2026.10.09

商品名やサービス名、ロゴを新たに使用・登録しようとする際、まず欠かせないのが「商標調査」です。同一または類似する商標がすでに存在していないかを事前に確認しておかなければ、出願しても登録が認められなかったり、知らないうちに他社の権利を侵害してしまったりするリスクがあります。こうしたリスクを未然に防ぐためにも、名称やロゴを正式に決定する前に調査を実施しておくことが重要です。
本記事では、商標調査の目的と種類を整理したうえで、J-PlatPatをはじめとする無料ツールを使った自社調査の方法、調査結果を正しく読み解くための基礎知識、そして専門家への依頼を検討すべき場面まで、実務の視点から解説します。
1.商標調査とは
商標調査とは、自社が使用または登録しようとしている商標と同一または類似の商標が、すでに存在しないかを確認する作業です。
名称やロゴを正式に決定する前、そして事業での使用を開始する前に実施することが重要です。この段階で問題が見つかれば、後から名称変更やデザイン変更を行う場合と比べて、軌道修正にかかるコストを大幅に抑えられます。
1-1.商標調査の目的
商標調査が必要な理由は、主に以下の2点です。
登録可能性の確認
自社が出願しようとしている商標が、特許庁の審査を通過して登録を受けられるかどうかを事前に確認することです。
先行する類似商標がすでに登録されている場合、審査で拒絶される可能性が高くなります。出願費用や手間をかけたにもかかわらず拒絶通知を受ける事態を避けるためにも、出願前の調査は欠かせません。
使用可能性の確認
すでに事業で使用している商標、または今後使用を予定している商標が、第三者の権利を侵害していないかを確認することです。
登録商標を権利者の許可なく業として使用すると、商標権侵害となり、差止請求や損害賠償請求を受けるおそれがあります。
調査は、ネーミング案を絞り込む段階から並行して進めることが理想です。広告展開や製品開発が進んだ後に問題が判明すると、名称変更に伴うコストや事業への影響は大きくなります。
調査によって問題がないことを確認したら、速やかに商標出願へ進みましょう。調査から出願までを使用開始前に完了させておくことが、ブランドを長期的に守るための第一歩となります。
1-2.商標調査の種類
商標調査は、調査対象や目的によって大きく2種類に分けられます。
先行商標類似調査(文字商標)
最も一般的な調査で、ブランド名や商品名などの文字商標について、同一または類似の商標がすでに出願・登録されていないかを確認します。
単純な文字の一致だけでなく、読み方(称呼)や意味(観念)の類似まで検討する必要があるため、自社で正確に判断するのが難しい場合も少なくありません。
図形・ロゴの調査
ロゴやマークなど図形要素を含む商標について、類似する先行図形商標が存在しないかを確認する調査です。
図形商標の調査では、ウィーンコードなどの図形分類コードを適切に選定し、複数のコードを組み合わせて検索を行う必要があります。そのため、調査方法自体に専門的な知識が求められます。
なお、海外で商標の登録や使用を検討する場合も、調査の基本はこの2種類です。
ただし、対象国ごとに利用できるデータベースや審査基準が異なるため、国内調査とは別に計画的に進める必要があります。
商標の基本的な定義や種類については、以下の記事で詳しく解説しています。
2.自分でできる商標調査の方法
商標調査の一次確認は、無料の公的データベースを使って自社で行うことができます。ただし、自社調査でカバーできる範囲には限りがあります。
ここでは、主なツールと自社調査で確認できる範囲を整理します。
2-1.主な無料ツールと役割
国内・海外それぞれに、商標調査に活用できる無料の公的データベースがあります。
J-PlatPat
特許庁が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」は、日本国内の商標出願・登録情報を検索できる無料の公式データベースです。
文字商標を対象とした「称呼検索(類似検索)」や「商標(検索用)文字列検索」、業種を絞り込むための「商品・役務名検索」、ロゴマークを対象とした「図形等商標検索」など、複数の検索機能に対応しています。
J-PlatPatの具体的な操作手順については、以下の記事で詳しく解説しています。
商標検索の方法は? J-PlatPatの使い方・海外データベース・自社調査の注意点を解説
WIPO Global Brand Database
世界知的所有権機関(WIPO)が提供するデータベースで、国際登録商標を含む複数国・地域の商標情報を横断的に検索できます。
日本語表示にも対応しており、無料で利用できるため、海外展開を検討する際の一次調査に適しています。
TMview
EUIPO(欧州連合知的財産庁)が提供するデータベースで、欧州各国に加え、提携する世界各国・地域の商標情報を一括検索できます。
欧州市場への展開を検討する場合はもちろん、多国展開に向けた一次調査にも広く活用されています。
その他の国・地域のデータベースについては、マークアイが公開している「各国商標データベース一覧」で、190か国以上の公式リンクを確認できます。
2-2.自社調査でできること・できないこと
無料ツールを使った自社調査でカバーできる範囲と、対応が難しい範囲を整理します。
自社調査でできること
- 同一または酷似した文字商標が登録・出願されていないかの一次確認
- 対象商品・サービスに関連する区分の商標情報の把握
- 海外の主要市場における登録商標の有無の概括的な確認
自社調査では対応が難しいこと
- 称呼・外観・観念を総合した類否判断
- 指定商品・役務の適切な区分設定(直感と異なる場合が多い)
- 図形商標における図形コードの適切な選定と検索設計
「検索してヒットしなかったから問題ない」と判断するのは早計です。
検索範囲の設定が不十分なまま調査を終えてしまうケースも多く、後から類似商標の存在が判明し、出願の取り下げや使用中のブランド名の変更を余儀なくされるおそれがあります。
自社調査はあくまで一次スクリーニングと位置付け、調査結果の解釈には十分注意することが重要です。
3.商標調査で知っておくべき基礎知識
商標調査の結果を正しく読み解くためには、商標が類似と判断される基準や、そもそも登録が認められない商標の条件を理解しておく必要があります。
3-1.商標の類似判断基準
商標の類否は、「同じ文字かどうか」だけで判断されるわけではありません。
特許庁の審査では、以下の3つの観点を総合的に考慮して判断されます。
称呼類似(読み方が似ている)
商標を発音した際の音の響きが似ているかどうかを基準とします。
アルファベット表記と日本語表記で文字が異なっていても、読み方が近ければ称呼類似と判断されることがあります。
日本においては3つの観点のなかでも特に重視されることが多く、自社調査では見落としやすいポイントのひとつです。
外観類似(見た目が似ている)
商標の外見的な形状や文字の構成が似ているかどうかを基準とします。
文字商標では字体・構成文字・配列の類似、図形商標ではデザインの印象が判断の対象となります。
観念類似(意味・イメージが似ている)
商標から想起される意味やイメージが似ているかどうかを基準とします。
たとえば「太陽」と「サン」は、外観や称呼が異なっていても、同じイメージを想起させるとして観念類似と判断される可能性があります。
なお、どの要素を重視するかは国によって異なります。日本では称呼が重視される傾向がありますが、海外では観念や外観がより重視される国もあります。
海外展開を見据えた商標調査では、この点にも注意が必要です。
3-2.指定商品・役務の類似
商標の類否判断では、商標そのものだけでなく、指定する商品・役務が類似しているかどうかも重要な要素です。
商標が多少異なっていても、商品・役務が類似していれば類似と判断されることがあり、逆に商標が似ていても、商品・役務が非類似であれば登録が認められるケースもあります。
商品・役務の類似は「類似群コード」と呼ばれる独自の分類をもとに判断されます。
そのため、一般的な業種区分とは一致しないことも多く、直感だけでは気づきにくい類似関係が生じることがあります。
3-3.商標の識別力
先行商標との類似がないことが確認できても、それだけで登録が認められるわけではありません。商標には、他者の商標と類似していなくても、そもそも登録が認められない場合があります。
その代表的な要件が「識別力」です。
識別力とは、ある商標が他社の商品・サービスと自社の商品・サービスを区別する力のことをいいます。
商品の特徴をそのまま表した言葉(例:「おいしいりんご」)、ありふれた氏名、一般的な記号などは識別力がないと判断され、原則として登録は認められません。
また、識別力の判断基準は国によっても異なります。
たとえばスローガンを含む商標は、同じ内容でも登録が認められる国もあれば認められない国もあり、近年は各国で判断が厳しくなる傾向にあります。
J-PlatPatなどで先行商標が見つからなかったとしても、識別力の観点から拒絶されるケースは少なくありません。識別力の有無を適切に判断するには、専門的な知識や実務経験が求められます。
4.専門家への依頼を検討すべきタイミング
自社での商標調査は、あくまで一次確認として有効な手段ですが、すべてのリスクを洗い出せるとは限りません。専門家に依頼することで、調査対象を網羅的に設定できるだけでなく、調査結果の信頼性や判断根拠の明確化にもつながります。
以下のような場面では、専門家への依頼を積極的に検討することをおすすめします。
4-1.主力ブランドや新商品名を出願するとき
企業の主力ブランドや新商品・新サービスのネーミングは、事業の根幹に関わる知的財産です。
出願後に先行する類似商標が判明して拒絶されたり、登録後に無効審判を請求されたりするリスクを最小限に抑えるためには、出願前の段階で精度の高い調査を行うことが重要です。
商標出願の手続きや流れについては、以下の記事で解説しています。
4-2.海外展開を予定しているとき
海外での商標調査は、対象国ごとに商標制度・類似判断の基準・言語が異なるため、国内調査よりも複雑です。
たとえば、英語圏では一般名称として扱われる単語が、「識別力なし」と判断され登録できないケースがあります。
一方で、英語が一般的でない国では、その単語の意味が広く認識されていないため、「識別力あり」と判断される場合もあります。
特に複数国への同時展開を検討している場合は、各国の商標法や審査実務に精通した現地代理人と連携し、国ごとの制度やリスクを踏まえて出願戦略を設計することが重要です。
4-3.類否の判断に確信が持てないとき
先行商標が見つかったものの、それが自社商標と本当に類似するのかどうかを判断できない場合は、専門家に意見を求めることが得策です。
類否判断は、称呼・外観・観念の3つの観点を総合的に評価する専門的な作業です。自社判断だけで進めると、リスクを過小評価してしまう可能性があります。
4-4.調査結果に説明責任が求められるとき
商標調査の結果は、社内の意思決定や、万が一トラブルが発生した際の説明根拠としても重要な役割を果たします。
自社でまとめた調査記録も内部資料として有用ですが、専門家による調査レポートは、調査対象・手法・判断根拠が明確に整理されているため、社内外に対する説明資料としても活用しやすくなります。
特に、複数ブランドを抱える企業や、商標をめぐる紛争リスクが高い事業領域では、専門家による調査を定期的に実施し、記録として蓄積しておくことが有効です。
まとめ
商標調査は、ブランドを守るための最初の重要なステップです。無料ツールを使えば登録済み商標の一次確認は自社でも行えますが、類否の総合判断や識別力の評価、複数国への対応など、自社調査だけでカバーするには限界があります。主力ブランドの権利化や海外展開を検討している場合は、各国の商標制度に精通した専門家による調査を活用することで、出願前のリスクを大きく低減できます。
商標の専門企業であるマークアイは、国内の先行商標類似調査から、AIを活用したスクリーニング、世界200以上の国・地域に対応した海外商標調査まで、目的や規模に応じたサービスを提供しています。
商標の自社調査に不安や負担を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 商標とは?意味・種類・機能と登録の重要性をわかりやすく解説
- 商標調査とは?目的からやり方・ツール・注意点まで解説
- 商標調査について
- ネーミング段階の調査は何をすべき?評価項目や進め方、商標リスク対策を解説
- 商標検索の方法は? J-PlatPatの使い方・海外データベース・自社調査の注意点を解説
- 商標出願の流れ
- 商標出願の手順を解説。審査の流れから海外出願まで
- 出願ルートの選択
- 出願時の注意点
- 提出書類の認証手続き
- コンセント制度の仕組みと手続き、活用方法
- 出願から登録までの各国における所要期間
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