」にもある程度の類似性があると判断を下している。
一方、「水」や「ビタミン入りスパークリングウォーター」のような商品については、従来の実務通り「ワイン、スピリッツ、リキュール」とは非類似であるとの判断がなされた。
上記の審判・大合議体の判断は従来の考え方とは異なるものであった。
もともと「ビール」と「ノンアルコール飲料」(いずれもニース国際分類の第32類に分類される)は、「ノンアルコールビール」の存在と「のどを潤す性質」が双方にあることを理由として、EU当局は両者に低い類似性があると判断していた(ケースNo. T-99/01)。
一方で、2021年以降、EU当局は第32類の「アルコールフリー/脱アルコールワイン」といった特定の商品が第33類の「ワイン」と類似するとみなされる可能性を認識しつつあったものの、「ワイン、スピリッツ、リキュール」(ニース国際分類の第33類に分類)とより広範な商品である「ノンアルコール飲料」との間の類似性については認めない方針を示していた。
具体的には以下のような見解が示されていた。:
単に両者を混ぜ合わせたり一緒に消費や販売したりできるという理由だけで、アルコール飲料とノンアルコール飲料が類似しているとはみなすことはできない。
なぜなら、アルコール飲料とノンアルコール飲料の性質、意図されている目的や使用はアルコールの有無によって異なるからである(ケースNo. T-150/17)。
ノンアルコール飲料の目的は「のどを潤すこと」(ケースNo. C-416/04 P)と爽快感を得ることである。
このような目的は、アルコール度数の高いアルコール飲料に期待される典型的な目的とは異なるものである(ケースNo. T-584/10)。
したがって、第32類の大半のノンアルコール飲料は、第33類の大半のアルコール飲料とは非類似であると考えられる(ケースNo. T-195/20,R1720/2017-G)。
一方、近年になり消費者の健康意識の高まりにより飲料業界は大きく変化しており、「NoLo(=ノンアルコール/低アルコール)」飲料の需要が急増し、飲料メーカーもこの流れに適応する動きを見せている。
「Zoraya / Viña Zoraya」のケースにおいては、このような業界と消費者の変化を考慮し、審判・大合議体は従来とは異なる判断を下したのだ。
まず、従来の考え方とは異なり、審判・大合議体は商品に含まれるアルコールの有無にとどまらず、両者の製造工程の類似性、流通経路や使用方法の同一性、特性の類似性といった複合的な観点を考慮し、また両者の消費者が重複する点や市場競争が激化している点も考慮した。
この審判・大合議体の検討アプローチの変化は、飲料業界の(ノンアルコール飲料をめぐる)変化によってアルコール飲料とノンアルコール飲料のブランド保護が同じように影響を受ける現状を当局が認識した結果であるといえる。
最終的に審判・大合議体は、「ノンアルコールワイン、脱アルコールリキュール/スピリッツ」といった商品がより一般的になっていることを認識したうえで、このような商品は「ノンアルコール飲料」と完全に非類似とみなすことは不適であり、両者は少なくともわずかな(低い)類似性を有すると結論付けた。「Zoraya / Viña Zoraya」のケースはスペイン市場のみ対象とするものであったが、EUIPOはその後、より広いEU市場のケースについても同様の解釈を示している。具体的な例は以下のとおりである:
アルコール飲料のノンアルコール版を製造し、両者を同じ販売ルートで流通させるこ
とが飲料業界の近年のトレンドになっている。(ケースNo. R1716/2022-1,
R0651/2022-5,R0685/2022-5)
ノンアルコールの代替飲料が市場でますます増えていることは注目に値する(ケース
No. R595-2023-4)
ノンアルコール飲料は、アルコールを摂取できないまたは摂取しない消費者が、アル
コール飲料と同じ状況で消費することを想定している。
つまり、消費者はノンアルコール飲料をアルコール飲料の代替品として認識するため、
両者は競合商品とみなされるべきである。(ケースNo. 003191442)
ソフトドリンクとアルコール飲料は、その構成成分とアルコールの有無において区別
されるものの、消費可能な飲料として共通する特徴がいくつかある。
両者とも(中略)人が消費する飲料物の選択肢の一つであり、使用方法も共通している。
両者とも競争が激化する市場環境にあり、両者は異なる点がある一方で、共通した性質
や味を往々にして有するため、アルコール飲料とノンアルコール飲料を選択する機会は
消費者にとって日常的なものになっている。(ケースNo. R1239/2022-4)
以上のとおり、飲料メーカーにとって喜ばしい解釈が次々となされている。
つまり、アルコール飲料またはノンアルコール飲料のいずれかの登録商標があれば、EU全域で(アルコール飲料またはノンアルコール飲料の両者を保護する)より広い権利範囲を保護できることは明白である。
商品の類似性を検討する際にはこちらの表が参考になるだろう。
様々なアルコール/ノンアルコール飲料の類比に関するEUIPO審判部の判断がまとめられている。
[出典:HGF]