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商標・著作権・特許・意匠・ドメインネームなど、知的財産権全般にわたる世界中の出来事を集約。
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2006.02.25IP商標権と商号権の衝突(中国編)


前書き

「商号」とは、商人がその営業活動において自己を表示する名称。
商号の選択は自由ですが、一営業につき商号は一つしか持つことができず、商人は一つしか商号を持てません。

他人が不正目的で自己の商号を使用する場合は差止めなどをすることができます。また、「商標」とは、自己の取扱う商品又は役務を他人のものと区別するために、自己の取扱う商品又は役務に使用する標章のことです。

中国では、商号を「企業名称」、商号権を「企業名称権」と称するようですが、以下の説明においては、「商号」、「商標」とします。



同一区域・同一営業分野で制限される

商号(社名)が権利化されるためには、商号登記が必要です。
つまり、商号登記されていれば、商号は自動的に商法によって商号権として権利化されていることになります。
この場合には著名な商号であろうがなかろうが、商法によって保護されることになります。

但し、商法上での権利保護の範囲は一定の区域(市区町村)に限られ、その区域内では同一名称や類似の商号を持った会社は、同一の営業分野では登記できないことになっています。つまり同一の商号、あるいは類似した商号の会社でも他の市区町村であれば、設立できることになり、それを差止める効力は商法にはないということです。

また、同一の営業分野で登記できないということは、言い換えれば、他業種の会社ならば登記が可能ということにもなります。
例を挙げると、日本産業株式会社が運送会社だとすると(定款の目的の中に運送を業とすることが明記されている)、その他の業種であるビルメンテナンス(これも定款の目的に明記されている)の会社が日本産業株式会社と名のっても、登記が許されることになります。



中国ではどうか

国家工商行政管理局の「商標と商号に生ずる若干の問題の解決に関する意見」(1999年4月)は、商標権と商号権は共に法が定める手続きを経て確立した権利であり、商標法及び商号登記管理法によりそれぞれ保護されると明記し、それぞれの取得に当たっては、民法通則及び不正競争防止法にいう信義誠実を原則とし、不正を目的として他人の商標や商号の信用を利用してはいけないとしています。同意見書の第6条は、「商標と商号の混同を解決する場合、公平な競争を維持し、最先の合法的権利者の利益保護を原則としなければいけない」と規定しています。

前記6条の混同とは、

  1. 他人が登記した商号を構成する屋号と同一又は類似の文字を商標登録されたことで、公衆の間で商号所有者と商標権者の混同・誤認を生じさせる
  2. 他人の登録商標と同一又は類似する文字を商号中の屋号部部として登記し、公衆の間で商標権者と商号所有者の混同・誤認を生じさせる、と定義しています。


2つの権利の衝突と解決方法

商号の登記手続きは、地方工商行政管理局商号登記部門(以後「AIC」という)で行なわれます。商標と商号が混同する事件処理の原則は、

  1. 商標と商号が混同することに因り、最先の権利者の合法的利益に損害が生じているか
  2. 商標が登録され、かつ、商号が既に登記されている、
  3. 商標登録日又は商号登記日から5年以内に事件処理の請求する、

となっています。

但し、悪意による登録又は登記による場合は、この限りではありません。
商標権者又は商号所有者が自己の権益に損害を被っていると認めたときは、書面でもって国家工商行政管理局又は省クラスの工商行政管理局に訴えることになります。事件が同一省クラスの行政区域において発生したときは、省クラス工商行政管理局が処理しますが、省を跨いでいる場合は、国家工商行政管理局が処理にあたります。



日本企業は先手を打つ

日本企業が多く進出している広東省では、日本の有名企業の商号を不正目的で登記する事件が勃発しています。
上述で解るように、2つの権利が衝突した場合には工商行政管理局がその処理を行ないますので、商号登記を認めた商号登記部門がAICの一部門であること、地元企業との癒着、あるいは最先の合法的な権利者保護という原則等を勘案するに地元企業又は私人に先を越されると、よほどのことがない限り商号の抹消請求や変更は難しくなり、法外な金銭を支払わざるを得ないことになります。

このようなことから、全ての省で商号を登記するのは非現実的ですが、最低限、社名での商標登録は急務だと考えます。



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