商標の豆知識商標の豆知識商標を嫌がらせで先取りされた?
悪意ある冒認出願(先取り商標)への対処法

2026.06.02

              

自社のブランド名や社名が、他人によって商標登録されていた――。こうした事態は、決して珍しいものではありません。
退職した元社員、ライバル企業、あるいは商標ブローカーによる"嫌がらせ"的な冒認出願(先取り商標)は、大企業に限らず起こり得る問題です。日本は「先願主義」を採用しているため、どれほど長年使い続けてきたブランドであっても、商標登録をしていなければ権利を主張するのが難しくなります。
本記事では、冒認出願の4つの典型パターンと、出願中・登録直後・登録から時間が経過したケースそれぞれの対処法を、日本国内・中国・台湾に分けて解説します。すでに被害に遭っている方はもちろん、今後に備えたい方も、ぜひ最後までご覧ください。

1.「冒認出願」はなぜ起きるのか?

冒認出願(先取り商標)を理解するためには、まず日本の商標制度の基本原則と、典型的な悪用パターンを押さえることが重要です。

1-1.商標の先願主義とは

日本の商標制度は「先願主義」を採用しています。これは、同一または類似の商標が複数出願された場合、原則として使用実績や知名度ではなく「先に出願した者の権利を優先する」というものです。

そのため、どれほど長年ブランドを使用していても、商標登録をしていなければ権利の主張が難しくなります。「有名だから大丈夫」「長く使っているから問題ない」といった認識は通用しません。

こうした制度の特性を悪用した冒認出願は、近年、日本を含む世界各国で問題となっています。日本・米国・欧州・中国・韓国の商標庁で構成されるTM5(Five IP Offices)においても、実態調査や対策の検討が進められています。

1-2.冒認出願の主なパターン

TM5の国際調査でも確認されている冒認出願の典型パターンは、大きく以下の4つに分類できます。

  代理人・取引先による横取り
業務上の関係を通じて商標の存在を知り、権利者に無断で自らの名義で出願するケースです。
また、悪意による横取りだけでなく、「自国でまだ商標が取得されていない」と知った正規代理店が、善意で先に権利化してしまうケースもあります。こうしたケースでは、取引関係解消後に権利を譲渡してもらえず、トラブルに発展することも少なくありません。

日本の商標法第53条の2では、代理人が無断で登録した場合、権利の取消を求めることができると定めています。

  フリーライド(便乗)型
他社ブランドの知名度に便乗し、同一または類似の商標を出願して不正な利益を得ようとするケースです。
消費者の間で広く認知された商標は、日本の商標法第4条第1項第10号・第19号により保護されますが、知名度が十分に高まる前に出願されてしまうと、対応が難しくなる場合があります。

  退職者・ライバル企業による妨害・嫌がらせ
役員を含む元社員や競業他社が、業務を通じて知り得た社名やブランド名を先に出願するケースです。
報復や競業妨害を目的とすることが多く、「嫌がらせ」と呼ばれる典型例です。

  商標ブローカーによる転売・ライセンス料狙い
実際に使用する意思がないにもかかわらず、大量に商標を出願し、本来の権利者に対して高額で売却したり、ライセンス料を請求したりするケースです。組織的に行われることもあります。

 2.日本国内における冒認出願の対処法

被害に気づいたら、まず特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で相手方の商標の現在の状況を確認しましょう。「出願中」なのか「登録済み」なのか、また登録済みであれば「いつ登録されたか」によって、取れる対応策は大きく異なります。

2-1.出願中の商標への対応:情報提供制度

相手方の商標がまだ出願中(審査中)の段階であれば、特許庁の「情報提供制度」を活用することで、登録を阻止できる可能性があります。

これは、商標の登録要件を満たしていない理由や不登録事由に該当する情報を、特許庁の審査官に提供する制度で、1997年に施行されました。無料かつ匿名で、誰でも提出が可能です。
商標の使用実績や出願の不正性を示す証拠資料は、できるだけ早い段階で、かつ多く提出するほど審査官の判断を後押しします。

主な拒絶理由として用いられる条文は、以下のとおりです。

 商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)
公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標に該当する場合に適用されます。
出願の経緯に社会的相当性を欠くと認められるケースが対象であり、ニュース報道を知ったうえで先回り出願を行ったと認定された過去の事例でも、本条を根拠とした取消しが認められました。

 商標法第4条第1項第19号(不正目的出願)
他人の周知商標と同一または類似であり、不正な利益を得る目的や、他人に損害を与える目的が認められる場合に適用されます。

 商標法第3条第1項柱書(使用意思の不存在)
出願時に使用意思が認められない場合に適用されます。商標ブローカーのように、使用する意思がないまま出願しているケースで有効です。

2-2.登録直後の対応:異議申立

登録公告(商標掲載公報への掲載)から2ヶ月以内であれば、「商標登録異議の申立て」が可能です。この手続きは誰でも行うことができ、申立て理由は2-1で挙げた条文が中心となります。申立てにあたっては、取り消すべき理由を法律上の根拠と証拠の提示とともに、具体的に説明する必要があります。

費用は、特許庁への手数料として3,000円に加え、1区分ごとに8,000円が必要です(1区分の場合は合計11,000円)。専門家に依頼する場合は別途費用が発生します。
意義が認められれば、登録は取り消されます。

2-3.利害関係人の場合:無効審判

異議申立の期間を過ぎた場合でも、請求人が利害関係人に該当する場合には「商標登録無効審判」を請求できます。

ただし、無効審判は異議申立とは性質が大きく異なります。
審判手続きである以上、無効理由を裏付ける証拠収集や、主張の論理構成が求められるため、審理が長期化し、高コストとなるケースも少なくありません。異議申立と比べて、はるかにハードルの高い手段である点に注意が必要です。

商標法第4条第1項第10号・第19号などを理由とする無効審判は、原則として登録から5年以内が請求期限となります。一方で、第7号(公序良俗違反)を理由とする場合は、5年経過後であっても請求が可能です。
実務上は、弁理士や弁護士への依頼がほぼ不可欠となります。

2-4.「不使用取消審判」による対応

無効審判のハードルが高い場合でも、相手が実際に商標を使用していない場合には、別の手段が考えられます。

たとえば、金銭目的の商標ブローカーが出願したケースでは、商標が実際には使用されていないケースが多く見られます。まずはWeb検索や市場調査によって使用実態を確認するか、専門家に使用調査を依頼するとよいでしょう。
マークアイでも、独自のネットワークを駆使した「商標調査サービス」を提供しています。

商標登録日から継続して3年以上、指定商品・役務について登録商標が使用されていないことが確認できれば、「不使用取消審判」を請求できます。
不正な出願意図の立証が不要であるため、使用実態のない商標ブローカー案件では、比較的有効な手段といえます。

2-5.「先使用権」の主張と直接交渉

上記のいずれの手段でも解決に至らない場合、主に次の2つの選択肢が残されます。

「先使用権」の主張
相手方の出願前から継続して日本国内で当該商標を使用しており、かつ一定の周知性が認められる場合には、商標法第32条に基づき、使用を継続できる可能性があります。
ただし、周知性の立証は容易ではないため、専門家への相談が不可欠です。

 相手方との直接交渉
商標権を適正な価格で譲り受けたり、使用許諾(ライセンス)契約を締結したりすることで、実務的に解決するケースもあります。
ただし、相手方の素性が不明な場合は交渉の前提すら整いません。その場合は、Web検索や市場調査で確認するか、専門家に調査を依頼することが推奨されます。
マークアイでも、「商標調査サービス」にて会社・個人調査サービスを提供しています。

 3.冒認出願を未然に防ぐ出願戦略

冒認出願への最も確実な対策は、問題が発生する前に手を打つことです。
出願と監視をセットで継続することが、ブランドを守るうえでの基本となります。

3-1.早期の商標登録

先願主義のもとでは、自社商標の早期登録が、冒認出願への最大の抑止力になります。

「まだブランドが育っていないから」「有名になってから登録しよう」と考えていると、第三者に先を越されるリスクがあります。
原則として、使用開始直後、あるいは使用開始前の段階で出願することを検討しましょう。

また、出願にあたっては、現在使用している区分だけでなく、将来の事業展開や冒認出願されやすい隣接区分も見据えた「戦略的な出願」を行うことが重要です。これにより、権利の空白を最小限に抑えることができます。

3-2.継続的な商標ウォッチング

 

商標登録後も、継続的な監視(ウォッチング)が欠かせません。
第三者による類似商標の出願を早期に把握できれば、2-1で紹介した情報提供制度を活用して対処でき、登録後の異議申立や無効審判と比べて大幅にコストを抑えられます。

ウォッチングは、日本国内であれば「J-PlatPat」、海外であればマークアイが公開している「各国商標データベース一覧」を活用して定期的に新たな出願がないかを確認することが可能です。

ただし、類否判断は専門性が高く、自社のみで正確に判断するのが難しいケースも少なくありません。そのため、専門機関への依頼がおすすめです。
マークアイでも、専門家による「商標ウォッチングサービス」を提供しています。

 4.中国・台湾における冒認出願の対処法

2章では日本国内の対処法を解説しましたが、海外では商標制度が国ごとに大きく異なるため、現地の制度に即した対応が必要です。
ここでは、特に冒認出願の被害が多い中国・台湾に焦点を当てて解説します。

4-1.中国における対応:「異議申立」と「著作権」

中国は、日本企業が冒認出願の被害を受けやすい代表的な国の一つです。
著名な日本ブランドが中国企業に先取り登録され、訴訟に発展した事例も多数報告されています。

中国も先願主義を採用しているため、日本での登録や中国での使用実績は、原則として権利の根拠にはなりません。
冒認出願を発見した場合の対抗手段を、商標登録の前後に分けて説明します。

 

異議申立(登録前)
初期査定公告から3ヶ月以内であれば、異議申立てが可能です
自社が中国国内で先に当該商標を使用しており、なおかつ一定の知名度があることを示せれば、第三者の出願が不正であると主張できます

ただし、その主張が認められるためには、中国国内での使用実績の証拠(販売記録、広告資料、展示会出展記録、新聞・雑誌掲載記事など)を早期かつ大量に準備する必要があります。

取消裁決(登録後)
認可登録公告後は取消裁決の申請が可能です
悪意ある登録の場合を除き、原則として登録公告日から5年以内が請求期限となります。

著作権による対抗
ロゴや図形が、著作権法上の著作物性(創作性)を有し、デザインとして著作権による保護の対象となり得る場合、中国で著作権登録を行っておくことで、第三者の商標登録に異議を申し立てたり、使用を差し止めたりできる可能性があります。

4-2.台湾における対応:著名性による違い

台湾においても、冒認出願への対抗手段として「登録異議の申し立て」や「無効審判の請求」があります。

ただし台湾では、これらの手段の有効性が「著名商標かどうか」によって大きく左右されます。
著名商標として認められた場合には、異なる区分における類似出願に対しても、広く対抗することが可能です。

一方で、実務上、著名性の立証は容易ではなく、認定されないケースも少なくありません。
そのため、著名商標として認められない場合も想定し、非著名商標であっても対抗可能な根拠を並行して準備しておくことが重要です。

 5.冒認出願のトラブルはマークアイへ

冒認出願への対処には、状況に応じた迅速な判断と、国内外の商標制度に関する専門知識が求められます。対応が遅れるほど選択肢は限られ、解決にかかるコストも増大します。
「被害を受けているかもしれない」と少しでも感じたら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

株式会社マークアイは、商標管理に特化した専門企業として、延べ1,800社以上の企業を支援してきた実績があります。
冒認出願・商標権侵害への対応から、商標調査・出願、ウォッチング、中国での著作権登録サポートまで、ブランドを守るためのサービスをワンストップで提供しています。

商標調査サービス全世界を対象に、商標に関する各種調査やスクリーニングを実施し、事前のリスク確認や対策立案を支援します。

商標取得支援サービス世界200以上の国と地域に広がる現地代理人ネットワークを活かし、国内外の商標出願から登録、更新手続きまでを一貫してサポートします。

商標ウォッチングサービス約190か国を対象に類似商標の出願を継続的に監視し、異議申立などの迅速な対応を可能にします。

中国著作権登録支援サービスロゴなどのデザインを中国著作権として登録し、冒認出願への対抗手段の確保を支援します。

模倣品・侵害品対応支援サービス国境を越えて発生する侵害事案に対し、さまざまなソリューションを組み合わせてワンストップで対応します。

商標に関するお悩みは、まずはマークアイへお気軽にご相談ください。

 まとめ

冒認出願(先取り商標)は、商標登録を行っていない企業であれば、誰にでも起こり得るリスクです。日本の先願主義のもとでは、使用実績や知名度よりも「先に出願した者」の権利が優先されるため、早期登録が最大の防御策となります。

万が一被害を受けた場合は、相手の出願・登録状況に応じて、情報提供制度、異議申立、無効審判などの手段を適切に選択することが重要です。
海外展開を行う企業にとっては、現地での早期出願に加え、著作権登録を組み合わせた対策も重要です。また、ウォッチング体制の整備や出願戦略の見直しにも、早めに着手することが望まれます。
商標に関するお悩みがあれば、商標管理の専門企業マークアイへご相談ください。
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