「商標管理」と聞いて、何から始めればよいか分からず困っていませんか? 商標管理は、更新漏れや海外での権利トラブルなど、企業のブランド価値に直結する重要な業務です。しかし、複数ブランドを扱う企業や海外展開を進める企業では、「何から手を付けるべきか」「どこまで管理すれば十分なのか」が分かりにくく、担当者が負担を感じるケースも少なくありません。
本記事では、実務担当者が押さえるべき基本から、業務設計の方法、効率化ツールの選定、外部サービスの活用まで分かりやすく解説します。商標管理の仕組みを理解し、自社に最適な管理体制を構築するための実践的なガイドとしてお役立てください。
1.商標管理とは?
商標管理の全体像を把握するため、まず対象となる業務範囲を確認し、次に適切な管理が求められる背景を見ていきます。
商標管理の基本的な範囲
商標管理とは、自社の商標権を適切に維持し、ブランド価値を守るための一連の業務プロセスです。その範囲は、商標の出願から権利維持、そして侵害監視に至るまで、商標のライフサイクル全体に及びます。
具体的には、出願番号や登録番号、区分、指定商品・役務といった基本情報をまとめた台帳の作成・管理、更新期限の管理と手続き、日常的な使用証拠の収集・保管、市場における類似商標の監視などが含まれます。これらの業務は相互に関連しており、一つでも疎かにすると権利維持やブランド保護に支障をきたします。
各業務の具体的な進め方については、2章で詳しく解説します。
なお、商標侵害の対策や対処については以下の記事をご覧ください。
商標侵害(商標権侵害)対策ガイド─侵害時の対処や警告への対応・予防策
なぜ商標管理が重要なのか?実務上のリスクと背景
商標管理を怠ると、企業は以下のような深刻なリスクに直面します。
❖ 期限切れ・未更新による権利喪失
更新期限を過ぎると商標権が消滅し、他社に同一または類似の商標を取得される恐れがあります。長年築いてきたブランドが一瞬で失われるリスクです。
❖ ブランド重複・類似商標での混同
社内の複数部門が独自に商標を出願した結果、類似ブランドが乱立し、消費者の混乱を招くケースがあります。一元管理がないと防止が困難です。
❖ 海外展開時のトラブル
商標ブローカーによる先取り出願や、国ごとの法制度の違いによるトラブルが起こりやすくなります。事前の調査と適切な出願戦略が必要です。
❖ M&A時の知財資産への影響
商標権の状況が不明確だと、M&Aの際に企業価値の評価に影響し、取引の遅延や破談につながるリスクがあります。
このように商標管理は、単なる事務作業ではなく、企業の継続とブランド価値を守る戦略的な業務といえます。
2.実務で押さえるべき商標管理の基本ステップ
実際の商標管理では、台帳整備・期限管理・証拠保全という3つのステップを着実に実行することが求められます。
商標台帳の整備と情報の一元化
保有する商標を漏れなく把握し、必要な情報を検索しやすい形で管理する台帳の整備が第一歩です。Excelなどでの管理には限界があるため、件数が増えたらクラウド型システムへの移行も検討しましょう。
❖ 管理すべき基本項目
出願番号・登録番号、出願日・登録日、区分と指定商品・役務、権利者名、対象国・地域、更新期限、担当者・担当部門を最低限リストアップします。これらの項目を漏れなく記録することで、権利の全体像を把握できます。
❖ 分類設計と検索性の向上
担当者別・部門別・ブランド別での分類により、検索性が大きく向上します。製品ラインごとのタグ付けや地域別フィルタリングなど、業務の実態に合わせた設計が有効です。特に複数人が同時編集する場合や、担当者の異動が多い場合は、商標管理システムの導入がおすすめです。
更新期限・アラート管理の徹底
権利を維持するには、更新期限を正確に把握し、確実に手続きを実行する仕組みが必要です。
❖ 更新時期の確認方法
登録証に記載された登録日を確認するか、特許庁の「J-PlatPat」(特許情報プラットフォーム)で商標登録番号を検索することで、登録日や次回更新期限を把握できます。
海外商標の場合も、各国の特許庁データベースから検索が可能です。
マークアイでは、下記のページにて各国のデータベースを一覧でまとめています。
各国商標データベース一覧 | 株式会社マークアイ
❖ アラート設定の実践
Googleカレンダーなどに更新予定日を登録し、1年前・6か月前・3か月前と段階的にリマインダーを設定します。商標管理システムを導入すれば、担当者へ自動で通知が届くため、更新漏れのリスクを大幅に低減できます。
使用実績の証拠化と整理
継続して3年以上使用していない商標は、不使用取消審判によって取り消される可能性があります。日常的な使用証拠の収集と保管が重要です。
❖ 有効な使用証拠の例
商品パッケージ、商品タグ、パンフレット、Webサイトのスクリーンショット(URL・日付入り)、商標が明確に確認できる商品の写真、取引書類(請求書や納品書など)などが該当します。
❖ 登録内容との整合性の確認
登録商標と著しく異なる書体やデザインでの使用や、指定商品・役務と関係のない商品への使用は、証拠として認められないことがあります。一方で、社会通念上同一と判断される範囲の違いであれば、使用実績と認められる可能性もあります。定期的に登録内容と実際の使用状況を照らし合わせ、不整合があれば新たな出願や権利範囲の見直しを検討しましょう。
3.商標管理ツールの選択肢と専用システムの必要性
商標管理を効率化するには、自社の状況に適したツールを選定することが不可欠です。ここでは、管理ツールの段階的な進化と、それぞれの特徴・限界を解説します。
商標管理ツールの4段階と各特徴
商標管理のアプローチは、企業の成長段階や管理体制に応じて以下の4段階に分類できます。
❖ 段階0:管理なし(代理人任せ)
弁理士や特許事務所に出願・更新業務をすべて任せ、社内では管理しない状態です。件数が極めて少ない場合には成り立ちますが、社内にノウハウが蓄積されず、事業拡大時に対応が困難になります。
❖ 段階1:Excel・スプレッドシートでの自主管理
最も導入しやすい方法ですが、いくつかの限界があります。
● 台帳設計や項目の定義を独自に行う必要があり、商標管理の知識がないと適切な設計が難しい
● 担当者ごとのフォーマットの違いによって属人化が進み、引き継ぎ時に混乱を招きやすい
● 標準ではアラート機能が備わっておらず、手動の管理に依存するため更新漏れが発生しやすい
● 同時編集や編集履歴の追跡が難しく、情報の整合性や最新性を保つのが困難
ただし、商標件数が10件未満など、案件が少なく担当者が固定されている場合には選択肢のひとつとなります。
❖ 段階2:汎用的な有料管理ツール(一般SaaS)の活用
プロジェクト管理やタスク管理ツール、汎用データベースソフトを活用して管理する方法です。
● 管理テンプレートが用意されているため、ゼロから台帳設計をする必要はありません
● クラウドベースで複数人での同時編集が可能であり、情報共有がしやすくなります
● タスクや期限の管理機能により、簡易的なリマインダー機能を活用することも可能です
ただし、商標専用の設計ではないため、区分や指定商品・役務の管理、各国の法制度への対応などは自社で補完する必要があります。商標実務に関する専門的なサポートも基本的には提供されません。
❖ 段階3:商標専用管理システムの活用
商標業務に特化したクラウド型の専用ツールを活用する方法です。
● 区分や指定商品・役務、各国の法制度対応といった商標特有の管理項目が標準搭載されている
● 出願・更新・監視など、商標のライフサイクル全体と連携可能
● コンサルティングや導入支援がセットになっていることも多く、運用定着がスムーズに進む
なお、商標管理システムには、自社サーバーに構築する「オンプレミス型」と、インターネット経由で利用する「クラウド型」がありますが、初期費用や導入速度、保守の容易さなどの観点から、現在はクラウド型が主流となっています。
こうした商標専用システムの代表例として、マークアイが提供する「TMODS®」があります。
大規模な権利管理や複数部署での運用が求められる場合に、情報の一元化や属人化の回避、更新漏れの防止といった効果を発揮します。
専用システムへの移行を検討すべきタイミング
以下のような状況に該当する場合、商標専用システムへの移行を検討すべき時期といえます。
● 保有商標が50件を超える、または年間で10件以上の新規出願がある
● 複数拠点や部署で商標を管理しており、情報が分散している
● 海外展開を行っており、各国制度や言語に対応した管理が求められている
● 担当者の異動や退職が多く、管理が属人化している
これらに該当する場合、Excelや一般SaaSでは限界があり、ミスの発生や対応遅れといったリスクが高まります。専用システムの導入により、業務の効率性・正確性・継続性が飛躍的に向上します。
ツール選定時の確認ポイント
商標管理ツールを選ぶ際には、以下の機能面・運用面の両方を確認しましょう。
❖ 機能面のチェックポイント
● 登録期限や更新期限の自動通知(アラート)機能があるか
● 登録商標の状況を可視化するレポート機能があるか
● ブランド別・国別・事業部別などの柔軟な分類や検索が可能か
● 複数ユーザーでの共同管理、アクセス制限の設定ができるか
❖ 導入・運用面のチェックポイント
● 既存のExcelデータなどからの初期データ移行支援があるか
● 導入前に機能を体験できるトライアルやデモ環境が提供されているか
● クラウドセキュリティやバックアップ体制が明確か
● 操作マニュアルや問い合わせ対応などのサポートが充実しているか
特に導入稟議を行う際には、商標更新漏れによる金銭的損失(再出願・ブランド再構築コストなど)を定量的に示すと、承認が得やすくなります。
4.外部専門家との連携とワンストップサービスの活用
商標管理が高度化・複雑化すると、社内リソースだけでは対応が困難になります。ここでは、外部専門家との効果的な連携方法と、統合的なサービスを活用するメリットを解説します。
商標管理における外部連携の必要性
商標管理のすべてを社内で完結させるのは現実的ではありません。業務の性質に応じて外部専門家を活用することで、効率と品質の両立が可能になります。
❖ 外部委託が適している業務
● 出願前の先行商標調査(類似商標の有無確認)
● 出願書類の作成と提出
● 拒絶理由通知への対応(意見書・補正書など)
● 更新手続きの代行
● 異議申立や審判などの法的対応
● 類似商標の出願監視やネット上の侵害調査
これらは法的判断や専門知識を要するため、弁理士や特許事務所への委託が一般的です。
❖ 外注と内製の判断基準
以下の4つの観点から検討するのが有効です。
● 専門性の観点:法的対応は専門家に、台帳管理や期限確認などの定型業務は社内でも対応可能
● 件数の観点:年間の出願件数が少ない(5件未満)場合は外注中心、多い場合は一部内製化を検討
● 費用の観点:外注コストと社内人件費・教育コストを比較し、長期的に判断
● 体制の観点:知財担当者の有無や将来の育成計画、引き継ぎリスクなども加味
❖ 効果的な外注活用のポイント
全業務を外注または内製のどちらかに決めるのではなく、業務ごとに柔軟に使い分ける体制が現実的で効果的です。たとえば専門性の高い業務は外部に依頼し、日常的な管理業務は社内で完結させるのがおすすめです。
社内管理と外部業者の情報分断という課題
外部専門家を活用する際、しばしば課題となるのが「情報の分断」です。
社内の管理台帳と、弁理士・特許事務所が持つ情報が別々に存在すると、以下のような問題が発生します。
● 社内担当者が最新の出願・審査状況を把握できない
● 外部事務所への問い合わせ・資料請求に時間がかかる
● 情報の不一致によって重複出願や更新漏れが発生
● 担当者交代時の引き継ぎが煩雑になる
この課題を解消するには、社内と外部専門家が同じ管理システム上で情報を共有できる「共通プラットフォーム」の導入が効果的です。出願状況や審査経過をリアルタイムで確認できるほか、やり取りの履歴も記録され、引き継ぎもスムーズに行えます。
マークアイのワンストップサービスとTMODS®(ティーモッズ)
株式会社マークアイは、商標に特化した知的財産サービスを提供する専門企業です。商標調査から出願・登録、クラウド型管理システム、侵害対応まで、商標のライフサイクル全体をワンストップでサポートしています。
なかでも、マークアイが提供する「TMODS®」は、商標管理に特化したクラウド型の専用システムです。区分、指定商品・役務、各国の法制度など、商標特有の管理項目が標準で備わっており、複雑な台帳設計をする必要がありません。また、更新手続きなどの対象となる権利のリストアップと期限のリマインドが付帯することで、権利失効のリスクを大幅に軽減でき、さらに、可視化された権利状況レポートにより、経営層への迅速な情報共有も可能になります。
❖ ワンストップサービスとの統合
TMODS®の最大の特長は、マークアイが提供する各種商標サービスと統合されている点にあります。出願前の使用可能性調査や類似商標の有無を確認する「先行調査」、提携弁理士による出願・登録手続きの「出願・登録サポート」、さらに類似商標の出願監視やオンライン上での不正使用を早期に検知する「侵害監視サービス」まで、すべての機能をTMODS®上で一元的に利用可能です。
これにより、社内の知財担当者と外部専門家が同一のシステムを通じてリアルタイムで情報を共有でき、調査依頼から出願指示、審査経過の確認、侵害対応に至るまで、業務のすべてをシームレスに連携させることができます。情報の分断がなくなり、迅速かつ正確な意思決定が可能になります。
❖ ルール作成サポートによる導入負荷の軽減
TMODS®では、導入初期のルール策定や運用フロー設計もサポートしています。これにより、商標管理の知識が十分でない企業でもスムーズに導入でき、すぐに実務に活用できます。
商標管理に課題を感じている方や、新たに体制を構築したい方は、まずは専門家への相談から始めてみてください。マークアイでは、各企業のニーズに応じた最適なソリューションを提案しています。
詳しくは、TMODS®のサービスページをご覧ください。
まとめ
商標管理とは、自社の商標権を適切に維持し、ブランド価値を守るための戦略的な業務です。商標の出願・更新・使用証拠の保全から、侵害監視や期限管理に至るまで、多岐にわたる業務を適切に遂行することが求められます。
本記事では、商標管理の基本的な業務範囲や重要性、実務上の3つの基本ステップ(台帳整備・期限管理・使用証拠の保全)を紹介しました。また、Excelや一般SaaS、専用管理システムなど、商標管理ツールの選択肢と進化の過程、外部専門家との連携の必要性についても解説しました。
商標管理は単なる事務作業ではなく、企業の成長戦略や知的財産の価値を最大化するための土台です。管理体制を整えることで、更新漏れなどのヒューマンエラーを防ぎ、M&Aや海外展開時にも強いブランド基盤を築けます。
効率的な管理には、自社の状況に応じた段階的なツール導入と、外部サービスとの柔軟な連携が不可欠です。
株式会社マークアイは、商標に特化した専門企業として、先行調査から出願、更新、侵害監視まで、商標のライフサイクル全体をワンストップで支援しています。クラウド型商標管理システム「TMODS®」を中心とした共通プラットフォームにより、社内と外部専門家の情報を一元化し、効率的かつ正確な商標管理を実現します。
商標管理の体制に不安がある方や、これから本格的な管理を始めたい方は、まずはお気軽にマークアイまでご相談ください。
商標管理システムTMODS®
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