商標の豆知識商標の豆知識不使用取消審判とは?
商標を取り消す要件・手続き・費用について解説

2026.06.02

              

商標登録制度の運用においては、実際には使用されていない登録商標が存続しているケースも見られます。不使用取消審判とは、登録商標が実際には使われていない場合に、その登録の取消しを求めることができる制度です。請求する側・される側のどちらにとっても、制度の仕組みと対応策を理解しておくことは、ブランド保護の観点から重要です。
本記事では、日本国内における不使用取消審判を中心に、その基本から請求する場合・された場合の対応、日頃の商標管理のポイントまで解説します。ぜひ最後までご覧ください。

1.不使用取消審判の基本と成立要件

不使用取消審判とはどのような制度で、どのような要件のもとで請求できるのでしょうか。まずは制度の基本を押さえましょう。

1-1.不使用取消審判の概要と成立の背景

日本における商標権は、登録後も10年ごとに更新することで、半永久的に維持できます。

しかし、実際には使用されていない商標が存続し続けると、第三者が同一または類似の名称を新たに使用・登録しようとする際の障壁となります。このような「ストック商標(実際には使用されていない登録商標)」による弊害を防ぎ、商標の円滑な流通を促進するために設けられているのが、不使用取消審判です。

根拠法令は商標法第50条で、利害関係の有無にかかわらず、誰でも請求することができます。

1-2.取消審判が認められる3つの要件

取消審判が認められるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
  ● 継続して3年以上、日本国内において使用されていないこと
  ● 商標権者・専用使用権者・通常使用権者のいずれも使用していないこと
  ● 使用についての正当な理由がないこと

「3年以上」の期間は、審判請求日を基準とした直近3年間を指します。
たとえば2026年3月に審判を請求した場合、2023年3月から2026年3月までの間に一度も使用されていないことが要件となります。

なお、「正当な理由」として認められるのは、天災などの不可抗力や、法令による規制といった特別な事情がある場合に限られます。事業の準備中であることや計画の遅延などは、原則として正当な理由には該当しません。

1-3.「立証責任の転換」と請求人・商標権者への影響

不使用取消審判において特徴的なのが、「立証責任の転換」という仕組みです。

通常の民事訴訟では、主張する側がその事実を証明する必要があります。しかし不使用取消審判においては、「使用している事実を証明する責任は商標権者側にある」と商標法第50条第2項に明記されています。

つまり請求人は「使用されていないこと」を積極的に証明しなくても審判を進めることができます
商標権者が使用実績を示す証拠を提出できなければ、取消審決が下されます。

この点は、他の審判制度と大きく異なり、請求人にとって有利なルール設計といえます
一方で商標権者にとっては、日頃から使用証拠を蓄積しておくことの重要性を示す制度でもあります。

1-4.無効審判との違い

不使用取消審判と混同されやすい制度に「無効審判」があります。いずれも他社の登録商標を取り消す手段ですが、その根拠と効果は異なります。

不使用取消審判(商標法第50条)
  ● 取消しの根拠:登録後に3年以上使用されていないという事後的な事実
  ● 審決確定時の効果:原則として審判請求の登録時以降の商標権が消滅
  ● 主な活用場面:使用実態のない先行登録商標が、自社の出願・使用の障壁になっている場合

無効審判(商標法第46条)
  ● 取消しの根拠登録時点で登録要件を満たしていなかったという瑕疵
  ● 審決確定時の効果登録時に遡って商標権が消滅(はじめから存在しなかったものとして扱われる)
  ● 主な活用場面他社の著名商標に類似している、識別力を欠くなど、登録自体に問題がある場合

自社が使用したい商標名を他社が先に登録している状況では、
  ● 使用実態がない→不使用取消審判
  ● 登録要件を満たしていない→無効審判
というように、状況に応じて使い分けることが重要です。

 2.不使用取消審判を請求する場合の準備

先行登録商標が自社の商標出願の障壁となっている場合、不使用取消審判の請求は有効な突破口になり得ます。
ただし、請求前に確認すべき事項や、並行して進めるべき手続きがあるため、計画的に進めることが重要です。

2-1.請求前の事前調査と確認事項

審判請求の前に、対象商標が実際に使用されているかどうかを可能な限り調査しておく必要があります。Webサイト、ECサイト、SNS、広告掲載物などを確認し、使用実態が見当たらない場合に、初めて請求の現実性が高まります。
なお、調査の結果「使用されていない」と判断できたとしても、商標権者が     外部からは把握できない形で     使用を裏付ける資料     を保有している可能性は否定できません。そのため、審判の見通しを過度に楽観視しないことも大切です。

使用実態の調査と並行して、以下の点も事前に確認しておきましょう。
  ● 対象商標の登録日から3年以上が経過しているか(J-PlatPatで確認可能)
  ● 取り消しが必要な指定商品・役務の範囲を必要最小限に絞れているか
  ● 請求と並行して自社の商標出願の準備ができているか

自社での調査に限界を感じる場合は、専門家への依頼が有効です。
マークアイでは「商標調査サービス」にて使用実態の調査も承っています。ぜひご相談ください。

2-2.権利確保のための新規出願のタイミング

取消審判によって商標登録が取り消されたとしても、自動的に自社が権利を取得できるわけではありません。
同時期に複数の企業が同一または類似の商標を出願している場合には、先願主義の原則により、出願日が早い者が優先されます。

そのため、取消審判の請求と並行して自社の商標登録出願を済ませておくことが鉄則です。

 3.不使用取消審判を請求された場合の対応と注意点

取消審判を請求された商標権者は、答弁書で商標の使用事実を証明しなければなりません。
ここでは、有効な証拠の要件と注意点を整理します。

3-1.商標の使用を証明するのみ有効な証拠とは

使用の証拠として特許庁に提出できる資料には、以下のようなものがあります。

  ● 商標が表示された商品・パッケージの現物写真(撮影日が確認できるもの
  ● 商標が記載された請求書・納品書・領収書(日付と取引先が確認できるもの)
  ● 商標が掲載されたウェブサイトのスクリーンショット(URLと取得日付が明示されたもの)
  ● 商標を掲載した広告・カタログ・パンフレット(発行日が確認できるもの)

これらの証拠に共通して求められるのは、「いつ」「誰が」「どの指定商品・役務に」商標を使用したかが客観的に確認できることです。
日付や取引先情報が欠けていると、証拠としての価値が低いと判断される可能性があります。

3-2.使用として認められないケース

証拠を提出しても、登録商標と実際に使用している商標の態様が大きく異なる場合には、「登録商標の使用」として認められない可能性があります。

商標法では、登録商標と「社会通念上同一」と認められる範囲での変更であれば、使用として認められます。具体的には、書体のみの変更や、ひらがな・カタカナ・ローマ字の相互変換(称呼・観念が同一の場合)などが該当します。

一方、以下のような場合は「社会通念上同一」であると認められない可能性があります。

  ● 図形・デザイン要素を大幅に変更または追加している
  ● 登録商標に他の文字や図形を付加し、印象が大きく変わっている
  ● 登録した指定商品・役務とは異なる商品・役務に使用している

また、一般市場における取引の対象とならない物への使用や、社内でのみ使用している場合も、商標法上の「使用」とは認められない点に注意が必要です。

3-3.「駆け込み使用」が無効とされる理由と対策

審判を請求された後から慌てて使用を開始する、いわゆる「駆け込み使用」は、原則として有効な使用とは認められません。

商標法第50条第2項の規定により、「審判請求の登録前3ヶ月から請求登録の日までの間」に使用を開始し、かつ「審判請求がされることを予知して」使用した場合は、原則として使用の証拠としては認められません。

そのため、日頃から継続的に商標を使用し、その証拠を時系列で蓄積しておくことが重要です。

 4.審判手続きの具体的な流れと費用

審判請求から審決確定までの流れと、特許庁に納付する費用の目安を確認しておきましょう。

4-1.請求から審決確定までの流れ

審判手続きは、大まかに次の4つのステップで進みます。

 

 審判請求書の提出
請求人が特許庁に審判請求書を提出することで、手続きが開始されます。
請求の範囲は指定商品・役務ごとに設定できるため、自社が必要とする範囲のみに絞って請求することも可能です。

審判請求の登録・副本の送達
特許庁が審判請求を受理すると、審判請求の登録が行われ、商標権者に対して請求書の副本が送達されます。
この時点以降に開始された使用は、先述の「駆け込み使用」とみなされる可能性があるため、商標権者はそれ以前からの継続的な使用証拠の準備が必要です。

答弁書の提出
商標権者は、副本の送達から通常40日以内(在外者の場合は3ヶ月以内)に、使用の証拠を添えた答弁書を提出します。
証拠を提出できない場合や、正当な理由が認められない場合には、取消審決が下される可能性が高まります。

審理・審決
特許庁の審判官(3名または5名の合議体)が双方の主張と証拠を審理し、「請求成立(商標登録の取消し)」または「請求不成立(商標登録の維持)」のいずれかの審決を下します。
請求から審決までの期間は通常6ヶ月〜1年程度で、審決に不服がある場合は知的財産高等裁判所への訴訟により争うことができます。

4-2.審判にかかる費用の目安

特許庁に納付する審判請求料は、1区分あたり55,000円です(2026年3月時点)。
複数の区分にまたがる商標を対象とする場合は、区分数に応じて費用が増加します。そのため、請求範囲を必要最小限に絞ることが、費用を抑えるうえでは有効です。

弁理士・弁護士に依頼する場合の専門家報酬は、依頼先や案件の複雑さによって異なります。特に、証拠収集の支援や答弁書の作成を含む場合は費用が高額になる傾向があるため、事前に見積もりを確認しておくことが重要です。

 5.不使用取消審判の請求を未然に防ぐ商標管理のポイント

不使用取消審判を請求されるリスクを低減するためには、日頃からの商標管理が欠かせません。ここでは、実務で意識すべきポイントを整理します。

商標の継続的な使用と証拠の蓄積
まず基本となるのは、登録商標を実際に使用し続け、その証拠を日常的に蓄積しておくことです。

商標ポートフォリオの棚卸しと使用状況の把握
保有商標が増えるにつれて、どの商標がどの商品・サービスに使用されているのかを正確に把握することは難しくなります。そのため、定期的に商標ポートフォリオの棚卸しを行い、各商標の使用状況を事業部門に確認する体制を整備することが求められます。

ライセンス先の使用状況の管理
ライセンス先(専用使用権者・通常使用権者)が適切に商標を使用しているかどうかについても、商標権者として確認する必要があります。
ライセンス契約に使用状況の報告義務を盛り込むことが有効です。

不要商標の整理とポートフォリオの最適化
今後使用する見込みのない商標については、更新コストをかけて維持し続けるのではなく、権利を整理することも検討すべきです。
商標ポートフォリオを定期的に見直し、最適化することが重要です。

 まとめ

不使用取消審判は、使用されていない登録商標(いわゆるストック商標)を排除する「攻め」と、自社の商標権を守る「守り」の両面において重要な制度です。
請求する側は、立証責任の転換という制度上の優位性を活かしつつ、並行して新規出願を進めることが権利確保の鍵となります。一方、請求される側にとっては、日頃からの継続的な使用と証拠の蓄積が重要であり、駆け込み使用が認められない以上、事後的な対応では間に合いません。
商標は登録して終わりではなく、継続的に使用・管理することで初めてブランド資産として機能します。不使用取消の制度は国によって要件や手続きが大きく異なるため、海外に商標登録を有する企業は、グローバルな視点での対応が不可欠です。
 

株式会社マークアイでは、使用実態調査を含む「商標調査サービス」や出願・更新手続きのサポートに加え、商標管理に特化したクラウド型システム「TMODS®(ティーモッズ)」を提供しています。日本国内からグローバル対応まで精通した専門家が、貴社の商標をしっかりお守りします。
不使用取消審判への備えも含め、まずはお気軽にご相談ください。
商標は登録して終わりではなく、継続的に使用・管理することで初めてブランド資産として機能します。不使用取消の制度は国によって要件や手続きが大きく異なるため、海外に商標登録を有する企業は、グローバルな視点での対応が不可欠です。
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