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2022.09.06IPフィリピン:SIMカードとソーシャルメディアの登録義務化


フィリピン:SIMカードとソーシャルメディアの登録義務化

第1.はじめに
数年前から、フィリピンではSMSを利用した詐欺やソーシャルメディア荒らしが深刻化している。
SMSを利用した詐欺の多くは、大企業の懸賞に当選したという虚偽情報や、コロナ禍によるフィリピンの失業率悪化に乗じた実在しない仕事のオファーなどの偽情報を送信するものである。
被害件数の増加を受け、国家プライバシー委員会(National Privacy Commission)はGlobe Telecom、Smart Communications、Dito Telecommunity、Lazada、Shopee、複数の銀行など、フィリピンの通信、銀行、電子商取引プラットフォームの主要企業のデータ保護責任者 (Data Protection Officers)に対し、最近急増している個人情報を悪用したスパムメールに対する防止策やさらなる対策について報告を求めた。
また、Facebook、TikTok、Twitterなどで誤報やフェイクニュースが横行し、ソーシャルメディアへの関心が高いフィリピン国民の世論や政治的視点、情報に対する信頼性に大きな影響を与えている。
そのためフィリピンは、組織的な情報操作の格好の標的とされている。
この状況に対応するため、フィリピン議会は、SIMカードとソーシャルメディアのアカウントを登録することを義務付けるSubscriber Identity Module (SIM) Card Registration Act(以下「SIMカード登録法案」という)を通過させた。
これに対し、ドゥテルテ大統領は、2022年4月15日、拒否権を行使し、フィリピン議会に法案を差し戻した。
これを受け、多くの議員が法案を成立させるよう働きかけており、今後、両院の3分の2以上の賛成をもって同法案が成立する可能性があるフィリピン憲法第6章第27条(1))。
今後の成否が注目される同法案の主要なポイントは、以下の通りである。

第2. SIMカード登録法案のポイント
1 目的(法案第2条)
本法案は、情報通信技術が国家の存立と成長、発展に不可欠であることを認識しつつも、これが濫用されることが国民の生命、財産、公衆及び国家の安全につながることから、SIMカードおよびソーシャルメディアのアカウントの登録を義務付け、SIMカードおよびソーシャルメディアの利用に対する社会的責任を促進するとともに、かかる不正利用を阻止し、解決することを目的としている。

2 適用範囲(法案第3条)
本法案は、SIMカードを購入するすべての自然人及び法人を対象としている。
SIMカードは、IMSI番号を記録し、携帯電話の利用者を特定し認証するために使用するカードとされており、日本で言及される場合と同様である。
他方で、ソーシャルメディアアカウントに関しては明確な定義づけがされておらず、その適用範囲は明確ではない。

3 SIMカードおよびソーシャルメディアアカウントの登録義務(法案第4条)
本法案は、公共電気通信事業者(PTE:Public Telecommunications Entity)に対し、SIMカードの販売及び利用に供するにあたって、同法案に従って定められるガイドラインに沿ってSIMカードの登録をすることを義務付けている。
また、全ての既存の加入者も、法律の施行日から180日以内にPTEに登録することが義務付けられ、登録しない場合、PTEはSIMカード番号及び登録を無効化することが可能とされている。
また、ソーシャルメディアアカウントのプロバイダーも同様に、アカウント登録時にユーザーの実名と電話番号を使用することを義務付けている。

4 登録情報の開示(法案第10条)
本法案に基づいて収集されるユーザーの個人情報(氏名、生年月日、住所など)は、2012年個人情報保護法(Data Privacy Act)の規定に基づきPTE又はソーシャルメディアプロバイダーが開示義務を負う場合などのほか、第三者に開示することができないこととされている。

他方で、本法案は、登録情報の開示が許容される場合として、特定の携帯番号またはソーシャルメディアアカウントが犯罪または不正行為に利用されているとする告訴に対する捜査のために必要で、かつ利用者を特定できない場合を定めており、この場合、PTE又はソーシャルメディアプロバイダーはすべての責任を免れるとされている。
また、かかる目的を達するため、PTE又はソーシャルメディアプロバイダーは登録情報を10年間保存することとしている。

5 外国人のSIMカードの登録(法案第5条e)
外国人がSIMカードを購入する場合、以下の登録が義務付けられる。
滞在期間30日以内の観光客については、パスポート及びフィリピン国内での滞在場所を証明する資料を提示の上、氏名、パスポート番号、滞在場所を登録する必要がある。

就労者や学生などの滞在期間30日以上の滞在者に関しては、上記に加え、外国人登録証明書識別カード(ACRI-Card:Alien Certificate of Registration Identification Card)、および外国人雇用許可証(AEP:Alien Employment Permit)または学校のIDを提示する必要がある。

6 罰則(法案第11条)
本法案には罰則が定められており、違反の内容や行為態様、行為主体に応じて、1万ペソ以上100万ペソ以下の罰金または6年以上の懲役刑が科される。


[出典:One Asia Lawyers]


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