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2007.08.27IP「連結法人に係る移転価格事務運営要領」の一部改正


「連結法人に係る移転価格事務運営要領」の一部改正

2007年6月「連結法人に係る移転価格事務運営要領」の一部改正が通達された。
これは、移転価格税の算定法に関する事前確認の申し出等についての新たな定めに関するものである。

国外関連者との関係における移転価格税制については、「租税特別措置法」の「国外関連者との取引にかかる課税の特例」(第66条の4)に記載されているとおり。この制度自体は従前から存在するが、その適用算定に関しては、納税者側、徴収側間での認識の齟齬が問題となっていた。

他方、経済のグローバル化・企業の海外展開の拡大傾向に伴って、昨今、とりわけ国外関連者間の移転価格税に関する国税庁の対応はシビアである。ひとたび更正が必要と判断されれば、巨額な更正額の追徴税が課されるなど事業への影響が深刻化する。

そこで、今回の運営要領の改正では、移転価格税に関し、納税者側と、徴収側(いわゆる国税庁)双方が納得できる形で税の調整ができるよう、運用要領の一部が改定され、事前確認の申請や事前相談制度が設けられた。

解説

移転価格税制については、近年、適用されるケースが急増してきた。
生産コスト削減を求め、労働力の安い海外に製造拠点を設ける企業が増えてきたからだ。

製造拠点として海外に設けた現地法人は、関連企業といえども独立企業である。よって、親会社(あるいは本社)と呼ばれる日本法人とは、法人対法人という独立企業関係にある。その一方、現地法人の収益は、特許権・ノウハウ・商標権といった無体財産を拠りどころにしている。

(図1 出典:連結法人に係る移転価格税制の適用に当たっての参考事例集)

特許・商標といった無体財産の移転(ライセンスも「移転」の概念に入る)が関連企業間で行われた場合、この「移転」は、独立企業間での無体財産に関する「取引」に該当。すると、取引に係る税の徴収が行われて当たり前。かかる「移転」取引が発生した場合には、第三者間取引と差別化を図ることなく税を徴収します、というのが「移転価格税制」の趣旨。

ここまでは非常にシンプルな話。「なるほど、ならば移転価格税を支払いましょう」と納得できるだろう。

ところが、「税額はおいくら?」といった段階でとたんに大きな壁にぶち当たってしまうのだ。これは

  1. 無体財産の移転価格に関する適正価格が不明確
  2. 二重課税のおそれ(いわゆる追って補充手続)が認められる。
  3. なにをもって関連企業への「無体資産の供与」とみなすのかがあいまい
  4. 関連企業者間の無体財産の移転に関して,明確な定めをしていない

といった理由による。

要するに移転価格税制の適用がいまひとつ透明性・的確性・妥当性にかけるのだ。
少なくとも納税者側である企業はそう認識していた。納税者側と国税庁間の算定方式に関する共通認識が欠けるがゆえに、企業の側の適正価格と国税庁の適正税額に大きな隔たりが生じる。その結果、昨今、移転価格税制に基づく巨額な追徴課税処分がなされた企業が急増。海外子会社との取引価格はあくまで適正であるとして、異議申立を行う企業も少なくない。

納税者側の不満と片付けられないこともないのだろうが、納税者が納得・理解を得なければ、徴収する側としてもやりにくい。いきなりさかのぼって巨額な追徴税(企業の中には571億の追徴税が課されたところもある)が課されてしまうと企業が活動できず、結果として、日本の産業の発達を阻害しかねない。
そこで国税庁は移転価格運営要領の改正を検討。経済産業省等に意見を求めた後、今回の運用要領の改正の通達にいたったのである。
この運用改正のポイントは

  1. 事前確認審査が設けられることになったこと
  2. 事前確認の申し出前に事前相談ができると明言された

ことだろう。

移転価格税制に基づく追徴課税の恐ろしさは言うまでもない。「移転価格税制追徴課税」のキーワードでインターネット検索するだけで、夏のお化け屋敷真っ青の恐怖を味わうことができる。

なお、無体財産の移転に関する適正かつ上手な管理手段の一つに「無体財産の信託」なる信託ビジネスが存在する。特許権・商標権といった無体財産の原所有者(たとえば、日本企業本社)と無体財産の利用者(たとえば、特許権に基づき商品の製造を行う海外法人)との間に信託銀行等の信託会社に入ってもらい、特許権を信託財産として設定する。信託会社を通じて、利用者に実施権を設定し、利用者からの実施料は信託会社を通じて配当として委託者である原権利者に戻ってくるという仕組み。移転価格税制との関係で、信託のメリットをあげるならば、信託段階では課税されず、受益者段階になって課税されるという点だ。

(図2 出典:大和総研 信託業の新たな事業機会No.1)

まずは関連企業間でどんな無体財産が動いているのか確認し事前相談からはじめよう。
無体財産の洗い出しについては知財の専門家の協力を、国税庁との事前相談のやり方については税の専門家のアドバイスを受けるとよいだろう。



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