2021.01.26IPカナダ:実店舗がなくとも「ホテルサービスの提供」を認める
カナダ:実店舗がなくとも「ホテルサービスの提供」を認める
ヒルトンホテルの最上級ブランド「Waldorf Astoria hotel(ウォルドルフ・アストリア・ホテル)」のカナダでの使用をめぐってMiller Thomson LLPとHilton Worldwide Holding Inc.が争っていたが、この度カナダ連邦控訴裁判所は、実店舗でサービスを提供しなくとも、「ホテルサービス」について商標の使用を証明することができると判断した。
この事例はカナダにおいて実店舗を持たずに需要者にサービスを提供するブランドおよび商標所有者にとって重要な指針となる。
このケースは、カナダで「Waldorf Astoria hotel(以下、「本件商標」)」を商標登録したHilton Worldwide Holding Inc.(以下「Hilton」)に対し、Miller Thomson(以下「Miller」)が登録後連続して3年間不使用であるとして、かかる期間の使用証拠を求めたことから始まる。
Hiltonは第三者の予約システムを通じてカナダの需要者に当該商標のホテルサービスを提供していることを強調して主張した。当時はその予約システムで約41,000人のカナダ人需要者が国外のWaldorf Astoria hotelに宿泊し、50万カナダドルの客室売上高率を生み出したこと、1,300件以上の予約がカナダ人需要者によるものであることなどを述べたが、ホテルサービスの範囲を狭義に解釈した過去の判例に基づき、Trademarks Opposition Board(TMOB:商標異議申立委員会)は、カナダにおいて、実店舗としてホテルがないことは致命的であり、よってWALDORF ASTORIA商標の登録を取り消すと決定した。
Hiltonはこれを不服とし、新たな証拠を提出のうえ連邦裁判所に上訴した。
・Hiltonのホテル予約オペレーションとカナダにおけるポイントプログラムの詳細
・「Waldorf Astoria hotel」の出願当時、カナダ特許庁によって維持されていたGoods and Services Manual には「hotel reservation services(ホテル予約サービス)」が認められる表現として掲載されていなかった事実
連邦裁判所はこの主張を認め、TMOBの審決を覆し本件商標の登録維持を決定した。
Millerはその判決を不服とし、連邦控訴裁判所に上訴した。控訴裁判所は本件商標の使用証明について以下3点について検証した。
1.需要者・商標所有者の視点から、通常の商業的意味に基づいてサービスの範囲を決定する
TMOBはHiltonが証拠として提出した予約サービスを認めず、ホテルサービスを狭義に解釈して登録取消を決定したが、Hiltonによれば、「ホテルサービス」という用語はホテル業界では「予約サービス、予約・支払いサービス、ホテルの部屋へのアクセス」を含むと慣習的に理解されていたが、重要なことは、ホテルは顧客が宿泊前に部屋を予約し、宿泊し、支払いをすることができない限り、運営することができない、そのため、予約や支払いサービスはホテルサービスの提供に不可欠であった、ということである。
「ホテルサービス」というこの通常の商業的意味は、Hiltonがカナダで本件商標の使用を確立したかどうかという問題の核であった。
連邦控訴裁判所は、「ホテルサービス」にはホテルの部屋へのアクセスに加えて、予約や支払いサービスなどの付随サービスが含まれることを認めた。
2.登録の意味が進化することを認識して、商品及びサービスを解釈する
商標登録で使用される用語の意味は時間の経過と共に変化することがあり、特に、ここでのように、オンライン商取引において急速な発展があった場合には、商標所有者と顧客の両方による用語の通常の商業的理解に疑いなく影響を及ぼすことがある。連邦控訴裁判所の見解によれば、出願人はGoods and Services Manualの正確な文言に従わなければならないわけではないが、Hiltonは1988年に本件商標が登録されたときにGoods and Services Manualに記載されていた用語を使用することには過失がなかった。
インターネット以前の時代からの登録の範囲を、Goods and Services Manualの現行バージョンの文言に照らして解釈したことは誤りである。
3.サービスには一次サービス、付随サービス、補助サービスが含まれることを認識し、サービスを自由に構成すること
Venice Simplon-Orient-Express, Inc v Société Nationale des Chemins de fer Français SNCFのケースでは、連邦控訴裁判所は鉄道サービスがヨーロッパでのみ提供されているにもかかわらず、「鉄道及び旅客サービス」という旅行サービスはカナダで提供可能であると指摘した。Venice Simplon-Orient-Expressでは裁判所が当該サービスには「電車による旅客の輸送に関して行われる付随的なサービス又は活動」が含まれていること、及び「旅行代理店によるカナダでの予約及び発券サービスは、権利者によるカナダでのそれらサービスを構成している」と判示した。
TMOBの他の決定は、「ホテルサービス」の提供がホテル予約サービスおよびロイヤリティプログラムサービスを包含し得るとした。これに基づき、連邦控訴裁判所は需要者、購入者又はカナダの公衆の構成員がそれらの活動から実質的な恩恵を受けている限り、それはサービスであると主張した。
従って、連邦裁判所が「ホテルサービス」には予約や支払いサービスなどの他の付随サービスが含まれると判断したことに誤りはなかった。
商標権利者には、連邦控訴裁判所が強調しているように、使用に関わるケースでは、商標権者が提供する証拠の質が重要であり、以下のような種類の証拠が役立つ可能性がある。
・マークを表示しているウェブサイトにカナダ人がアクセスした回数を示すウェブサイトメトリック;
・同マークに関連してオンラインサービスを利用したカナダ人の人数に関する証拠;
・インターネットを介してカナダの需要者に提供されるサービスの価値に関する売上高の数値、およびウェブサイトによって提供されるコンテンツがカナダにあるサーバに格納されていることを示すエビデンス;
・カナダの消費者を広告のターゲットにし、金額をカナダドルで記載すること;
最終的には、商標所有者がカナダで行うサービスから、カナダの人々が重要な利益を得ることができることを立証する証拠を提供したかどうかということが肝要である。
商標所有者はカナダ人がアクセスするウェブサイトを設計し、購入者の出身国による販売、ロイヤルティ会員、および報酬ポイントの償還を監視する際に、これらのカテゴリの有用な証拠を考慮すべきである。
また、カナダに所在する需要者に提供される利益を考慮し、消費者及び商標所有者の双方の観点から、現在の商品及びサービスマニュアルに基づき、通常の商業用語でそのような利益を説明するために、新たな商標出願を作成する際にも注意が払われるべきである。
[出典:Smart & Biggar]