2024.09.25IP中国:拒絶査定不服審判事件における商標同一・類似拒絶事由に関する対策の分析
中国:拒絶査定不服審判事件における商標同一・類似拒絶事由に関する対策の分析
近年、中国では悪質な商標登録出願に対し、中国国家知識産権局による取り締まりが強化されている。
2022年に行われた商標拒絶査定不服審判請求のうち、拒絶を克服し初歩査定がなされたのはわずか23.3%であり、中国での商標権利化が難しいことがデータから読み取れる。
〇絶査定不服審判事件における商標同一・類似拒絶事由に関する対策
審査においての拒絶または部分的拒絶通知の主な拒絶理由は以下があげられる。
1. 先行商標との同一又は類似、2.誤認、3.悪影響、4.識別性不備、5.その他拒絶理由
ここでは、上記の理由の中から「先行商標との同一又は類似」を理由に拒絶を受けた場合の有効な反論・対策について実例を踏まえ分析し説明する。
▶拒絶査定不服審判において商標自体の非類似を争う
商標類似の判断において、当局の判断基準はますます厳しくなっている。
拒絶査定不服審判請求において、出願商標の独創性・引用商標との外観/称呼/概念の相違を主張するのみでは成算は高くない。
しかし、過去の実務からみると以下のような状況に該当する場合は請求する価値があると言える。
(1) 引用商標と類似する文字または図形が、商標の識別力の弱い部分に該当する場合
上表①の事例においては、家の図形は第36類の「不動産の貸与」及び「商品物件不動産の販売」等の役務において明らかに識別力が弱い。
②の事例においては、文字 “浄”は、第11類の「汚水浄化槽」等の商品において識別力の弱い漢字と言える。
こういったケースは、不服審判請求において、文字または図形が一般的なものであり関連する指定商品役務において識別力が弱く一社で独占されるべきではないと主張することで一定の効果があるだろう。
事例③においては、出願商標の「Studio」の文字はサイズが小さく一般的な単語であるため識別力が弱い。
識別部分である「bibilee」と組み合わせることで引用商標と区別可能という主張が審査官に容認された。
(2) 出願商標と引用商標が共に他の識別要素を有する結合商標である場合
事例④⑤のように、図形部分は一定の類似性があるが、他英文や漢字と組み合わせており引用商標にも区別要素がある場合には、類似しないという主張が容認される可能性がある。
事例⑥で出願人は引用拒絶を受け、不服審判請求を行ったが覆らず、「Smash」を追加し事例⑦の商標を再出願した。事例⑦でも引用拒絶を受けたが、不服審判請求にて「Smash」と「惠立洁」で区別可能であるため類似しないと主張したところ、文字構成・称呼・概念において区別可能であると審査官が容認し最終的に登録に至った。
つまり、商標において識別力の弱い文字・図形が理由で拒絶を受けた場合、または出願商標と引用商標にそれぞれ区別可能な要素がある場合には、一定の成功例があり不服審判請求を行う価値があると言える。
〇不服審判請求におけるコンセント(共存同意書)の提出
過去、中国では不服審判請求においてコンセントが提出されれば基本的には容認されていたが、現在は審査が厳しくなっている。
現在は、審査官が出願商標と引用商標が同一または類似の商品役務に共存することで混乱を招く可能性があると判断すれば、たとえコンセントが提出されていたとしても拒絶される。(出願人と引用商標権利者が関連会社であったとしても、類似関係を構成している場合は引き続き拒絶される。)
〇不服審判請求において審理中止制度を最大限活用するケース
2023年6月、中国当局は審判事件の中止事由に関する基準を公開し、引用商標の権利状態が未確定であることを理由に審理中止を請求するケースが増加している。
現状、審理の中止は必須の場合のみを原則としている。審理において、引用商標の権利状態の特定が審理結果に実質的な影響を及ぼす場合のみ中止が適用される。
不使用取消請求・異議申立・無効審判請求等の手続きから1年未満で権利状態が不確定の状況にある場合は、審査官が審理中止を受け入れる可能性が高い。
これまで述べたように、現状中国では拒絶通知に対する不服審判請求の全体的な勝算は高いと言えないが、拒絶理由を各ケースの状況に応じ慎重に分析することで審判の勝算率を最大限に高め、商標の権利化に向けたしっかりした基盤を築くことができると言える。
[出典:LINDA LIU&PARTNERS]